第38話 商業都市への路
早いもので、ガイウスとの決着をつけてから、5日ほどが経過していた。今のところ、ガイウス以外に目立ってヴィエ、退いては俺たちを狙うような輩は存在しておらず、悠々自適な生活を満喫させてもらっていた。
ただし無論のこと、冒険者としての業務を怠っていたわけでは無い。ヴィエが旅に出る時はすでに、間近に迫っていたのだ。
と言うわけでその間、俺たちがやっていたことは――
「求むは純白、其の名は彼の身を縛るる鎖、〈バインドビュート〉!」
チルの放った光の鎖が、俺たちの目の前に立ちはだかる巨大な石の人型――ゴーレムの全身に絡みつき、その動きを封じ込める。そこへ駆け寄る俺とユレナが手に持つ、それぞれの得物には、魔力の光が宿っていた。
「らああぁぁッ!!」
「せえぇぇぇい!!」
魔纏刃の軌跡を引き連れて、俺の剣がゴーレムの足めがけて連撃を叩き込む。魔力に包み込まれた俺の剣は、同じく魔力によって硬化したゴーレムの外殻となる岩に、確たる切り傷を刻んだ。そのまま斬撃を繰り返していると、すぐにゴーレムの脚部は破壊される。
同時に、俺の反対側で攻撃を行っていたユレナが、ちょうど同じタイミングでもう片方の足を破壊したらしい。崩壊する石の音を背にして、こちら側へとユレナが飛び出してきた。その目線が狙うのは、ゴーレムの胴体そのもの。
「コレで、フィニッシュよ!!」
二振りの短剣が閃き、幾重にも折り重なった輝く軌跡を、ゴーレムの胸部付近へと撃ちつける。刃の暴風が納まった後、ゴーレムの胸ぐら付近は短剣による切り傷で、目も当てられないほどにズタズタとなっていた。
「流石、接近戦最強」
「お褒めの言葉どうも。……とりあえず、これでゴーレムは打ち止めっぽいわね」
ユレナの言葉に釣られて周囲を見渡すと、そこに転がっていたのは大小新古、一切合財の例外なく俺たちの手で葬られた、ゴーレムの群れ。しかもそのどれもが、どこかしらに魔纏刃を用いた切り傷が確認できた。
「お疲れ様にござります。お二人とも、かなり魔纏刃の扱いにも慣れてきたご様子で」
「ん、サンキュ。やっぱりこういうのって、専門の人に教わるのが一番だからな」
「全くもってねぇ。……にしてもこの技、かなり便利ね」
感嘆交じりにぼやく声につられてユレナの方を見ると、本人は魔纏刃を発動させたままの短剣を軽く振るいつつ、感想を口にする。
「得物を変えずに魔法に近いことができるとか、結構反則じみてるわね。普通の攻撃にアトランダムに織り交ぜたら、かなり有用なんじゃないかしら」
「魔力で硬化した岩もぶった切れる威力だからなぁ、コレ。織り込める魔力をもっと研ぎ澄ますことができれば、鉄の盾だろうとブチ破っちゃえそうだな」
おどけた感じに言ってみたが、実際に考えると本当にできそうな気がしないでもないのが何とも言えない所である。魔纏刃を使えば硬いものでも切り裂けるというのならば、理論上対策されていなければなんだって切れるんじゃなかろうか。
「魔纏刃とはもともと、刃や槌でさえ破れない物を破るために開発された技だと、拙者も聞き及んでおりまする。エイジ殿の言い分も、あながち間違いではないかと」
「はぇー……」
思わず生返事になってしまう。……ゲームとか小説的に言えば、俺たちが今いるのは序盤付近と考えてもいいはずだ。そんなところでこれほどに便利な技を習得しちゃってもいいんだろうか? 某ドラゴンの出るRPGで序盤から街にワープできる魔法を覚えてしまったような気分だ。行き帰りの緊張感もへったくれもない。
だが、それだけ魔纏刃は有用な技術だ。覚えておいて、使いこなせるようになっておけば、後々役に立つことはほぼ間違いないだろう。
現実は、いつ何を習得しても反則なんてルールは存在しない。こと、エルフラムと言う世界においては、持ち得る知識が己の生死を分けることだって珍しくないのだ。ならばこそ、応用の効く技術はしっかりと覚えておくに限る。
「ホント、これを教えてくれたヴィエには頭が上がらないよ」
「礼ならば拙者ではなく、拙者のご先祖様方に。拙者とて、この技術に助けられたことは、一度や二度では済みませぬ故」
彼女はそう言っているが、実際にこの技を伝えてくれたのはほかならぬヴィエ自身なのだ。ならばヴィエに礼を言うのが礼儀という物なのだろうが、本人が言うのならばそう言うことにしておこう。
「じゃ、そろそろ戻るか。ヴィエの出発も、もう近いからな」
「ん。二人は疲れてると思うから、帰りは私に任せてほしい」
「じゃ、頼むよ」
