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第20話 意外な弱点?

2015/09/10…お話の整合性を取るために、20話と21話の順番を入れ替え、一部文章を改訂しました。

以降のストーリーなどに影響はありませんので、ご理解とご容赦のほどをお願いいたします。

2015/12/06…一部誤字を修正しました。

「えっと……うん、必要分はこれで良しだな」

 グレッセル家の面々との食事を終えた次の日、衛兵詰所に立ち寄ってチルを国外に連れ出す旨を告げた後、俺は旅に出る準備をするために、街へと買出しに来ていた。隣にはチルと、旅のメンバーに加わることとなったユレナも一緒にいる。

 懐に納めておいたメモを確認すると、必要なものとして箇条書きされていた項目の全てに、補充したことを示すチェックマーク。買うべきものはすべて買ったので、買い物はここで終了だ。

「……だいぶ時間が余ったなぁ」

 ぽつりとつぶやいて空を見上げると、太陽はまだわずかに傾き始めたあたりに受かんでいる。もともと食料以外は買い込むものも少なかったので、こうなることはある程度予想できていたわけだが、余裕を持って買出しができるように、少し早めの時間から街を歩いていたのだ。結果として、早起きは無駄になったが、まぁどうにでもなる。

「二人とも、何かしておきたいことってあるか?」

 振り返ってついてきていた二人に質問すると、先に口を開いたのはユレナの方だった。

「んー、特にすることは無いわね。お世話になった人ってあんまりいないから挨拶も必要ないし、今からクエスト受けるのもちょっとね」

「私も、知り合いはいないから」

 どうやら、二人もやることは無いらしい。となると、本格的に何をするか迷ってしまう。俺自身もやりたいことは無いし、ユレナの言う通り今からクエストを受けに行っても目ぼしいものはないはずだ。

 何か暇を潰せるようなことは無いかと考えていると、ふとユレナが俺に向かって質問をぶつけてくる。

「そういえば、エイジ。あなたって、魔法使えるのよね?」

「え? あぁ、使えると思うぞ。適性調査の道具では全属性持ちって言われたし」

 ユレナの質問で思い出したが、今日にいたるまで俺は一回も魔法を使っていない。いつも剣の扱いに習熟してから、と考えていたせいで、いつの間にか魔法を使えるということを忘れてしまっていた。

 しかし、なんでまた唐突に魔法のことを聞いてきたのだろうか……と疑問に思い、ユレナの方を見てみると、何かいいことを思いついたような、そんな顔を俺に向けている。

「なら、ついでだから私が魔法のこと、教えてあげるわ。戦術には幅を利かせた方がいいからね」

「あぁ……それもそうだな。じゃ、お願いするか」

 俺は魔法を使えるらしいが、あいにくとその詳しい使い方を知っているわけじゃない。なので、教えてくれるというならば教わって損はないだろう。ユレナの言う通り、戦術のバリエーションは多いに越したことは無いからな。

「ん……魔法は、私の専売特許」

 そんなことを考えていると、チルがグイッと服の裾をつかんで、自分の方へと俺を引っ張りよせる。……俺よりちっちゃいのに意外と力が強いぞ、どうなってるんだ。

「あぁ、そういえばそうね。じゃあ、説明とかはチルに任せようかしら」

「ん。……実演したいから、外に」

 外、というのは、このグレセーラの街から出て、郊外でやりたいということだろう。実演したいというならば、確かに人の多いこの場所は不向きだ。子供たちが遊んでいるかもしれないから、その辺の空き地も却下だろうし、チルの言う通りに郊外でやる方が良いだろう。

 思い立ったが吉日、ということわざもあるので、俺たちはさっそくグレセーラの郊外へと向かうことにした。


***


「えっと……始めます」

「はい、よろしくお願いします」

 数十分後。グレセーラ郊外の一角にある、ベンチ代わりに使える手ごろな岩の近くで、俺とチル、ユレナは魔法の勉強会を行っていた。と言っても二人は講師役であり、教わるのは俺一人だけど。

「まず、エイジは全属性持ち。なら、魔法の種類も把握しておくといい。……種類は、知ってる?」

 チルの問いかけに、俺は小さくうなずいてから口を開く。

「確か、炎、土、水、風、光、闇、氷、雷の8属性だったっけ。種類だけは一応把握してる」

 俺が使えるのは、その8属性すべてだ。受付さんは少数ながら普通にいると言ってくれていたが、改めて考えると全属性って中々のチートに聞こえてしまう。

 ちなみにここに来る前にユレナの属性を聞いたが、彼女は水、氷、炎の3属性を使えるらしい。チルよりも使える属性が多いことには驚いたが、ユレナ曰く「属性が多ければ多いほど使いこなすのは難しいし、器用貧乏になりやすい」んだそうだ。なので彼女は、もっとも適性が低かった炎を切り捨てて、水と氷の魔法を学んできたらしい。

