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第22話 襲撃、っぽい何か

※21話後半部分に文章を追加しているため、少々ながら時間が進んでおります。

 21話の加筆分を未見の方は、そちらを読んでから本話を読むことをお勧めします。

2015/09/05…次話の展開の都合により、冒頭で言及した経過時間を調整しました。

「やー、天気に恵まれてよかったなぁ」

 グレセーラを出発し、いくつかの中継地点を経由した後。俺たちは快晴の元を、わずかに水気の残る草原を貫く街道の上を走っていた。

 道中は特に問題らしい問題が発生することもなく、実に平和なものだったのだが、野生動物たちが襲ってくることさえないので、味気ないと言えば味気なかったりするのが難点だったりする。

「そうねぇ。雨の中の御者って大変だから、そういう意味では助かるわ」

 現在の馬車の御者担当はユレナだ。俺も馬の乗り方そのものは教わっていたのだが、馬車として馬を操る方法は教わってなかったので、チルともどもユレナの横について勉強中である。もっとも、チルも御者を務めることはできるらしく、一緒にいるのは、一人荷台で待っていても面白くないかららしい。

「……やっぱ、この世界の人って御者の経験豊富なんだろうなぁ」

「そうでもないわよ? 貴族の人なんて基本召使たちに任せるし、冒険者以外の人は基本馬車なんて使わないからね」

 みんな使えるものとばかり思っていたが、どうやら俺が見てきた人たちが例外だったようだ。馬車を使えない人間はたくさんいるということに、内心安堵する。

 ……よく考えたら、貴族が馬車の運転を担当するなんて滅多なことではない。そう考えると、冒険者上がりのディーンさんや、貴族ながら冒険者として活動しているユレナは例外中の例外なんだろう。

「……そういえば、チルはどうして馬車を使えるんだ?」

 そこまで考えてふと気になったのが、チルはどうして御者を務められるのかということだった。彼女の身分を聞いた限りでは、魔王として親しまれている彼女のお父さんは、グレセーラで言う貴族……もしかすると王族にも匹敵する身分のはずだ。それなら、何故御者を務めることができるのだろうか?

「ん、お父様に教えられた。人に頼れない時は絶対にあるから、なるべく一人で何でも切り抜けられるようにしておけ。お父様の言葉」

 それを聞いて、俺は思わず口ごもってしまう。

 チルのお父さんは恐らく、「一人で何でもしなければならない時」がたくさんあったんだ。そんな経験をしているからこそ、自分の娘が同じ目に会った時、自分のようにならないために、持ちうるすべてを教えていたんだろう。

「……いいお父さんなんだな」

「ん。でも、自分の子供に甘い」

 子供の万一を考えて行動する父親を、素直に評価する言葉。父親を褒められて気恥ずかしいのか、どことなく照れくさそうにすました表情を作り、つんとそっぽを向いてしまった。……反応が可愛い、とか口に出したらどうなるんだろうか。

「……ちょっと、馬車とめるわよ」

「え?」

 取り留めもないことを考えていると、急に真剣みの増した声でユレナが馬を操り、馬車を停止させる。何事かとユレナの顔を見てみると、その藍色の瞳はじっと前方、街道の先を見据えていた。

 何があるのかと、俺もつられてそちらを見やる。街道の先に見えたのは、無数の人影だった。

「……検問か何かか?」

「そんなわけないわよ。検問って言ったらふつう、国境付近でしかやらないわ。こんな開けたところでやったら、横をすり抜ける連中が絶対に出てくる」

 となると、検問の可能性は薄い。だがそれならば、目の前に展開している人影たちは何の目的であそこにとどまっているのだろうか?

「通れる?」

「さぁ、どうでしょうね。私としては、嫌な予感がひしひしとするんだけど」

「奇遇だな、俺も嫌な予感しかしない。……何にせよ、ここ以外に近道はないからな。進むしかなさそうだけど」

 三人で三人の顔を見合わせて、一斉に頷く。

 地図で見た限り、日暮れまでに次の休憩所へとたどり着くためには、この街道を通るのが一番の近道なのだ。街道を外れても到着できないことは無いが、人の気配が薄い場所を通る以上、敵性生物に襲われる危険もぐっと高まるし、道や目印を見失ってしまえば最悪行くことも帰ることもままならなくなる。そんなデメリットを被るよりは、多少の面倒事を起こしてでもこの街道を通る方がよっぽどいい。

 そのことを口にせずに理解して、俺は御者台を飛び降りれる場所に立ち、チルは荷台の方へと非難する。チルを狙う連中かもしれない以上、チルの顔を見せる訳にはいかないのだ。

