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第35話 自在なる人形遣いー3

「でっけ……っとわぁ!?」

「んぬふふはははははははーっ! 大人しく潰れてしまいなさいこのお邪魔虫めが!!」

 全長10mにも達しようかという巨体をきしませながら、魔力を動力にしていると思しき超巨大人形が、これまた巨大な足を振り上げたかと思うと、呆然としていた俺に影、ついで足そのものを突き落としてくる。間一髪避けられたものの、奴の攻撃に巻き込まれてはたまったもんじゃない。

 バックステップと全力疾走で何とかユレナたちのところまで後退すると、そこに見えたのは俺と同じように、例外なく呆然とした表情をさらけ出している女性三人組だった。

「ちょっとちょっとちょっと、何よアレ聞いてない!」

「俺だって聞いてないっつの! つか、アレどうやって倒すんだよ……」

 俺が記憶している別世界の知識によれば、と言いたいところだが、あいにくとこんなモンと対峙した記憶はこれっぽっちもございません。むしろこんなのと出会ってたら、色んな意味で俺の人生を疑ってしまう。

「彼奴め、よもやこのような切り札を……ッ」

 若干青ざめた様相を見せながら、ヴィエは食いしばった口を開く。幾度も追撃を振り切り、返り討ちにしてきたのであろう彼女であろうと、流石にこんなものと対峙するのは初めてらしい。

「あの時のゴーレムと同じ魔力の流れを感じる。たぶん、魔纏刃効かない」

「……ま、まぁそんな予感はしてた。してたが、なぁ……」

 三者三様に絶句する俺たちに、こちらも同じく険しく曇った表情を見せるチルが、追い打ちの一言を口にした。

 言葉通り、ゴーレムをけしかけてきたコイツのことだから、魔纏刃対策の一つくらいしているのだろうと踏んではいたが、いざ現実に直面すると非常に対処に悩んでしまう。

「んっふっふ……残念ながら、あなた方に考える時間などくれてやりませんよ!」

 巨大人形の肩に乗っているガイウスが口を開いた直後、巨大人形が唸りを上げながら両手を振り上げる。

ゆっくりと開かれた両手の指先をよく見てみると、大砲の如き大穴とその奥で揺らめく赤い光が見えた。

「吹っ飛びなさい!!」

 こちらに向けられた指先の砲口から、非常にSFチックな形容したがい音を響かせて、真紅の光の槍が飛び出してくる。いわゆるレーザーと呼ばれるものだろうが、まさかこんなドファンタジーの世界で見ることになるとは……ってそうじゃない!

「あっぶね!」

「きゃあぁちょっとなにこれぇぇ!」

「魔力を圧縮した、砲撃!」

「くっ、遠距離攻撃とは小癪なッ!」

 回避しながら解説してくれるチルの有能さである。あまり頼るわけにもいかないが、相手の持つ特性を考慮すると、今回はどうしてもチルに頑張ってもらうしかない。

「チル、あの時のゴーレムみたいに、魔法で障壁に穴をあけてくれ! 後は、俺がやる!」

「ん、わかった!」

 かつてゴーレムの障壁を突破し、辛勝を掴み取ったときのあの作戦を、再びここで敢行する。今のところ、アレ以外に確実な方法はないのだ。

「ユレナ、突撃のサポート頼む! ヴィエ、あのレーザーに対処はできそうか?」

「わかったわ、魔法で行くわよ!」

「魔纏刃ならば、魔力同士をぶつけての相殺ができまする! 拙者はエイジ殿の隣で防衛に徹しまする!」

「頼む!」

 即席のフォーメーションをくみ上げて、タイミングを合わせて一気に飛び出す。

「無駄なことを!」

 言うが先か、ガイウスの駆る巨大人形の手からは、無数のレーザーが俺めがけて直線的な機動を描いて迫りくる。

 ヴィエにいわれたとはいえ、実戦で使ったことがない応用技と言うのはさすがに不安がぬぐえない。しかし、やるしかない!

「らぁッ!」

 イメージの魔力を流し込み、発動させた魔纏刃を振るい、俺めがけて殺到してきたレーザーの着弾地点に軌跡を重ねて――振るう!

