#6 七つの制約
第二の人生を歩むことになって、初めて敗北のようなものを味わった。自分の全力の一撃を受けてもへらへらしていた。初撃を避けられなかったこともあったために当たっただろうその攻撃は、間違いなく現在最高の一撃だっただろう。ゴーレムなどであれば近づく前に消滅するほどの風圧と近づいただけで伝わる衝撃、決して戻ることのない不可逆。当たれば、即死は免れない。…そう思っていた。
だが、結果はどうだっただろうか。最高の一撃を与えてもヘラヘラしているだけではなく、こっちの世界でいうたった四年で元通りの姿に戻ってしまう程度でしかない不可逆。腹部を貫き、下半身を破壊する程度でしかない火力。防御力に自信があったようだが、それを貫くことができたのが唯一喜ばしいことだろう。
「さて、早速改善点を考えようか」
「その前に私の話を聞こうか。ねえ、ソーラ」
「げぇ」
「何かな、その目は」
改善点を考える前に、目の前の出来事をいち早く終わらせる方法を考えるとしよう。目の前には本気で怒っているのか、いつもと若干口調が違うような気がする母様と喰いすぎて吐いている親父殿とグラムがいた。怒りのあまりに無意識のうちに、『血壊』になり、普段は隠している尻尾も現れていた。それほどまでに心配したということだろうか。
心配するなという方が無理な話だろうが、そこまで怒らないでほしかったな。まだ無謀なことに挑戦したいお年頃なのだから(前世も含め21歳)。年齢も若くなっているせいなのか、中身も若干子供っぽくなってしまっているのは難点だな。
「ソーラ、なんであんな無謀なことをしたの?」
「無謀?」
「ええ、無謀よ。本来ならグラムや猪に挑むことだって無謀なのに、クロノス様に挑むなんて…死にたいの‼」
無謀?俺が猪やグラムに挑むことが無謀?いや、それは違う。俺はそれができると思ったから、実行しただけ。猪はあの時点で『獣神モード』の俺よりも下だと言うことを認識していたから挑んだけだし、グラムに関しては猪を殺した時の血の匂いに誘われてきたから、ついでに『混神モード』で瀕死にしただけだしな。勝てるとわかっていて挑むのであれば、それは無謀ではない。
ついでに言うのであれば、この場所に来たもの暴走した妹達を止めてくれるだろう母様を探すついでに、最終的目標地点である世界最強がどの程度なのか把握するという目的があったからだった。結果、目標はまだまだ遠いことと初めての敗北を知ることができた。
「そうだね、今のままじゃ無謀だったよね。だったら…もっと進化をしていけばいいだけだ。弱いなら進化して、身体能力が弱いなら進化して、弱点を克服して、『壊神モード』じゃなくても卸せるように」
「卸す?クロノス様を?馬鹿なことを言わないでよ。そんなこと私たちにできるわけないじゃない」
「できるよ。できないわけがない。神が姿を現す時代はもう終わったんだ。今は俺たちの時代だ。その一歩を俺が開く」
お腹がすいてきたせいなのか、何を言っているのかわからなくなってきた俺。
実際、地球では既に神という存在は神話や伝説上の存在のように俺は感じていた。神代とは違い、神がいなくても世界は廻る。神が中心だった世界は消え、人間が中心となっていた。神はあくまでも神話だけの存在で、文明を切り開くのは人間たちだった。
魔法というものは消えてなくなってしまったが、この世界でも同じことができるのではないだろうか。魔法という者が実際に存在し、様々な人間以外の種族も存在するこの世界。世界最強という神を人間の手で卸すことができたのであれば、神の時代は終わり、この世界でも少しずつ文明が栄えるのではないか。
そんなに面倒くさいことは考えていなかったのだが、結果、こんな難しいことまで考えるようになってしまった。こんな建前は一切なく、ただ、強い奴と戦いたいから世界最強に挑んだだけなんだけどな!