 対して、俺は御者を務められない以上、馬車はユレナに任せるしかない。何が起こるかわからないので、すぐに飛び出せるように待機しておくのが得策だろう。

「……厄介ごとじゃなけりゃいいんだけどなぁ」

「厄介ごとでしょうね、絶対」

 今にもため息を付きそうなユレナを視界の端にとらえつつ、俺は進んでいく馬車に揺られながら、たむろする人影を見つめていた。


***


「止まりな! ここは通行止めだ」

 はたして、俺たち三人の予想は見事に的中してしまう。街道を遮るようにたむろしていたのは、格好から見て冒険者らしき男たちだった。そのどれもが屈強な体つきを惜しげもなくさらしており、対峙する者へと否応なく威圧感をまき散らしている。

 しかし、通行止めと来たか。迂回すればやり過ごせるんだけど、この辺の地理に疎い俺としては、迂回して戻れなくなるのは少々、というかかなりの痛手となる。何とかして通してもらいたいところだが……最悪実力行使しかないかもしれないな。

 ユレナもそれを承知しているのか、あからさまにため息を付いている。仕方ない、するだけ説得してからでも遅くないだろ。

「通行止めの理由を教えて貰いたいんですが」

 御者台横の足場から飛び降りて、俺は馬車の前へと歩きながら質問する。どうせ金品を巻き上げたいがためにやっているのだろうと考えていたが、どうやらその通りらしい。フンと大きく鼻を鳴らすと、つばが飛んできそうな勢いで俺を怒鳴りつけてきた。

「通行止めは通行止めだよ! ……金を払えば通してやらねぇこともないぜ?」

 武力行使で解決できるなら早いのだが、なにぶん相手の数はかなりのもの。下手に荒事に打って出れば、最悪囲まれて袋叩きもあるだろう。俺としては穏便に事を済ませたいところなので、最悪の事態は避けたいところだ。

 幸いにして、俺がため込んでいた資金とチル救出時の報奨金の残り、加えてユレナが勝手に持ってきた個人資産が手元にあるので、相当無茶苦茶な金額を指定されなければ、十分に払うことができるだろう。そう考えて金額を訪ねようとした時、不意に先頭に立つ男の目がぎょろりと動き、俺の背後――馬車の方を見やった。

「けど、金じゃ足りねぇな。お前の持ち物全部と、そこの馬車に座ってる女を渡せば、お前を通してやガフッ!?」

 やっぱりそう言う魂胆だったらしい。舌打ちするとともに、結局武力行使に至ってしまう思考回路の単純さに軽く落胆してしまう。

 とはいえ、ともに過ごした時間こそまだまだ短いものだが、ユレナもチルも俺の大切な仲間だ。それに手を出すというのならば、俺は人相手でもためらわない自信がある。

「……悪いけど、渡せる金も人もないんでね。強行突破させてもらうぞ!」

 毅然とした声でそう答えると、いつの間にか馬車を降りていたらしい二人が俺の背後へと駆け寄り、戦闘態勢を取っていた。考えを読まれたのかってくらい動きが早い。

「ま、こうなるわよね」

「人相手は、初めて」

「まぁ、ためらわなくてもいいだろ。こんなことして稼げるとか思ってる甘っちょろい奴には、お灸をすえるくらいがちょうどいいさ」

 言い切って、自分の物言いにぎょっとする。いつの間にそんな口を叩けるようになったのかと思ったが、あいにくと相手方は待っちゃくれない。

「……後悔すんなよ! やっちまえぇ!!」

 先ほど俺に峰打ちを食らわされた男がのそりと起き上ったかと思うと、忌々しげに俺をにらみつけつつ、仲間たちに号令を出した。それに合わせて、ユレナたちが動くと同時に動いていた男の仲間たちが、俺たちの周囲に展開。包囲するように円陣を形成する。

「チル、頼む!」

 このまま包囲されれば袋の鼠なのは明白。それを察知して、俺はチルに向けて叫んだ。

「――求むは真紅、其の名は(てん)より()(さば)き。〈ブレイズレインフォール〉」

 掲げられた小さな手から、詠唱によって形成された真紅の燐光が撃ち出され、天へと突き進む。視認できるギリギリまで打ち上げられた魔力が、そこではじけ飛んだかと思うと、次の瞬間には炎の雨となって周囲へと降り注いだ。

 そこかしこで男たちの悲鳴がこだまする中で、しかし果敢にも俺たちへと突っ込んでくる人影。それを視認した俺は素早く剣を抜いて、そいつの足元めがけて斬撃を叩き込んだ。

「っぐぅ!?」

 刃が生む軌跡を足に受け、痛みにうずくまる男の脳天めがけて、俺はひっくり返した剣の峰を遠慮なく叩きこんでやった。男は昏倒するが、その後ろから今度は二人同時に接近してくる。

 走ってくる男たちは、両方とも大剣を得物としていた。大剣と聞くとあの野盗の男を思い出すが、それにしては感じる殺気も動きも鈍いもの。振りかぶられた大剣の根本――つまり男の手首を剣の腹で叩いて軌道をブレさせると、もくろみ通り男の大剣はあらぬ場所へと振り下ろされ、地面へと突き刺さった。

