第36話 紫電
2016/04/11…誤字修正を行いました。
「ぬふおおぉぉぉぉーーーーーーッ!?」
瞬間、弾けたのはまばゆい閃光の奔流。次いで聞こえてきたのは、驚愕とも悲鳴ともとれる、ガイウスの絶叫だった。
強大な魔力を一息に得はなった際の衝撃が生み出した反動を受け、俺は耐えきれずに仰向けに吹っ飛ばされる。天へと打ち上げられる俺の視界に映ったのは、胸のど真ん中付近に黒焦げた大穴を携え、俺と同じように仰向けに、ゆっくりと倒れていく巨大人形。そしてその肩から転げ落ち、地面へと一直線に墜落していくガイウスの姿が、しかと映り込む。
どうやら、俺とチルの魔力を合わせた渾身の一発は、狙いたがわずガイウス駆る巨大人形を撃破することに成功したようだ。よかった、と安堵する暇もなく、俺の身体はしたたかに地面へと打ち付けられる。
「ふぐっ、……っつぅ、どうにか倒せたみたいだな」
衝撃で変な声を上げつつ、俺は改めて安堵の息を吐いた。が、その直後に俺の視界に映ったのは、唸りを上げて飛来する魔法の弾丸。
「ぅわっ!?」
「エイジ殿!!」
直撃をもらう。そう思ってお思わず瞑りかけた視界の端から、紫色の流星が俺の眼前へと躍り出た。直後、刀根北魔弾が火花を伴ってはじけ飛び、形を失て霧散する。
「……た、助かった」
「お気になさらず。……彼奴のしぶとさは知っていたつもりでしたが、よもやこれほどとは」
魔纏刃を宿した小型なっでお魔弾を切り払ったヴィエに礼を言いつつ身を起こし、俺は剣の柄を握る手に再び力を込めた。理由は無論、目の前にいまだ倒れていないどころか、憤怒の形相でこちらをにらんでくるガイウスがいるから、である。
「……小僧ォ、許さんぞ――このガイウスの攻撃をしのぐばかりか、私にこれほどの痴態をさらさせるなどとォォ!!」
先ほどまでの、人を小ばかにしたような丁寧語とは打って変わって、ガイウスの口調は本当に人を呪い殺してしまいそうなほど、暗い感情で満ち満ちたうめき声へと変わっていた。その迫力に、俺は一瞬たじろいでしまう。
「許さん、許さん!! 後悔しろ、私に楯突いたことをぉぉ――求むは青紫、其の名は彼方を射る魔弾、〈ライトニングバレット〉オォォ!!!」
その隙を見計らったのか、はたまた単純にタイミングが悪かったのか。ガイウスが完成させた詠唱に従って、無数の魔弾が俺たちめがけて放たれる。
「んのっ!」
「打ち落とすまで!」
魔纏刃のきらめきを纏い、軌跡を引き連れて乱舞するヴィエと共に、俺も発動させた魔纏刃を以て、飛来する魔弾の数々を弾き飛ばす。
発動させた魔纏刃と魔弾がぶつかりあい、魔力の残滓である光の粒がキラキラと吹き荒れる最中、眼前のガイウスはなおも怒り狂った表情で俺たちをにらみつける。
「あああぁぁぁ、煩わしい煩わしい煩わしいいぃぃぃ!! 私の邪魔をするな、私は貴様らの様なクソ雑魚に構っていられねぇんだっていい加減理解しやがれこのクサレエエェェ!!」
怒りのメーターが振り切れて、もはや何か意味のある言葉の羅列ではなくなっている呪詛を吐き散らしつつ、ガイウスの魔法の勢いはさらに増していく。
「ちぃッ!」
「ぬっ……なんの、この程度!」
俺とヴィエ、二人で肩を並べて魔弾をはじき続ける最中、両サイドへとユレナ、チルが回り込んでいた。いつの間に、と思ったが、ガイウスを倒せるのならばそれに越したことは無い。即席のコンビネーションではあるが、戦場なんてものは、予定の通りに動けることの方が少ないのだ。これも実地練習の一環だと思えば、なんてことはない。
「――気づかないと思いますかぁぁッ!!」
「え――きゃあっ!!」
「う、くっ……!?」
が、二人の目論みはあえなく見抜かれていたようだ。天を振り仰いだガイウスの両掌から放たれた小規模の電撃魔法によって、ユレナの進みとチルの詠唱、双方の攻撃が同時に積むされてしまう。
「二人とも、無理はしなくていい! 確実に突けそうな隙を突くんだ!」
たたらを踏んで後ずさるユレナに声をかけながらも、俺はちらりと思案を巡らせた。
現在俺とヴィエは、襲い掛かる魔弾に飴をさばくのに精いっぱいで、進撃などとてもできそうにない。近接戦主体である以上、ある程度は相手の遠距離攻撃も覚悟しておかねばならないのは当たり前なのだが、それを踏まえても今回は少々相手が悪い。
ユレナとチルの方は言わずもがな、先ほどの応酬を見てしまえば、二人に頼ると言うことは、ほぼ望めそうもないだろう。彼女たちとて得意分野に持ち込めば強いのだが、流石にそれ以外で十全に動けるほど、経験を積んでいるわけでは無いのだ。
どう動くべきか。得物である人形を失い、冷静さを欠いている男一人を相手取ってなお、じわりじわりと押されていく戦局に、密かに俺が憔悴を見せたその最中、真横に立って小刀を振るうヴィエが、ぽつりとつぶやく。
「……エイジ殿、ここは二手に」
