#5 ドMと不可逆
「いやぁ、マジでゴキブリみたいだな、脆いけど数だけはいる。最初のほうは楽しかったが…もはや作業ゲーだな」
門をくぐり歩き続けること、数十分。未だに森の中央は見えないでいた。歩いても歩いても出てくるのは、最初から代わり映えのしないゴーレムのみで、その他の生物は出てきたとしても龍くらいだろうか。きっと、普通であれば恐れるだろう龍たちは、俺の姿を視界に入れた途端にどこかへ逃げ去ってしまうため、結局ゴーレム壊しに徹しながら歩くだけだった。
もはや強いとも感じない相手を木の枝を子供の用に振りながら殺していくだけなのがやはりであるがつまらない。…なんか、こう、もっと強い奴と血を流しながら戦うことができる程度には弱くしていこうか。
「でも、それをするのも、やっぱり神を卸してからだよな」
【誰を卸そうって言っているのですか?】
ん?おかしいな。このしゃべり方、この声…どこかで聞いたことがあるような気がするのだが…。でも、アレは神の空間の支配人とか言っていたからいるはずはないとは思うんだけどな。…いたとしても、本気で卸すけどな。
【悲しいですよぅ、ソーラ君。いえ、宏斗君】
「うわぁ…」
なんでこんな場所にいるんだよ、駄女神。
【今、なんでこんな場所にいるんだよ、駄女神って思いましたよね?さすがです、ソーラさん】
「駄目だこのドM。叱っても喜ぶだけだし…」
【ク、クロノス様。いきなり出て来られても困ります。ほら、クロゼとイリヤの息子ですら残念な物を見るような眼で見てるんですから】
【あぁ、その目、すごくイイ】
ちょっと、この駄女神の視線と言動に多少イラっとしたということもあり、ゴーレムを破壊することができる程度の力でデコピンを直接放つ。鈍い音を立てながら後ろへと吹き飛ばされるクロノスに、追撃を仕掛けるために地面を軽く蹴り肉薄する。
一瞬で『獣神モード』に変わり、殴りつける。拳を振るうだけで周りの背景が変わっていく。が、気にせずに殴り続ける。手応えがなくなったことに気付くと、全方位に一斉に石を投擲する。
【オイ、我がいることを忘れるなよ‼】
「仕方がないわ。ほら、グラム。私の後ろに隠れなさい」
【あ、あぁ、済まねえ】
母様に守られている狼を見ながら、背後に立っているクロノスの頭を掴み力を込めていく。人体からならないような音が地味に聞こえてくるが、神だから人とは人体の構造が違っているのだろうと考え、さらに力を込めていく。
【あぁん、最高にきもぢぃぃぃ】
「うわ、キモッ」
【その目、やっぱりいいわ!】
俺、さっきまでこんなド変態を卸そうと考えていたのか。卸そうとしようとするたびに、こんなにドMな反応を見せられると吐き気がするな。俺自体ドSってわけじゃないから、マジつらい。…誰だよ、こんな設定考えた奴。ふざけんなよ。ドMとか二次元の世界で十分なんだよ。ドMもヤンデレも。そんなのは全部二次元だけにしておけよ。
まぁ、この世界が小説の世界だったら話は別なんだがな。だとしたら、主人公は一体誰になんだろう?まさか…俺ってことはないよな。そんなことはあり得ないよな。だとしたら、この力ってあまりにも異常じゃねえ?主人公っていうのは、成長していくから面白いと思うんだよな。
【ねえ、ソー君。この世界が小説だって、そんなわけないよ。私が作った世界を侮辱するのはやめてくれないかな】
俺に頭を掴まれながら怒りの感情を浮かべるクロノス。…あぁ、その怒りの感情…最高だな。人のい勝っている姿を見るのも、その怒りに任せて殴りかかってくるのも。あぁ、楽しすぎて仕方がない。
楽しめそうだ。今の状態のクロノスだったら、俺の本気もまともに受け止めてくれるだろう。きっとまだ勝てないだろう。だが、それがいい。勝てない、目標があるからこそ進化は続く。固有スキルその物も進化して、『遊戯的な退化』はただ退化させるだけじゃなくなってきた。スキル自体も進化を始めているようだった。
