第1話 初手プロポーズ
「どこ中? 名前は?」
「彼氏とかいるの?」
高校入学初日。
教室の自分の席に座ったばかりなのに、私の周囲には人だかりができていました。
全員、見知らぬ男子たちです。
私は平均的な女子の身長しかありませんから、その男子たちは全員私より大きいです。
そんな人たちに囲まれ、内心ではかなり怖いです。
でもそういう態度を見せたくはありませんから、毅然とした態度で振る舞います。
「人に尋ねる前にまずは自分からではありませんか?」
……少しキツイ言い方だったかもしれません。
でも、以前からこうして男子に付きまとわれることが多く、そのせいで軽く男性恐怖症な私は、笑顔でかわすという器用なことができません。
怖がっている本当の自分を見せないように、ついこうしたぶっきらぼうな態度をすることしかできません。
「そういう強気なところもかわいい」
……またです。
中学の時もそうでした。私は拒絶の意志を示しているのに、なぜかそれが好意的に受け取られてしまうのです。
なぜかわかりませんが……私の顔は、男性にものすごくウケがいいみたいなのです。本来なら良いことなのでしょうが、少々度を過ぎていて困ってしまうこともしばしば。
正直な話、男性とあまり深く関わりたくないので、できれば話しかけてさえほしくありません。
家から徒歩圏内で、偏差値もちょうどいいこの高校を選びましたが、片道一時間かけてでも同じくらいの偏差値の女子校に行くべきだったでしょうか?
「みなさん、おはようございます。新しい環境で盛り上がってると思うけど、まずは自分の席に座ってくれるかな?」
担任の先生がやってきて、私の周りにいた男子たちが散って行きました。
助かった……。
担任の先生は若い女の先生で、背がとても高い方でした。百八十センチくらいはあるでしょう。
男性の中には、自分より高身長の女性を好まない方が少なくないと聞きます。私もあれくらい大きかったら、もっと生活が楽だったかもしれません。
いえ、いけません。もしかしたら高身長は先生のコンプレックスかも。それを羨んでは、なにか失礼な気がします。
余計なことは考えずに、心静かに頭を切り替えましょう。
……とりあえず、なにげなく隣の席を見てみました。
そこに座っていたのは、とある男子の方で……さっき私を囲んでいた人の中にはいませんでした。
隣に人が集まっていたので、もしかしたらなかなか自分の席に座れなかったのかもしれません。
私が悪いわけではありませんが、少し申し訳ない気持ちになってしまいます。
隣の男子は、時折ちらっと私の方を見ます。
そういう視線は慣れています。普段なら少しうんざりする程度で済むのですが……なんでしょう、この気持ちは?
彼が私を見るたびに、なぜか胸が高鳴ります。
ドキドキして……もっと見てほしいと思ってしまうのです。
これは一体どういうことなのでしょう?
彼のことが気になって、私も彼を見てしまいます。
高校入学初日ということで、気合を入れた髪型にしている人は男女共に多いです。
しかし彼は、そこまでがんばった髪型でもなく、かといって無頓着で無造作なわけでもなく。身だしなみは整えているが、過度には手を加えない――素直で誠実な印象を受けます。
なぜ私は、今会ったばかりの方のごく普通の髪型を、これほどまでに素晴らしいと感じているのでしょう?
わかりません。わかりませんが……とにかく彼から目を離すことができません。
もっと見ていたいのです。
それに、もし目を離したら、彼が私を見てくれた瞬間を見逃すことになってしまう。それはとても惜しいことのように思えます。
見て、見てください、もっとこっちを……。
いつの間にか私は、じーっと彼のことを見つめ続けていました。
いけません。これではまるで不審者です。
気味悪がられて、私のことを見てくれなくなってしまうかも……。
「あの……俺の顔に何かついてますか?」
隣の彼が私の方を見てそう言いました。
話しかけてくれた! 私のことを見るだけでなく、声まで聴かせてくれました!
ああ、なんて素敵なお声……。
でも喜んでばかりもいられません。私が見続けていたことを気付かれてしまったのです。
どうしましょう⁉
変に思われてしまったでしょうか? 不審者だと、気持ちの悪い女だと思われてしまったかもしれません。
弁明しなければいけません。
なんとかして言い訳をしないと。
急いで考えなければいけないのに、彼の瞳に私が映っていると思うだけで頭の中は春爛漫。花が咲き乱れ、思考がまとまりません。
でも、いつまでも黙っているわけにも……。
とにかく、なんでもいいから頭の中にあることを言わないと。
「好きです。付き合ってください。結婚を前提に」
………………私はなにを言ったのでしょう?
好きです。付き合ってください。結婚を前提に――たぶんこんなことを言いましたよね?
まだ一往復の会話さえしていない相手に言うことでしょうか? 絶対に違います。
でも、なんかしっくりきました。
まとまりのない頭の中が、声に出した途端にすっきり整理された気分です。
私はこの方が好きなのです。交際して、やがては結婚したいのです。
この方のことをなにも知らないのにそう思ってしまうのではおかしいでしょうか?
でも、私がそういう気持ちを抱いたのはまぎれもない事実なのです。
変でも不思議でも、この気持ちは真実なのです。
しかし……ならばこそ、もっと慎重に行動するべきでした。
時間をかけて交流を深め、仲良くなってから告白するべきでした。タイミングは、絶対に今ではありませんでした!
男性との会話をすぐに終わらせようとする、男性恐怖症ゆえの癖が出たのでしょうか?
ああ……できるならやり直したい。
五秒でいいので時間を遡って、もっとマシなことを言いたい。
でもそんな願いは叶うはずがなく……頭のおかしな女と思われた私は、きっと彼にフラれてしまうことでしょう。
さようなら……私の初恋。もしかしたら最初で最後かもしれなかった恋心。
「あの……」
彼が再び口を開きました。
次に発せられる言葉はわかっています。「ごめんなさい」です。
「よろしくおねがいします」
……………………?




