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剣と魔法な異世界漫遊記!~記憶喪失、異世界ぶらり旅~  作者: 矢代大介
第4章 無を司る者〈エクストラ・ウォーロック〉
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第39話 続く旅路

「ってことは、今から近付いたら確実に魔物の襲撃とかに鉢合わせる可能性が高いわけね。……どうするの、エイジ? 危険はなるべく避けるのが得策だと思うけど」

「ああ、俺もそう思ってるよ」

 ユレナの言葉に、俺は同意の姿勢を示す。

 当然のことだろう。立ち寄ったところで命の危険が倍増する街なんてもの、流石に立ち寄る気にはなれない。恐らく、他の商人や冒険者たちも同じ考えであるがゆえに、人の流れも滞っているんだ。

「ただ、悪い噂ばかりではありませぬ」

「え?」

 そう考えていた直後、どこか殊勝な顔をしたヴィエが口を開いた。聞かされた内容とはあまりにもかけ離れた表情に、一瞬俺の思考が応答を停止する。

「確かに、拙者が聞いたのはそう言った噂が大多数にありました。しかし、それはあくまで商人から聞いた噂。……実際のところは、大量の魔物が発生すると聞いた冒険者が、一獲千金を夢想し、大挙して押し寄せているとも聞きました」

 続けて聞かされた内容は、これまた先ほどの内容とは打って変わって、かなり実入りのある話だった。

 それまでは避けて通るで満場一致だった脳内議会が、もたらされた情報でにわかにざわめき始める。議題の内容は、バレリオを通過する是非を再考だ。

「……そんな話振られたら、悩むじゃないの。ねぇエイジ?」

「ああ、俺もそう思ってるよ」

 非情に既視感を感じるやり取りを挟みつつ、俺は思案する。

 正直言えば、いまだに通り過ぎる方が手っ取り早いだろうというのが俺の考えだ。だがその考えを強行できないのは、ヴィエの話に少なくない利益……と言うか得を感じたからである。

 ぶっちゃけた話、意外と俺たちの懐事情は厳しい状態だ。確かに連日の遺跡での特訓で小金程度はたまっているが、それだけで旅を続けていけるかと言えば首を横に振らざるを得ない。旅の間で補充する消耗品なんかを加味すると、俺たちの旅はかなーりつつましいことになるのが、正直な俺たちの現状である。

 そんな状態の最中に舞い込んできた、ヴィエからのもうけ話。乗らない手はない、とは思うのだが、駆け出しもいいところである俺たちには荷が重いのではないか、と言う懸念が足を引っ張っていた。

「……懐事情的に行きたいのはやまやまだけど、俺たちで請け負えるのか不安なところだなぁ」

「魔物の強さは、本当に多種多様。強いか弱いかは出てくるまでわからないけど、魔力溜まりが多いのなら、その分取り込む魔力の量も多くなる」

「要するに、大量の魔力を吸って強くなった魔物が出る確率も上がる、ってことね。……だったら、なおさらやめといた方が良いんじゃないかしら?」

「んー、そうなんだけどなぁ……」

 同意を口にしつつ、しかし俺は考え込む。

 先述の通り、俺たちの懐事情は少々厳しい。それこそ、イレギュラーな事態が起きてお金を使うことになってしまえば、すぐさま木っ端の如く吹き飛んでいくほどしかないと言っても過言ではないだろう。

 だが、そこに降って湧いた儲け話。ユレナやチル、それにヴィエの言う通りに危険は大きいが、成功すればかなり余裕が出るはずだ。

「ねー、ひょっとして行く気?」

 半眼で少々呆れたようなそぶりを見せつつ、ユレナが聞いてくる。

「まぁ、可能であれば行きたいなとは思ってる。懐に余裕を持つのは悪くないし、何より俺たちの修業の成果だって発揮できるかもしれない。そりゃまあ、危険なところは避けるのが旅の常って奴なんだろうけど、それをさっぴいてもバレリオの一件は、結構魅力なんじゃないかな、って思うんだ」

「……ホントあなたって、時々慎重なのかギャンブラーなのかわかんないわよねぇ」

 言われてみれば、確かに俺はギャンブラーなのだろう。けれど、慎重であると同時に大胆かつ豪快なのが、冒険者なんじゃないだろうかと思うのだ。

 特に俺の場合、師と呼べる存在であるディーンさんがいるので、特にその考えが顕著なんだろう。あの人だって、魔力溜まりの中で倒れている俺を助け出すという、一歩間違えれば自分が死んでいたかもしれないという一大ギャンブルをしていたのだ。そんな人を参考にしていれば、こういう性格にもなる。はず。だと思う。たぶん。