「厳密には、そこに無属性を加えた9つ。でも、無属性は数えなくてもいいわね」

「無属性? ……聞いたことないな」

 そんなことを考えつつ回答すると、返ってきたのは補足の言葉。無属性とはいったい何なのかと質問してみると、今度はユレナが口を開いた。

「無属性は、属性名の通り属性を持たない魔法のことよ。個人魔法、とも呼ばれるわね」

「個人魔法……ってことは、使える人間は限られてるってことか」

「そうね。確か私の知り合いにも、治癒(リカバリー)の無属性魔法を使える人がいたわ」

「リカバリー……名前からして治療用の魔法だろうけれど、この世界には回復魔法なんて存在しないんじゃないのか?」

 以前ニコルさんから聞き及んだ言葉を思い出し、口を挟むと、返ってきたのは肯定と否定の両方だった。

「ええ、本来なら存在しないわ。でも、無属性魔法ってのはいろんな形があるの。確か、治癒魔法以外にも物を加工する魔法とか、物に命令を仕込む魔法とかもあるらしいわ」

「へぇ……使ってみたいな、そういうの」

 聞いた限りでは、物によってはかなり使えるものがあるらしい。思わず使ってみたいと口を零してみると、二人そろって難しい顔を俺に見せる。

「んー……無属性魔法は、誰でも発動できるってわけじゃないのよね。全属性持ちの人で使っている人もまれだから、もし使えたらラッキーくらいの心意気で言った方が良いかも」

 なんだ、そうなのか。まぁ必須のものというわけでもないから、いったんこの話は脇に置いておこう。

「……で、話が脱線したな。魔法って、どうやって使えばいいんだ?」

 本題へと話を戻すと、チルが無言のままでくるりと後ろを振り向き、指を天へと掲げる。

「……求むは真紅、其の名は彼方を射る魔弾。〈フレイムバレット〉」

 詠唱を終えるとともに、風を切る音を引き連れて、チルが掲げていた指を眼前へと突き出した。その指先には、赤く輝く燐光。

 瞬間、わずかに強く輝いた燐光が一発の弾丸を象り、ドシュ! という快音を打ち鳴らしながら発射された。恐らくただのお手本だろうけど、一連の動作を見ていた俺の頭には、新たな疑問符が湧いて出る。

「……チル、思い出させるのはちょっと悪いけどさ」

「? なに?」

「今チルが撃ったのって、この前チルを攫ったあの男が使ってた魔法と同じだよな? どうして形が違うんだ?」

 チルの詠唱を聞いて気が付いたが、彼女が放った魔法――「フレイムバレット」なる魔法は、あの時交戦した男が使っていた魔法と同じ名前。しかし、男が放った魔法が散弾のように無数の弾丸に飛び散ったのに対し、チルが撃った魔法は一つの塊のまま、掻き消えるまで分裂することは無かった。

 一体どういうことなのだろうかと首をかしげていると、チルが再び向こうを向いて、再び魔法の詠唱に入る。

「……求むは真紅、其の名は彼方を射る魔弾。〈フレイムバレット〉」

 先ほどと同じ動作で、炎魔法が放たれる。しかし今度は、最初に俺が見たフレイムバレットと同じように、無数の火炎弾となって放射状に広がっていった。

 どうなっているんだとますます首をかしげる俺に向けて、ユレナが苦笑しながら説明してくれる。

「魔法はね、ある程度使用者の意志でコントロールができるの。コントロールしないと、チルが最初に撃った普通の弾丸魔法(バレット)になるけれど、弾けてたくさんの魔弾になれ、って念じてやれば、2発目の魔法みたいに、魔法が派生するのよ」

「……つまり、イメージ次第でどんな形にもなるってことか?」

「まぁね。魔法の原型から外れすぎると、魔法そのものが不発になっちゃったり途中で消えちゃったりするけど、外れすぎなければどんな形にもできるわよ」

 見てなさい、と言いながら、姿勢を戻したチルの横に立ったユレナが、開いた手のひらを眼前へと突きつける。

「――求むは群青、其の名は()()()魔壁(まへき)。〈アクアプロテクション〉!」

 詠唱と同時に、ユレナの眼前で青い燐光が横倒しに収束。一瞬のうちに青い壁となり、彼女の正面を遮るように立ちはだかった。

「これが、何も念じてない防壁魔法(プロテクション)。でもって、これがコントロールした防壁魔法よ」

 魔壁自体は一瞬で溶け崩れ、再び周囲を散る青い燐光になったが、ユレナは間髪入れずに再び魔法の詠唱を行う。

「求むは群青、其の名は我が身を守る魔壁。〈アクアプロテクション〉!」

 再び収束した青い燐光が、今度はユレナの周囲を丸く覆うバリアのように展開した。数秒と経たずに燐光が半透明の青い球体となり、続けて霧散する。

「要するに、魔法はイメージ次第ね。思った通りの形に練るには練習がいるけど、そう難しいものでもないわ」

 なるほど。言い換えれば、イメージ次第でどんな感じにも構成できるということか。てっきり詠唱すればそのままの魔法が発射されるとばかり思い込んでいたが、かなり応用が利くものらしい。

