第7話 ブライトネス.2
フワッと風が舞い、着地した。今アオイがいるのは、ビルのような建物の上だった。6階建ての建物、地上から十数mの場所にいた。そこまでをアオイは一度の跳躍で飛び越えたのであった。力が抜けたアオイの腕からヒナミが抜け出た。彼女は状況がよく読めずぽかんとしていた。それは二体の怪物も同じだった。深々と道路に刺さった爪を引き抜き、あたりを見渡していた。当然疑問に思うだろう。自らの手で仕留めたはずの獲物がそこにいなかったのだから。
「、、ん。、、ちゃん。、、お兄ちゃん。お兄ちゃん!!」
ハッと目を開けた。視界がぼやけて何度か瞬きをした。輪郭と色彩が戻ってきて、だんだんとピントがあってきた。
「う、、あ、、、ヒ、、ナミ、、。」
声を絞り出した。小さくかすれたような声だった。目の前には涙を浮かべてアオイの体を揺するヒナミの姿があった。ヒナミの声でアオイの意識は戻ってきた。だんだんと聴覚や視力などさまざまな感覚が戻ってきて、最後には思考力も戻ってきたようだった。彼はそのビルの屋上に倒れていた。
(あれ、、、俺、、何して、、、)
ズキンッ
「うぐぁ!!!」
アオイは体を抑えて丸まった。体験したことのない激痛が身体中を駆け巡った。まるで体に直列に電源をつなげられているような痛みだった。
「お兄ちゃん!!」
ヒナミは叫んだ。目からは涙がポロポロと溢れている。必死でアオイの体を揺する。けれどアオイは体を動かすことができなかった。身体中を駆け巡る痛みがそれを許さなかった。ヒナミの叫び声で怪物2匹もこちらに来てがついたようだった。なぜあんなところにーーーそんな疑問があったかは分からないがゆっくりとこちらに向かってきた。一歩一歩歩くたびに地鳴りがする。ビルの屋上にいるのでそいつらの顔がはっきりと視認できた。そいつらの顔を見たヒナミは恐怖に飲まれ、さらに強くアオイの体を揺すった。だがアオイは先ほどの動きとは対照的に、思考どころか指一本すら動かすことができなかった。怪物達はまた腕を振り上げた。その爪の鋭さをヒナミとアオイは知っている。ビルを豆腐のように潰す力。この距離では逃れることは不可能であった。ヒナミはアオイの上に覆い被さり大粒の涙をこぼしていた。嗚咽が漏れている。涙が皮膚を伝う感覚も彼女の悲しみの声さえもアオイには届かなかった。痛みがそれを遮った。そしてゆっくりと目を閉じた。そこには諦めの気持ちしかなかった。彼の目からも一筋の光が漏れた。腕が振り下ろされた。怪物の爪が急速に迫る。痛みの中で彼は懺悔した。今何もできない自分自身を悔いた。ごめんヒナミ、守れなくてと心の中で呟いた。