しっかりと頷いて先導を始めるチルは今回、俺たちの魔纏刃の練習をずっとサポートしてくれていた。曰く、自分でやるのもいいけれど、こういうのは本業の人が使っているのを見る方が勉強になる、と言うのが、彼女の言い分だ。
「なぁチル。魔纏刃に関して、なんかわかったことってあったか?」
「ん……まだわからないことが多い。でも、こういうのを研究するの、楽しいから好き」
追いすがって見やったチルの横顔は、非常に嬉しそうな笑顔を作っている。その顔が本当に楽しそうだったので、不思議と俺もつられて楽しげな気分になった。
「こーら、何二人で幸せそうな顔してんのよ。寂しいじゃないの」
「ん、え? 俺そんな顔してたか?」
「してたわよ。チルの方見て、なんかこう、にへらーって感じで……そうそう、カップルの男が惚気てる感じのアレ」
「んなっ……!」
ニヤニヤ顔のユレナが繰り出した茶化し攻撃に、思わず動揺が口をついて出てしまう。
「それってあれか、その辺の都会で女の子と腕組みながら歩いているチャラついた男が、あざとい女の子のしぐさを見てなんか幸福そうな表情になってる、その時の顔のことか!?」
「無駄に詳しい説明しないでいいわよ……間違っちゃいないけど」
うわぁ、恥ずかしい。付き合ってすらない女の子を見てそんなキモイ顔する俺が恥ずかしい……。
「別に、笑うのは構わないけどね。カップルと見られて変な勘違いされたくないなら、遺跡出る前に口角引っ張って下げといた方が良いわよ」
「お、おう……」
何がおかしいのかクツクツと笑いを抑えるユレナの言葉に従って、ぐいぐいと口角を引っ張っり下げる。そんな俺を見て、チルが不思議そうな顔をしていた。
***
「……では、拙者はそろそろお暇させていただきまする」
遺跡から脱出し、全員の無事を称えた後、一息ついたところで、ヴィエがそう切り出してきた。その顔に、辛さや悲しさとか、そう言う負の感情は一切見られない。
「ん、そんじゃここでお別れか。……この後は、グレセーラに行くのか?」
「いかにも。拙者の探し人はグリムウェインを超えた先の人里離れた地におります故。それに聞けば、グリムウェインはここ最近魔力溜まりが頻発していると聞きまする。拙者の次の修業の場としても、ちょうどよいかと」
すっかり忘れていたが、ヴィエの目的は武者修行なのだ。ならば、強い魔物が現れることがあるかもしれない魔力溜まりが多く、かつもう一つの目的を達成しに行けるというのならば、グリムウェインに進路を向けるのは必然だろう。
「エイジ殿たちは、これからどちらへ?」
「俺たちは、隣のシエナリースに。チルを親御さんのところまで連れていくつもりさ。確か、商業都市が間にあったと思うから、そこを中継するつもり」
なるほど、と頷いたヴィエが、しかしなぜか眉間にしわを寄せて難しい顔を作る。
「……なんか、問題あるか?」
「エイジ殿たちが向かうのは、バレリオと言う都市で間違いありませぬか?」
「ん、ああ。そうだけど」
ヴィエの言う通り、俺たちが次に向かうのは、シエナリースの中でもグリムウェインに一番近い街であり、両国の貿易に使われる一大商業都市バレリオだ。
流通を司るゆえに人の往来が多い街であり、様々な人間が街へと足を踏み入れる都合上、冒険者絡みの事柄も必然的に多くなる。シエナリースはグリムウェインよりも大きな国であるため、これからは移動の足も必要になると考えて、あわよくば商隊の護衛なんかでより安全に移動ができないか、と考えたのだ。
「……拙者は噂を聞くよりも以前に街を発ったため、これはあくまでも噂。それを踏まえて、どうか拙者の忠告をお聞きいただきたい」
どうやらヴィエが言いたいのは、バレリオで流れている噂に関してだったようだ。それも、かなりきな臭いというか、危険と言うか、そういった類のものだろう。険しい表情が、それを物語っている。
「今、彼の地には魔力溜まりが大量に……それこそ、グリムウェインの比ではないほどに発生していると聞き及んでおりまする。死傷者も大量に出ており、あの一帯が立ち入り禁止区域になるのではないか、とまでの噂も流れてまいりました」
ヴィエが耳にした噂はとどのつまり、現在バレリオは魔物の危機に瀕している、と言うことだった。それも、下手をすれば街一つが壊滅してしまうかもしれないほどの魔物が出現することもありうるほどの危険に。
ストックが底をつきましたので、以降はいつも通りの隔週更新を目標に執筆していきます。
どうしたものか筆の進みがかなり遅いのが難点ですが、気長にお待ちいただければ幸いです。