 すると、独特の音に合わせて、切っ先に着弾したレーザーがぐいっと湾曲。数瞬遅れてドチュン! という、弾丸と合金がぶつかり合った時の様な不思議な音色が轟いた。

 ヴィエの言う通り、魔纏刃は魔力の弾丸に対しても、一定以上の効果が見込めるらしい。加えて、レーザーそのものの弾速も、肉眼で目視できるくらいなのが幸いした。殺到してくる真紅の槍を、握りしめた愛剣が繰り出す無数の軌跡で薙ぎ払いながら、俺はガイウスの巨大人形めがけて驀進する。

「小癪なッ!」

「小細工をッ!」

 ガイウスの忌々しげな叫びに合わせて、さらに集弾率を上げたレーザーを、魔纏刃の出力を上げて、魔力の刃を分厚く変じさせた一太刀の元、全てをまとめて弾き飛ばすと、目の前にあったのは巨大人形の拳だった。

 先ほどのレーザー群はおとりで、おそらくガイウスとしてはこちらが本命打なのだろう。ちらと見やると嫌が応にも視界に入ってくる、皺くちゃのドヤ顔で心情を察しつつ、しかし俺は回避することなく、魔力の刃を拡張したままの剣を、大上段へと持ち上げた。

「だあああぁぁぁぁッ!!」

 瞬間、俺の咆哮と連鎖して振り下ろされた剣の刃が、握りしめられた巨大人形の拳と真正面からぶつかり合う。同時に、踏みしめた俺の足がわずかな土煙を上げて後退してしまうほどの衝撃が、俺の身体を包み込んだ。

 が、俺の目論みが外れることは無かったようで、魔纏刃を発動した俺の剣とガイウスの人形鉄拳は、体格差や衝撃の威力を覆して、完全に拳を受け止めることに成功する。

「チルッ!」

「ん――〈シャイニングラスター〉!」

 俺の叫びに合わせて、詠唱が完成していたチルの魔法が解き放たれた。通常のものよりもさらに細く、さらに輝きを増して空間を焼く光の矢が、数泊遅れる音響を引き連れて俺の真横を掠めた――直後、耳をつんざく衝撃音と共に、巨大人形の胸へと突き刺さった。

「ぬふぅっ!?」

 極限まで魔力を圧縮したその光の矢の威力には、巨大人形の体躯と結界の効力をもってしても、抗いきれるものではなかったらしい。ぐらりと巨躯を揺らがせて、よろけて姿勢を崩したガイウス共々、数歩ほど後ずさる。

「チル、足元だ!」

「うん!」

 体勢を崩した今と言う好機を逃すほど、俺の目は曇っちゃいない。素早くチルに狙いを告げて、俺もまた駆けだした。

 直後、俺をかすめるような形で、無数のレーザーの様な形に散開したシャイニングラスターの魔法が、巨大人形の脚部へと吸い込まれ、光の爆発を巻き起こす。

 しかと踏みしめた直後に、再びの攻撃によって挫かれて、ぐらりと体勢を崩した巨大人形。その脚部へと即座に駆け寄り、半ばねじ込むような形で魔弾銃の銃口を叩き付けた。

 バレルが歪んで使い物になるんじゃないか、という懸念はあったが、お行儀よく銃口を突きつけて外してしまえば、笑い話じゃ済まない。だからこそ、多少魔弾銃にダメージが通ろうとも、こうして荒っぽい形で銃口を突きつけたのだ。

「食らえぇぇっ!!」

 ガチン! とストッパーが抗議の声を上げるほどの強さで引き絞られた引き金に従い、魔弾銃の銃口からは、装填された炎の魔石から放出された魔力の弾丸が撃ち出される。

「んぬぅっ……!」

 頭上から降ってくる忌々しげな声を無視しつつ、続けざまに引き金を連続して鳴かせ、銃口を吼えさせた。そのまま炸裂する赤い魔力の残滓をしばらく見つめて――

「チッ!」

 すぐさま、身を翻して離脱する。理由は明白、おろした銃口の先にあった鋼鉄の肌に、傷の一つすらついていなかったからだ。

 何故だ? チルの魔法はきちんと命中していたし、俺の魔弾銃だって着弾した手ごたえは確かに感じている。それなのになぜ貫けないのか――とまで考えて、ふと俺は「何かが足りない」ことに気付いた。仲間たちのところまできて再び身を翻し、その疑問を口にしようとした俺の言葉を遮って、苦い顔のチルが回答を口にする。

「……ゴーレムの時よりも、もっと強い障壁? こんなの、魔導具でも……お父様くらいの魔法の使い手にしか、できないはずなのに!」

 目の前で起きている現象を、理解しきることができていないのだろう。半分唖然とした表情で漏れたチルのつぶやきは、俺たちに苦い沈黙を与えるには十分な威力を持ち合わせていた。