「お前はそこまで考えていたんだな、ソーラ」
「あなた…大丈夫なの?」
「大丈夫だ、問題な…オロロロロロロロロ」
僅かにシリアスだった雰囲気を完全にぶち壊す親父殿。ある意味いいタイミングで復活してくれたような気がしなくもない。…そういえば、妹達は大丈夫だっただろうか。発情していたが。
「お兄ちゃんの心配の声を聴いて」
「私たちがと ん で き た」
確かに妹達は上空から落ちてきた。頬を赤らめ、若干目元に雫をためる姿は見るものを魅了することだろう。…その体が血まみれでなければの話なんだけどな。
俺と分かれてから一体何があったのだろうか。口元にも血がついているとことを見ると、何かを食べてきたのだろう。…この場所で食えるものと言ったら猪か鹿くらいだが…。まさか、共食いをしたわけでもないだろうし。
「近くにおっきな龍さんがいたから…」
「思わず食べちゃった!」
「あなた…この森にいる龍って言ったら」
「あぁ、あの二匹のどちらかしかいないよな。オイ、二人とも。その龍は赤かったか?それとも白かったか?」
白い龍と赤い龍、この二つから連想できるのはウェールズの伝承だろうか。赤い方はドライグで、白い方はグイベルという名前のような気がしなくもない。
「両方いたよ?ちなみに白い方は私が食べて」
「赤い方は私が食べたよ」
なんということでしょう。アクアは白い龍を、フレアは赤い龍を食べたというじゃ、ありませんか。
「なんということだ、よりにもよってあの二匹を食べるとは…」
「困ったわ。どうしましょう」
【オイオイオイ、あいつらがいなくなってくれたのは助かるが…この二人、なんで大丈夫なんだよ】
どうやらその二匹は訳ありのようだ。…ん?あいつらの背中って、あんなもの生えていたっけ?なんか、アクアは白い翼が、フレアは赤い翼が生えるような気がする。幻覚か?
「お兄ちゃん、なんか背中から生えてきた。見てみて、すっごくきれいじゃない?」
「私の方がきれいだよね、お兄ちゃん」
「…悪いんだけど、そんなに強く握らないでくれるかな?弱体化している以上、殴られただけでも死ぬんですけど」
「えぇ、お兄ちゃん今弱くなってるの⁉アクア、今がチャンスじゃん」
「そうだね。今なら既成事実を作れるね」
やばいやばいやばい。この二人、諦めてねえ。ってか、徐々に二人の顔が近づいてくるんだけど。もともとの状況が解決してねえ。
オイオイオイ、『壊神モード』の影響で最低一年は弱体化するっていうのに、このタイミングで襲ってくるんだよ。
「よし、じゃあ、四年後だ」
「ん?」
「どゆこと?」
「四年後に、俺に勝てたら…諦めるわ」
俺がシスコンではないということをな。こんな感じで襲ってくるけど、妹達は可愛いんだ。前世の妹達、瑞希と陽奈多という名前の二人。俺がいなくなってからどんなふうに過ごしているかわからないが、もしかしたらこの二人が俺の妹かもしれないって思うようになってきたんだよな。
なんせ、二人の行動が同じようになってきたからな。可愛かったのは四歳まで、五歳になるころにはどこでそんな知識を身に着けたのか、俺の貞操奪われそうだったんだよな。
「わかった。四年後までに強くなるわ、お兄ちゃんから貰った進化の力で」
「わかったわ。四年後までに強くなるよ、お兄ちゃんの中に生まれた制約の力で」
え?俺の中に既に新たな力生まれたの?早くない?しかも制約の力?何でそんなものが生まれてるの?前回の話に新たなスキルが生まれるかもよって言われて、もうできたの⁉
確認したところ本当にあったみたい。名前は『七つの制約』で、文字通り七つの制約を強制的に俺自身に与えるようだった。その制約は既に決められているようで、次の七つが制約だった。
制約一、『楽しい生活』。解放機能『遊神モード』。
制約二、『堕落の意識』。解放機能『廃神モード』。
制約三、『魔法の使用』。解放機能『封神モード』。
制約四、『殺意に目覚める』。解放機能『獣神モード』。
制約五、『精霊との協力』。解放機能『混神モード』。
制約六、『世界の敵との戦闘』。解放機能『壊神モード』。
制約七、『自分よりも強い敵』。解放機能『無神モード』。
「あぁ、なるほど、一気に体が重くなった理由もわかったな」
ここから四年はこの制約の中でどれくらい動けるか、どの程度進化できるかゆっくりと試していくとしようか。