6幕 測定
「え~...。わたくし、伊能忠敬と申しまッス!宜しくッス!」
次の授業(社会)では、またまたとんでもない方がお出でになられた。まず、イントネーションが絶対、変だ。さらに、最後に、「ッス」がつく。それだけ、妙に強調してるし。
全くこの学校にはまともな人はいないのか?僕はそう呆れながらも、伊能忠敬先生の話を聞いていた。
「わたくし、測定が得意なんッス!特に、距離の測定が得意なんッス!」
距離の測定か...。どうせ、小さい定規を並べるだけだろ?なんて、疑っていると、先生は
「これを見てくださいッス!わたくしの得意技のおかげで、完璧な日本地図が出来たッス!」
と言って、その地図をみんなに見せた。僕は手元の地図帳を見たあと、先生作の地図を見、その後、2つの地図を照らし合わせてみた。本当だ、完璧...って!
「写し紙じゃねぇーか!」
僕は思わず、そう突っ込んでしまう。すると、
「大正解ッス!」
と返された。何が大正解だよ。
「実は、写し紙なんッス!測定は昨日始めたばっかりなんッス!すまなかったッス!」
「よくそんなんで、偉そうに言えたな!」
先生の言葉に、思わず2度目の突っ込み。さすがに、気まずい。僕は引っ込もうとする。
「その通りッス!あなたの言っていることはいつも正しいッスね!プラス点しておくッス!」
が、その前に、伊能忠敬先生が捌いてくれた。この人、神か!と、喜んだのもつかの間、松尾芭蕉が
「ズルいぞよプラスはズルい最上川。芭蕉、文句の一句。」
と詠った。どの口が言ってんだ?そうキレそうになった時、先生は、
「それもそうッスね!プラス点は取り消しッス!」
と言って、本当にその通りになった。
もう、そこからはしっちゃかめっちゃかな言い合いだった。
「こんな奴に惑わされないでください!」
「それもそうッスね!プラス点ッス!」
「プラスなぞただのひいきだ最上川。芭蕉、文句の一句2。」
「2」って何だよ?映画かよ?
「取り消しッス!」
「だから、惑わされないで!」
「プラス点ッス!」
「ズルいとな何度でも言うぞ最上川。芭蕉、文句の一句3。」
「取り消しッス!」
「だがらっ!」
この、不条理な言い合いに終止符を打ったのはなんと、太子だった。
「妹子のこと、ズルいと思う人、手ぇ挙げて!」
太子はそう言うが、挙げたのは彼と松尾芭蕉だけ。続いて、
「妹子のこと、ズルいと思わない人、手ぇ挙げて!」
と言った。もちろん、僕は挙げた。そして、とある2人も恐る恐る手を挙げてくれた。僕は心の中で、彼らに感謝の言葉を送り、
「どうだ!」
と言ってやった。
すると、なんと言うことでしょう。バカ太子が
「こっちは、4人だしぃ!」
と言いながら両手を挙げ、バカ芭蕉もそれに便乗したではありませんか。お前ら、必死だな!小学生かよ!あっ、ついこの前まで小学生だったか...。僕は色々言いたかったが、そう思い至り、諦めることにした。
「先生、3人と4人なので、多数決でと、プラス点は取り付けてください。」
僕は、そう言った。ところが、先生が
「良いんッスか?」
と、しつこく聞いてきたので、
「いいんです!」
と言ってやった。すると、もれなくプラス点は取り消し。
そして、授業が終わると、僕は顔を伏せて、
「この学校には本当にまともな奴がいない...。」
と呟き、続いて、ため息までついた。あっ、太子だったら、「幸せが逃げるぞ」とか、子供っぽいこと良いそうだな