「それってつまるところ……今の私たちには突破できない、ってこと?」

「チル殿以上の魔法の使い手は、ここにはおりませぬ。そのチル殿がそう言うのであれば……」

 乾いた笑いをもらすユレナの言葉に合わせて、苦虫をかみつぶしたような表情のヴィエがつぶやく。何か勇気づけるために口を開こうとしたが、その行動はガイウスの攻撃によって叶わない。文字通りの鉄拳を眼前にとらえ、三々五々に散開する俺たちめがけて、嘲りの塊のようなガイウスの声がこだました。

「んぬっふははははあぁぁぁぁ、無様、無様、無様あぁぁッ! この程度の実力で私に、ハデスに楯突こうなどと思うなぞォ、片腹痛いという奴ですよおぉぉぉぉ!!」

「んの、やろぉッ!」

 自分に煮え湯を飲ませたヴィエを仕留められる喜びか、それとも本心での嘲笑なのか、そのまま高血圧で死んでしまいそうなくらいに高いテンションで、ガイウスがゲラゲラと笑いまくるのをしり目に、俺はわずかなスキをついて剣を振るう。が、流石に鋼鉄製の人形と言うこともあり、盛大に火花を散らす以外に目立った現象は起きずじまいだった。

「くっ……!」

「エイジ!」

 毒づきながら再び後退する俺の横に、チルが追随してくる。何事かと思いつつ、前衛の側にいるのは危険だと忠告しようとした矢先、チルが強い口調で要求を言葉にした。

「魔弾銃を使いたい。私の魔法を弾丸にすれば、あんなの絶対に貫ける」

「魔法を? 魔弾銃でか?」

 魔法という物は基本的に、得物を持っていない素手の状態か、魔石をはめ込んで魔法を強化できるようにされた専用の道具――魔法の杖と形容されるアイテムを使って放つのが、このエルフラムでは一般的である。俺自身もディーンさんやニコルさんから聞かされた常識の一つとして聞いていたため、チルからの提案は一瞬、非常に懐疑的な感情を持ってしまった。が、そんな俺のけげんな表情を無視して、金色の瞳の少女は真剣な顔で続ける。

「私は魔王の娘。才能だって受け継いでるって、お父様もよくほめてくれた。……私なら、魔弾銃の魔石に限界まで魔力を込めて弾丸にできる。その弾丸なら、あの障壁も貫ける」

 確かに、チルの才能は魔法使いを知らない俺から見ても、十二分に非凡と言えるぐらいだ。その父譲りらしい才能を以てすれば、魔法使いの常識などという物は、易々と突破できるということか。

「……なぁチル」

「ん?」

「その攻撃、俺にも手伝えるか?」

 そう考えて、不意に浮かんできた発想を口にすると、意外なものを見たという表情でチルが俺の方を見やる。

 当然だ、俺――日下部瑛司と言う人間は、魔法が使えない。そのことを一番承知しているのはほかでもない俺である以上、そんな発想が出てくるということ自体、常識に当てはめればアホの発想だろう。

「魔弾銃が……媒体ありで使えるって言うんなら、それに魔力を込めるくらい、俺にもできるだろ? ……勝つためなら万全を期しないと、後で後悔もできないからな」

 だが、魔力そのものが使えない、と言うわけでは無い。だったら、その特性を逆に取ってやればいいんだ。魔弾銃が使えたように、直接魔法を放つわけでないなら、いくらでもやりようはある。

 さしものチルも、まさか俺がそんなことを進言してくるなどとはつゆにも思っていなかったらしい。真ん丸な瞳をぱちくりとした後、俺の言わんとすることを察してしっかりと頷いた。

「……ん、わかった。じゃあ、魔石を出して。エイジは、グリップから魔力を流してほしい」

 言われた通りに魔弾銃から魔石の嵌ったスロットを開放すると、そこにはめ込まれた魔石へと、チルの小さな手が置かれる。そのまま、かすかに淡い光を放つチルが、続けて俺に説明してくれた。