「え? ……いや、駄目だ。俺たち二人で捌くのがやっとの攻撃なんだ。これを一人で相手取るのは、流石にヴィエにも任せられない」
勝手な意見ではあるが、正直な話それが本音だ。いくら無数の魔弾をいなすヴィエと言えど、二人で分担してやっとのこの攻撃をしのげるかと言われれば、流石に首をかしげざるを得ないのである。
だが、ヴィエの意図するところは別にあったらしい。小さくかぶりを振ったかと思うと、冷や汗を流す微苦笑のままで口を開く。
「否。この攻撃は、拙者たち二人に向けられた、全力の攻撃。なればこちらの戦力である4人を、それぞれ攻撃できる範囲に置ければ、さしもの彼奴とて注意力を裂かねばなりませぬ」
「……なるほど、そこを突くんだな」
ヴィエの言うことはつまり、ガイウスの注意力を散漫にさせて、どこかに割いた集中力の隙を狙って攻撃を叩き込む、と言うことだ。
言われて見れば確かに、俺たちに魔弾の雨を降らせている間、ユレナとチルへと使っていた魔法の威力は、誰の目から見ても明らかに弱化していたのを覚えている。つまり、ガイウスが俺たち二人に向けて放っている攻撃は、イコール奴のほぼ全力と見て間違いないはずだ。
「うし、やってみるか……ユレナ、チル! なるべく攻撃が届くポジションを維持してくれ!」
手短にやってほしいことを伝えて、俺はヴィエとアイコンタクトでタイミングを図る。あまり片方の離脱が遅れてしまえば、その時は二人で分担していた攻撃の全てに身をさらされることを覚悟しなければならないのだ。
「行くぜ!」
「御意!」
同時に乾いた大地を蹴り、それぞれが別の方向へと離脱する。俺とヴィエをそれぞれに狙いすました追撃の魔弾は――
「この、程度なら!」
ヴィエの目論み通り、きれいさっぱり半分に分割されて、俺たちへと放たれていた。
元もと二人で分担しきれていた量が、そっくりそのままの量で尾沿いかかってきているだけ。ならばそれは、自分の技量だけですべてをはじき返せるのと同じこと!
「おおぉぉぉぉッ!!」
剣戟とよく似た鋼鉄のかち合う音をこだまさせ、変幻自在に振るった魔纏刃を以て、迫る魔弾の全てを吹き荒れる魔力の残滓へと変じさせていく。
さすがに全力全開を維持するのは難しいため、直撃の可能性がありそうなものだけを切るように心がけているが、それでも骨の折れる競り合いであることに変わりはない。だが、そんなギリギリの掛け合いの中を渡り合ったおかげか、ガイウスが自らの周囲に展開した四人の冒険者たちに気付き、俺たちへの集中攻撃を一瞬だが取りやめた。
――仕掛けるなら、今!
「やるぞ、全力の魔法を叩き込むッ!!」
「分かったわ!」
「うん!」
「この因縁、此処にてケリを付けさせていただく!!」
三者三様、例外なく気合を入れた声を聴いて、俺は魔纏刃を発動させたままの剣を、音高く天へと突きつけた。
「求むは藍白、其の名は敵を屠る魔槍――!」
振り上げた掌に魔力を集中させる、ユレナ。
「求むは真紅、其の名は此の地を舞う息吹――!」
眼前へと両の掌を突き出し、しかとガイウスへの的を絞る、チル。
「求むは青紫、其の名は彼方を射る魔弾――!」
腰だめに小刀を構え、弓の弦を引き絞るがごとく己の身体をたわめ、放出の時を今かと待つ、ヴィエ。
そして。
「――求むは純白、其の名は天より降る裁き!!」
天を突いた剣の先へと魔力を集めて、声高に詠唱を口にする、俺。
「ぐッ――!」
四方からの魔法攻撃。いかに魔術に長けた男と言えど、そのすべてを身一つでしのぐ自身は無かったようだ。バッ、と眼前に指で印を組み、詠唱を始めようとする、その直前。
「〈アイシクルジャベリン〉!!」
「〈フレイムブレス〉!!」
「〈ライトニングバレット〉!!」
赤、青、紫。三色の魔力がそれぞれにあてがわれた形を成し、ガイウスへと襲い掛かる。
「らあああぁぁぁぁッ!!」
そしてその最中に、形だけの詠唱を口にしただけの俺が、再び携えた剣と共に――三色の魔法を纏い、邪悪へと立ち向かう勇者の如く、ガイウスへと一直線に走り込む。
「な――!!」
その光景に、ガイウスが愕然とした様子で大口を開けた。無理もないだろう。俺は確かに、魔法を放つための詠唱を口にしていたのだ。
だが、俺は魔法なんてものは使えない。そのことを知らないガイウスの目を、奴の認識を、奴の企てるであろう対抗策を欺くために、俺はわざと使えもしない魔法の詠唱を唱えたのだ。
――そして今、ガイウスには致命的な隙。
「コレで――終わり、だあぁぁぁぁぁぁッ!!!」
そのわずかな空白へとなだれ込んだ、三色の魔法の炸裂と共に。
とっさに貼られたらしい魔法障壁を切り裂いて、俺の剣が深く、深く斬り入った。
引っ越しなどのリアル事情に付き、しばらく投稿を控えておりました。
ほんのわずかですがストックが出来ましたので、隔日更新でいくらか更新していきます。




