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Session 3

翌日。


海斗

「おはようございます」


まだ人もまばらなオフィスに入った後、デスクの引き出しに私物をしまう。


勤務初日の夜、機密事項を伏せつつ今の仕事を続けた方がいいか相談した俺に、ソフィアが推奨したのは『続ける』という選択肢だった。


海斗

(まあ、考えるまでもなかったんだけどな……)


ソフィアは言葉を選んでくれたものの、要は『このご時世、お前ごときの能力じゃ再就職は無理』というごもっともすぎる理由で。


本格的に始まる仕事への不安を抱えながら、混雑する電車に揺られてきたのだった。


アリス

「海斗、おはよう!」


海斗

「おはよう」


アリス

「昨日ぶりだね♪」


眩しさすら感じる笑顔がこちらに向けられる。

しかし1日一緒に過ごしてわかったことだが、俺が特別だからというわけではなくアリスは人間全般に好意的だ。


海斗

(そりゃそうだよな、目的はあくまで女性に興味を持たせることなんだし。俺だけを好きになるアルゴリズムなんか搭載されてるわけがない)


そもそも少子化対策が目的なら異性に興味を持つというプロセスすら不要だ。

AIが世界中の人間を分析して遺伝子的に相性のいい2人に子作りをさせるなど、人権や倫理観を無視すればもっと効率のいいやり方があるだろう。


そう頭ではわかっているのに、自分がアリスにとって特別な異性ではないということを、俺はどこか面白くないと感じていた。


結望

「おはようございます」


海斗

「おっ……! はようございます」


結望

「アリスの件でお話があります。こちらへ」


考えごとをしていたせいで思わず声が裏返ってしまったものの、館花さんは特に気にする素振りもなくミーティングスペースへと歩いていく。


結望

「まずは勤務初日、お疲れ様でした。昨日1日、アリスと過ごしてどうでしたか?」


海斗

「あ……はい。色々驚きましたけど、楽しかったです」


結望

「何がどう楽しかったですか?」


海斗

「えっ? えっと……」


なんの気なしに放った言葉に突っ込まれ、慌てて答えを探す。

しかし昨日は定時まで無難にやり過ごすことに専念していたため、アリスと色々話してはいたものの内容を思い出せず、上手い答えが見つからない。


海斗

「……すみません。ちょっと言葉にするのは難しいです」


結望

「わかりました」


館花さんがタブレットに何かを記入している。

会話の流れから察するに俺かアリス、または両方の評価に関するものであることは間違いないだろう。


結望

「では本日も引き続きアリスとのコミュニケーションをお願いします」


海斗

「はい」


館花さんがミーティングスペースを後にすると、入れ替わる形でアリスがやって来た。


アリス

「ね、ね、今日は何する?」


海斗

「んー、そうだなぁ」


海斗

(今日はちゃんとやらないとな……明日も館花さんから色々聞かれるだろうし)


とはいえ男女の触れ合いに関して、俺の引き出しは限りなく少ない。


海斗

「アリスはどうしたい?」


アリス

「えっ? わたし?」


海斗

(あ……今のはまずいか)


男女平等の世においても頼りない男は嫌われる。

そんな言葉をどこかで見たことを、つい質問に質問で返してしまった後に気づく。


海斗

「ごめん、やっぱ今のなし――」


アリス

「外に行きたい!」


海斗

「え? 外?」


アリス

「うん! 今日はお天気もいいし、散歩したい!」


きっとこれも俺みたいな男に配慮したアルゴリズムなんだろう。

不機嫌になるどころか明るく接してくれるアリスの姿に、内心ホッとする。


海斗

「いやでも、外はダメなんじゃないのか? 機密事項なんだしさ」


アリス

「研究所の人が一緒ならどこでも行けるよ。もし何かあっても帰還システムで帰れるし」


海斗

「そうなのか……」


海斗

(まあ、この中だけじゃ充分な学習データも取れないもんな)


海斗

「わかった、じゃあ行くか」


アリス

「やったー!」


アリスは満面の笑みを浮かべてミーティングスペースを飛び出していく。


海斗

(そうだ、予定表更新しとかないと――)


海斗

「んん!?」


アリス

「海斗―! 早くいこー?」


海斗

「ちょ、ちょっと待って! 俺の予定表が、なんか……」


タブレットに表示された俺の予定表は、何故か既に更新されている。

のみならず、そこには恥ずかしげもなく『デート♡』と書かれていて。


海斗

(なんだよこれ、誰が――)


アリス

「あ、書いといたよ」


海斗

「お前かよ!」


アリス

「どういたしまして」


海斗

「なんで感謝が前提なんだよ、っていうか普通にハッキングだぞ」


海斗

(くそ……まだ誰にも見られてないよな?)


せっかくここで働き続けると決めたのに、痛い奴というレッテルを貼られるわけにはいかない。


俺は大急ぎで予定表を修正した後、なんともいえない居心地の悪さを感じながらオフィスを後にするのだった。

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