「魔纏刃と同じ要領。魔力の筋を伸ばして、魔弾銃に魔力を流し込むイメージで」

「わかった。……悪い、二人はサポート頼む」

「御意に。お二人の防衛は任されよ」

「はいはい、了解よ。まったく、こういうの相手だと私の出番がなくて困っちゃうわ」

 いつになく真剣なヴィエの声と、裏腹にのんびりと困り顔を見せるユレナの返事を聞いて、俺は魔弾銃を強く握りしめる。

 これが失敗すれば、もう俺たちに打つ手はない。それはつまるところ、俺たちの敗北を明確に意味していた。

 失敗するかもしれない、と弱気になる。だがしかし、同時に俺は今の状況に、人知れぬ興奮を抱えていた。自分の命――というか危険を賭ける行為に興奮するなんて、俺も中々にギャンブラー気質なものである。

「……けど、悪くない」

 チルにも聞こえないほどに小さな声で、俺はか細くほくそ笑んだ。直後、握っている魔弾銃から、まるで魔力が逆流してくるかのような感覚が伝わってくる。

「コレで、満タン……エイジ、あとはお願い!」

「任せろ!」

 GOサインを受けて、チルの手が離れて魔石のスロットが格納された魔弾銃を、中に込められた飽和寸前の魔力をこぼさないような気持ちで、再びその手に握りしめた。次いで巨大人形の足に狙いを定めようとして、ふと思いなおした俺は、ぐいと銃口を上へと持ち上げ、ガイウスの駆る巨大人形、その胸ぐらど真ん中へと照準を合わせる。

「行ける、よな?」

 狙いは単純明快、あの巨大人形を一撃で仕留めることだ。俺が口に出した問いかけの意味はつまり、限界まで凝縮された魔力の弾丸で、奴の胸部を貫けるのか、と言うことである。

「障壁の厚さは、何処でも変わらない。……でも、弱点は分からない」

「そこは心配するな。――俺にはこの目がある」

 立てた親指で、俺はグッと自分自身を指さす。親指の先にあるのは、俺の視界を司る翡翠色の眼。そしてその視界には――

「あいつを動かしてる魔導具なら、しっかり視えてるさ」

 巨大人形の核と思しき、魔力の靄がしっかりと視認できていた。そこめがけて、俺は改めて銃口を構える。

「何をしでかすか知りませんが……どのみちこのアルマには無駄、無用、無謀! 大人しく一切の抵抗もできない絶望感に打ちひしがれながら、踏みつぶされなさいッ!!」

「ユレナ殿!」

「ヴィエ!」

 軋みを上げながら拳を持ち上げた巨大人形の前に、ユレナとヴィエが躍り出た。その手に握られてるのは、各々の持つ魔力の光。

「止めることくらい、私たちにでもできるわよ! 求むは藍白(あいじろ)()()()()()魔壁(まへき)、〈アイシクルプロテクション〉!!」

「拙者にも、魔力の心得は在る! 求むは青紫せいし、其の名は我が身を守る魔壁、〈ライトニングプロテクション〉!!」

 アイスブルーと青紫がかった白が迸り、瞬時に俺たちの前に魔力の防壁が展開される。数泊を置いて着弾した鉄拳は、まるで人形自身が動きを止められてしまったかのように、ガクンと不自然な揺れ方を経て停止した。

「っち、小癪なことを! ……ですが、その程度の魔法、アルマには通用しません!!」

 ガイウスの言葉通り、止まっていたはずの拳がじりじりと俺たちの方へと近づいてくる。それに対応して、二人の展開した魔力防壁も輝きを強くするが、流石に魔力を無効化する障壁を持った人形に対しては、防御魔法も分が悪いらしい。わずかな冷や汗を垂らしながら、勢いに負けてじりじりと後退してくる。

 だが、二人の与えてくれた致命的な隙こそ、ガイウスにとっての最大の痛手だ。勢いをつけるために振るわれた拳でじゃあ――


「弱点が……がら空きだあぁぁッ!!」

 雄たけびと共に引き絞られた引き金が、飽和寸前の魔力を、一発の弾丸さえ超えた必殺の一撃へと変える。

 撃ち出された魔力は、まるで巨大な閃光の如き一条の極太ビームへと変じ――巨大人形の胸のど真ん中、魔力の薄靄が最も濃く見えた場所を、寸分たがわず撃ち貫いた。

そろそろ謝罪の安売りになってしまう恐れがあるので、これ以上の謝罪は打ち止めにします。

今後はこれがこの小説の更新ペースなんだと思って、気楽にお待ちいただければ幸いです。



でもやっぱり一か月半も更新しなくて本ッッッ当にすみませんでしたあぁぁぁぁ!!!

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