「先立つものはお金。お父様もよく言ってた」

「偶然ね、ウチの父親もよ。……チルのお父さんって、魔王様って肩書の割には結構庶民的よねー」

「ん。お父様は、昔ずっと旅人だったから」

 不思議な共通点を見出している二人をとりあえず置いておき、俺はひとまずヴィエの方に向き直る。あまりこちらの話を長引かせると、予定もあるだろうヴィエに迷惑をかけるからだ。

「とりあえず、情報は大切にさせてもらうな。ホント、何から何までありがと」

「礼には及びませぬ。拙者にも、こうして役に立てそうなことがあるとわかったのが、何よりの自分への報酬故」

 相も変わらず謙遜の多いヴィエだが、その顔は心なしか、出会った時よりも自身に満ちているように見える。今回の戦いを通じて、彼女自身にも何かがわかったのかもしれない。

「ともかく、拙者はそろそろ馬車の発つ時刻。口惜しいながら、此処でお別れになりまする」

「そう、だな。……うん、本当お世話になった」

「何度も言わずとも、感謝は十二分に頂戴致しましたよ」

 っと、そういえばさっきから何度も言い過ぎてる。ありがとうの価値が薄れてしまうので、使うのはこのくらいにしておくのが良いかな。

「んじゃ、此処でお別れか」

「左様。……自分で言った手前で申し訳ないが、本当にお三方には世話になりました」

「ああ、こちらこそ。……月並みな言葉で悪いけど、元気でな」

「拙者からも、同じ言葉を。もし再び旅路が交錯することがあれば、その時はまた共に歩みましょうぞ。――それでは、いずれまた」

 小さく会釈をしてから、ヴィエはくるりと踵を返して、ストリートの雑踏へと歩を進める。俺とユレナ、チルが三人で手を振る中、ヴィエの紫髪は人ごみの最中にすべり込み、消えてしまった。



「……行っちゃったわねー」

「ん。短い間だったけど、ちょっと寂しい」

「まぁ、短くても一緒に戦ってた仲間だからなぁ。感慨深くもなるさ」

 なんてことを言いつつ、一番感傷に浸っているのは多分俺だろう。何せ、色々と一番世話になったのは、ほかでもない俺なんだから。

 魔纏刃に始まり、ガイウスとの一件、遺跡での攻防、別れ際の情報提供などなど、彼女に助けられた場面は計り知れない。

「……とりあえずまぁ、ヴィエとは別れるけど、俺たちだって旅は続く。そのためにはまず、次の目的地を決定しないとな」

「あぁー、そのことなんだけど」

 これから意見を求めようとして放った言葉だったため、先手を打って飛んできた返答に俺は少々面食らう。

「二人が話してる間に私たちも話してたんだけど、バレリオ行きには賛成するわ」

「え、良いのか?」

 ユレナは先ほどまで、危険は避けて通るべきだと何度も口にしていたのだ。それが手のひらを返すように意見を翻したことに、俺は疑問を頭上に浮かべる。

「正直、危険に自分から踏み込むのはちょっとためらうけどね。でもそのリスクを差っ引いても、先立つものは必要だから」

「路銀はあればあるほど困らない。私のお父様も、ユレナのお父様も、同じことを言ってたみたいだから」

 そういえば、ディーンさんもチルのお父さんも、元々は冒険者なんだったか。だったら確かに俺たち同様、路銀に困ったことも一度や二度ではないのだろう。今の二人の肩書を考えるとにわかには信じがたい話だが、自分が実際に同じ状況に陥っている今、その二人の発言もぐっと真実味……もとい重みが増すものだ。

「んじゃ、ひとまずはバレリオ行きで決定かな。途中で何か情報が仕入れられそうなら、そこでバレリオの情報を仕入れて、本当に危なそうなら迂回する。それが良いか」

「ええ、異論はないわ」

「ん、問題はない」

 どうやら、俺がヴィエと話している間にサクッと話をまとめていたらしい。これって俺がパーティを率いても大丈夫なのかな……なんて疑問を抱きつつ、とりあえずは当面の目的であるバレリオへの旅路のため、準備を始めるのだった。