「でも、原型から形を変えたら、その分威力や性能が変わる。弾丸魔法を散弾にしたら、横に範囲が広がる分、前への範囲はかなり狭くなる」

「防壁魔法を球体にしたら、全方位を防御できるようになるけど、その代わり展開する面積が大きくなる分、防壁そのものは薄くなって、破られやすくなるわ。要するに、適材適所って奴よ」

 なるほど、変形させると長所と短所が生まれるんだな。ユレナの言う通り、相手によって使い分けるのが重要なのだろう。中々ハードルは高そうだが、その辺は慣れか。

「さ、お手本はこのくらいでいいでしょ。んじゃあ、貴方もやってみなさい」

「ん。基本の形だけなら、詠唱するだけでいい」

 戻ってきた二人に押し出されて、俺は二人を背にして立つ。二人に言わせてみれば簡単なんだろうが、俺としては初めての体験となる魔法の発動だ、ちょっぴり緊張するな……。

 握った拳を緩く開き、そのまま目の高さへと持ち上げつつ、その手のひらをグッと開いてやる。何回か深呼吸して、魔法の詠唱を思い出して……よし、やるぞ!


「――求むは真紅、其の名は彼方を射る魔弾。〈フレイムバレット〉!!」

 見開いた目で、俺はじっと突き出した手のひらを見やる。赤い燐光が生まれて収束――――――――しない。

「……出ないぞ?」

 詠唱を間違えてたかな、と思いつつ二人の方に振り替えると、発動しなかったのが意外だったようで、二人ともそろって目を丸くしている。

「……ちょっと、もう一回お願いしていい? 詠唱は間違ってなかったから」

「あ、ああ。……求むは真紅、其の名は彼方を射る魔弾。〈フレイムバレット〉!」

 ユレナの言う通りにもう一度詠唱し、魔法の発動を試みたが、結果は先ほど同様不発だった。どういうことだ? ギルドのあの道具が壊れてたとは考えづらいし、職員さんが嘘をつく可能性も低い。ギルドは信用第一なんだろうしな。

 けど、それならどうして魔法が発動しないんだろうか? 腕を組んで考えていると、不意になにか金属っぽいもので突っつかれる。振り返って見るとチルの仕業だったらしく、その手にはグリップを俺の方に向けた魔弾銃があった。

「……撃ってみろって?」

 こくこくとチルが頷く。ふむ、魔法は使えないけど全部の属性に資質があるし、魔弾銃なら撃てるのかもしれないな。

 受け取った魔弾銃をしっかりと握り、一息にトリガーを引く。圧縮空気が撃ち出されるような鋭い音が響いたかと思うと、銃口から赤い燐光でかたどられた弾丸がはじき出された。

「……魔弾銃が撃てるのに、どうして魔法が使えないのよ?」

「さぁ……」

 訝しげな眼のユレナにあいまいな笑みを返しつつ、チルに断りを入れてそのまま試してみることにする。

 再び詠唱して魔法を放ってみるが、やはり魔法は不発。続けて魔弾銃を構えて撃ってみると、こちらは何の問題もなく発射することができた。

 もう一度詠唱するが、当然のごとく不発。魔弾銃……もういいか。

「…………どうなってるんだ?」

「私に聞かないでよ。……でも、こんな例聞いたことないわ」

 ユレナと共に首をかしげていると、返却した魔弾銃をホルスターにしまい込んだチルが口を開く。

「……聞いたこと、ある。魔力が強すぎて、魔法が成功しない人がいるって、お父様が言ってた」

 チルのお父さんの言葉によると、強力な魔力の質を持っていると、全属性の行使が可能となる代わりに、魔石を使った武器――いわゆる魔弾銃や、魔石を埋め込んだ「魔装」と呼ばれる武器以外での、魔法の行使ができなくなるという事例があるという。魔法のエキスパートの名に恥じず、こういった事例にも精通しているようだ。さすがは魔王様。

「体質的なものだから、直しようもない……となると、今後俺は魔法を使わない方向で鍛えていくのが妥当かな」

「まぁ、そうなるわね。魔法だったらチルって言うエキスパートもいるし、その辺は任せちゃっていいんじゃないかしら」

「それもそうだな……でもやっぱ、魔法も使ってみたかったなぁ」

 体質だからしょうがないとは言っても、せっかく魔法という分野があって、俺自身にも魔力があるという。一回でいいから魔法も使ってみたかったが、この分だと諦めるほかないか……未練がましいけど使ってみたかったなぁ、魔法。


 落胆しつつもしょうがないと割り切りながら、俺はユレナたちを伴って、わずかに赤くなった空を背負うグレセーラへと足を向けた。


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