 突き刺さった大剣を抜こうと慌てる男の胸ぐらを蹴り飛ばして、俺はすぐにその場を飛び退く。先ほどまで俺が居た場所には、もう一つの大剣が振り下ろされていた。

「ちょこまかとぉ!」

 ぎりり、と歯噛みする男が、地面へと叩き込んだ大剣をブイ字に振り上げてくると、その勢いで抉られた土の塊が俺めがけて飛来する。目くらましのつもりだったらしいが、土くれはバラけずにそのまま俺へと飛んできた。

 一刀のもとに土を切り捨てて、俺は男めがけて急加速を駆ける。目の前に立つ男は俺がたたらを踏むとでも思ったのか、俺めがけて大剣を振りかぶったまま、近づいてくる俺を見て目を見開いていた。

「ぜぇいッ!!」

 がら空きの胴を薙ぐ、一撃必殺の峰撃ち。あばらにヒビでも入ったかもしれないが、そもそもの発端は自分自身なんだ。このくらいは覚悟の上だろうと考えながら、俺は回し蹴りで男を叩き伏せた。

「エイジ、避けなさいよ! 〈アクアジャベリン〉!!」

 急に飛んできたユレナの声に振り向くと、彼女の手にはすでに青い魔力の燐光が集束している。いきなりのことだったのと、詠唱が全く聞こえなかったことに驚きつつも退避すると、すぐそばを水の魔槍(アクアジャベリン)が飛んでいき、着弾点に居た連中を吹き飛ばした。

「私も。――〈フレイムブレス〉」

 数人をまとめて軽々弾き飛ばせるその威力に驚いていると、今度はチルの声が耳に届く。幸いにして避ける必要がある位置ではなかったが、口元に指を当てたチルの目前から、赤い燐光より変じた火炎がレーザービームのように鋭く伸び、彼女の正面に居た数人の足元に着弾。爆発を引き起こして、男たちをまとめて薙ぎ払った。さすがに魔法の威力に関しては、ユレナよりもチルの方が優れているらしい。

「よっ、と!」

「ふぐぅっ!?」

 魔法攻撃の隙間を縫って近づいてきた男を叩きのめしたところで、周囲の静けさに気が付いた。見回してみると、どうやら先の魔法攻撃によって大多数がなぎ倒されていたらしい。物理職立つ瀬なしである。

「な……なんだテメエら、化け物かよ!?」

「いやぁ……まぁ、言いたいことは分からんでもないけど」

 かつて俺も、魔法によって痛い目を見て、あわやというところまで行った記憶があるので、同情はする。けど、不意打ちされたならともかく、今回は俺たちも相手も、真正面から正々堂々と戦っていた。ましてや数の有利があったはずなのに、それを苦も無く覆されてしまうのどうなのだろうか。

「――ッせめて、お前だけでもォ!!」

 仲間を倒されてやけになったのか、はたまたこのままでは自分たちの沽券に係わると考えたのかはわからないが、男は双剣を引き抜いて真正面から突撃してくる。

「――熱くなって突撃。バカのやることだな!」

 口にしてから気づく完全なブーメラン。男が知る由もないので放っておきつつ、俺は振るわれた双剣の軌道に剣を割り込ませ、攻撃を阻止した。そのまま足払いを駆けると、笑えるくらいにあっさりと男がすっころぶ。

「おらぁっ!!」

 そのまま剣を横に倒し、ゴルフのスイングの要領で思いっきり振るってやると、ちょうど転げた男の胸あたりに直撃したらしい。気持ちいい音を立てながら、男が二転三転して転がっていった。

「ナイススイング」

「サンキュ」

 ちょっぴり感情薄目なチルの賞賛に片手をあげて返事しつつ、俺は男の元へと歩み寄る。対する男は立ち上がろうとしているが、先ほどの一撃が肉体的にも精神的にもずいぶん効いているらしい。自分を軽々打倒した俺に対する、怒りと怯えが籠った瞳が、それを如実に表している。

「――ちきしょう、てめぇら、これで済むと思うなよ! お前らなんぞ、俺たちが本気を出せばすぐにつぶせるんだからな!!」

 おおう、なんとテンプレな負け惜しみだろうか。言うに事欠いて捨て台詞を吐いたんだろうけど、今の状態だとちょっとシュールでしかない。

 予想外の反応で動作に困った俺が、後ろの二人にアイコンタクトを送ると、案の定やっちまえのジェスチャーが飛んできた。主にユレナの方から。

「……アンタらに恨みはないけど、通行人の邪魔だからな。しばらく眠っててもらうぞ」

 そのまま峰を頭に振り下ろすと、ドバカ、と快音を鳴らしながら男は黙り込んでしまった。


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