***


「……んー、張り込んじゃ見たけど、良い依頼は無いなぁ」

 それから数日して、場所はファリアムの街の中に建てられた冒険者ギルド、その中に掲示されているクエストボードの前。

 ボード内に張り巡らされている依頼の用紙を一瞥してみるが、目当てにしているバレリオ行きの依頼は一枚も見当たらなかった。

「そりゃまぁ、危険地帯への商売なんて、モノ好きの商人が一人で行くならともかく、キャラバンとか地方の領主様だとか、そのあたりの依頼なんて絶対にないわよ」

 見当たらない理由は、ユレナが説明してくれたとおりである。と言うより、そんなものがあるだろうと考える方がバカなんだろうけど。

「私たちだけでも、バレリオまで抜けられる思う」

「行けるとは思うけどなぁ。さすがに三人だけで今の戦争状態の最中を切り抜けるとか、そういうことはしたくないんだよなー」

 チルの提案も一度は考えてみたのだが、バレリオは今現在、魔力溜まりの影響で大量に魔物が出現する状態だ。囲まれるやも知れないという状態の最中を三人だけで切り抜けるには、少々厳しいと言わざるを得ないだろう。

「……なんだ、あんたら? 護衛任務でも探しているのか?」

 いろいろと考えてうんうんと唸っていると、不意に背後から声がかけられた。ユレナやチル、ヴィエの声とも違う、壮年の女性を思わせる声に振り向くと、そこには声のイメージ通りの、小麦色に焼けた健康的な肌の女性が、悠然とたたずんでいた。年の頃は分からないが、おそらくそこそこに齢は重ねているのだろう。静かで、気品を感じさせつつも、堅苦しさを感じさせない柔らかな雰囲気が、彼女の年齢像をあいまいにさせていた。

「あ、ええ、はい。バレリオ方面に行く人が居ないかなって、探してたんです」

「なんだい、あんたたちもバレリオに行くのかい? そりゃ奇遇だね」

 わずかに会話を交わして、すぐに気づく。もしかすると、この人も――

「……その口ぶりはもしかして、あなたもバレリオに?」

「そうさ。冒険者連中が集まるってことはつまり、武器やら防具やらも飛ぶように売れるってことだからね。このアタシ、武器商人セーラがその機を逃す手はないってもんさ」

 なるほど、武器商人だったか。なら、商人のくせにわざわざ危険地帯へと赴くという、矛盾めいた行動にも納得できる。

「失礼ですが、セーラ様は護衛とか、入用ではありませんか?」

 と、俺の考え事を読んだのか、同じことを考えていたのか、ユレナが俺の前に立って小さく礼を挟みつつ、さりげなくアプローチを試みた。急いては事を仕損じる、という諺があるが、果たして交渉はうまくいくか……という懸念は、実にあっさり打ち砕かれる。

「ああ、もちろん探しているさ。と言うか、その依頼を張りにここに来たんだよ。アタシはついこの前ここに来たばかりでね、ここまで来てくれた奴らとの契約は切れちゃったもんだから、新しい人手を探しに来たところなのさ」

 これは、ある意味願ったりかなったりと言うところだろう。現代知識的に言うなら、これは俗に言うご都合主義なんじゃなかろうか。

「そう言うアンタたちは、バレリオに一山当てに行くのかい?」

「そんなところです。……お互いに行き先が一緒なら話早い。良ければ、俺たちを護衛にどうですか?」

 そしてすかさずねじ込むセールス。恐らくこの中で一番交渉が得意なのはユレナであるため、任せるというのも手なのだが、そこは男である俺が一番に率先して動いた方がいいだろう。理由は特にないけど、やっぱり女の子だけに何もかも任せる訳にはいかないからな。

「こっちとしても願ったりだ。まさかこんなに受け手が見つかるとは思わなかったよ」

「俺たちもです。……俺はエイジ。エイジ・クサカベです。こっちがユレナで、こっちがチル」

 紹介した順に二人が会釈すると、目の前のセーラさんも明朗な笑みを浮かべて会釈する。


「アタシはセーラ・ベルファンドラ。さすらう武器商人の端くれさ。改めてよろしくな、冒険者さんたち」

 そうして差し出された、顔と同じように小麦色に染まった手を、俺はしっかりと握り返した。

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