「あぁ、あぁ、最高だ。その怒った表情。あぁ、全力を出したくなってしまうじゃないか。まぁ、出すんだけどな。行くぜ『壊神モード』」
俺が放つ全ての物に不可逆の属性を付け加え、『獣神モード』と『混神モード』を合わせた現状最高の状態。この状態には一切の制約はなく、文字通り全力をだすこととなっている。副作用としては、最高にハイになってしまうことだろうか。
しかし、まぁ、その副作用も元からあるものだと考えると実際合ってないようなものなんだけどな。
「さて、全力で始めるか。周りなんて気にせず楽しもうじゃんか。世界最強さま!」
【イイでしょう。最初の一撃は避けずに受けてあげましょう】
「あぁ、マジで。さすが世界最強さま」
この世界の奴らは最初の一撃を受けるというシステムでも存在するのだろうか。だとしたら、すごく楽だな。最初の一撃に全てをかける気持ちでもいいのだろう。全ての力を右手に込めて、殴ろう。
「あぁ、技名とか決めてみようか。せっかくだし」
【あのさ、そういうのあとでいいと思うんだけど】
「こういうのはその場のノリが大事なんだよ。察しろよ」
【そんなことを急に言われても無理だよ】
さて、きっといつかは恥ずかしくなるんだろうが、今はテンションを大事に頭に浮かんだ単語をそのままこれの技名にしよう。絶対に戻ることのない不可逆と神の終わりという意味を込めて神々の黄昏、この二つの要素を合わせたものがいいのだが…。
神々の黄昏はラグナロクと訳されることもあるようだし…。なんか語呂が悪いような気がするが、これでいいだろう。
「不可逆のラグナロク」
【いったぁ‼】
赤黒いオーラを纏った右腕がクロノスの腹部に直撃する。避けないと宣言した通り、実際に避けなかった。結果、俺の拳はクロノスの腹部を貫き、下半身を破壊する。上げた悲鳴は軽い物だったが、起こった出来事は俺を除く誰もが目を背けるほどの出来事だった。
そんな状態になっていてもへらへらと笑っているクロノスを見て、少しだけ気持ち悪いと思ってしまった。…いや、ドMな時点で最初から思っていたのだが。
【いやぁ、私の防御力をもってしても防げないなんてね。不可逆のラグナロク、決して戻らない不可逆と神々の終日と訳されることもあるラグナロク。…確かに神を卸すにはぴったりな名前だね】
なぜか俺が考えた技名を褒めるクロノス。その表情はどこか楽しそうで、しかし苦しそうな顔をしていた。不可逆の力のおかげだと思いたいが、実際にはどうなのか、そこらへんはよくわからない。
【さすがの私でもこの傷を癒すためには『神の空間』に戻る必要はあるね。さて、あちらの世界とこちらの世界は時間の流れが違ってね、あちらの世界での一万年はこっちの世界でいう四年なのさ。だから、四年後…その時本気で戦おうよ。それまでに私も体を治しておくからさ】
四年後というと俺は十歳か。それまでに進化を続けていればいいということだろう。進化の力そのものも、退化の力も、身体能力も全てを進化させ続け、いずれか何のモードにもならずに卸せる程度には自身を進化させておこう。
「あぁ、いいぜ。手も足も出ないくらいに進化しておいてやるよ」
【キミの成長を楽しみにしているよ、ソーラ君。ちなみに私が君に挙げた『無尽蔵の進化』は新たな固有スキルの発現の可能性を高めるだけではなく、既に所有している固有スキルを新たな形に進化します。ほら、実際にキミの『遊戯的な退化』が進化を始めているでしょう?】
確かに少しずつではあるが進化が始まっている。このままいくと元の形を一切使わないまま新たなスキルに変わるかもしれない。それはまぁ、仕方がないことだな。
そんなことを考えているうちにクロノスは姿を消していた。
この後滅茶苦茶怒られたのは言うまでもないだろう。




