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9 巡幸波乱万丈

 ザーガード帝国領

 「絶対に暴れないこと。私たちは全人類の平和と繁栄のために、(おだ)やかな交渉をしに来たのよ。いい? デューン」

ハフがデューンに念を押している。

 「かぁー、分かっているよ、ハフ。もう、今日だけで4度目だぞ」

 「何言ってんのよ。貴方だから念を押すのよ。分からなければ、あと何百回でも言うからね。もう、あそこは城門なんだから・・・」

ハフの焦げ茶と茶色の縞のある尻尾の毛が、逆立ってブルブルと震えていた。

 「もう、子供扱いはやめろよ。俺は24歳。10年以上前にこの国の奴隷、そして魔族の生贄にされた事なんざ、迅の昔に忘れているぜ・・・と、言いたいところだけれども、この国の民に祖国を滅ぼされ、そして奴隷として差別され、(さげす)む眼を向けられていた屈辱は、今でもはっきりと覚えているぜ・・・

 だがな、ハフ。全人類の平和と繁栄のためという目的のためだ、私情は捨てている。

 そろそろ、イフを出すぞ」

 デューンは、胸の受胎の刻印に魔力を込めた。

 「いでよ! イフ」

 『ティタンの民を奴隷にし、デューンを魔族の生贄にしたザーガード帝国まで12㎞といったところだな。デューン、彼の国には思うところがあるだろう・・・暴れる時は、遠慮せずに命じよ』

 「ちょっと、デューン。穏やかな交渉に来たって、さっきから言っているでしょう。もう忘れたの」

 「ハフ、暴れると言ったのはイフだぞ」

 「あんたの召喚神獣でしょう。責任は貴方よ」

 「まだ、俺は、何もしてないぞ・・・」

 「あら、そうなのね・・・口で言っても分からないのね・・・」

ハフは、デューンの眼を見ると、ニヤリとしてピッコロを手で()でた。

 「またピッコロで演奏かよ・・・もう、ハフは弱みにつけ込む事はS級だな」

 「どうやら、今すぐにでも、私のピッコロで踊りたいらしいわね」

 『我は、ハフのピッコロの音色に合わせて踊るのは、嫌いではないぞ』

 「イフ、俺はお前を受胎したために、音楽を聴くと抗う事もできずに踊り出す。この苦しみは分からないだろうな」

 『さて、我は、ここから気配を消していく』

 「俺たちも、白い仮面で素顔を隠そう」


 城門の槍を手にした兵士たちがデューンたちに向かって駆けて来る。十数人はいるであろうか。

 仮面を付けたデューンが、近づいてくる兵士たちに向かって手を上げ、(さわ)やかに挨拶をする。

 「おーい! こんにちはーぁ。

 俺たちは怪しい者じゃない。大事な話が合ってここへ来たんだ。まず、話を聞いてくれ」

 「デューン、怪し過ぎだわよ」

ハフが、デユーンを横目に冷静に言った。

 間近に来た兵士が、(いぶか)しげな顔になりデューンを誰何(すいか)する。

 「おい、待て。その魔物は何だ・・・」

 言葉がまだ終わらぬうちにその兵士は、イフに殴り飛ばされた。

 殴り飛ばされた兵士は、顔が(つぶ)れて、地面で動かぬ姿となった。

 「貴様ー! 手向かうつもりか」

兵士たちは、槍を構え殺気をみなぎらせながら、じりじりとデューンたちを取り囲んでいく。

 「イフ!! 何て事をしたのだ! これは見過ごす訳にはいかない。

 イフ、お前を魔族呼ばわりしたのは、無知故だ。その言葉でイフの神獣としての偉大さが変わるわけではない。無暗に人間の命を奪うな!」

デューンは眼光鋭く、イフを一喝した。

 『・・・奴は魔族だ』 

 「何! 魔族だとー」

 「え?」

デューンとハフが、地に横たわる兵士を横目で見ると、その死骸からは翼が生えていた。

 兵士たちは、イフが人間の言葉を話したことに驚愕している。

 「ひぃー」

 「・・・魔物がしゃべったー」

 「しゃべる魔物なんて聞いたことがないぞ・・・」

 1人の兵士が、翼の生えた遺体に目をやる。

 「・・・・なぁ、おい、こいつは、本当に魔族なのか・・・」

他の兵士たちも、ちらっと翼の生えた亡骸を横目で見ると、更なる動揺が走った。

 「イフ、他にも魔族はいるか」

 『ここにはおらぬ。城壁の中にはいる・・・13匹だ』

 「13匹もいるのか・・・もしかしたら、この国の中枢(ちゅうすう)も危ないな」

 『・・・デューン、先程我を叱り飛ばした口調は、ダイチに似ていたな』

 「それは嬉しいぜ」

デューンは、仮面の下で片側の唇を上げ、白い歯を(のぞ)かせた。

 兵士たちは、人間の言葉を話す魔物と翼の生えた兵士の死骸にパニックとなっていた。隊長らしき男は、動揺を隠せずに甲高い声で叫ぶ。

 「お、おい、お前ら。仮面を取れ! いや、ま、まず、ぶ、武器を捨てろ!・・・これ以上の抵抗はするな」

 「この仮面を取る事はできない。まず、俺の話を聞いてくれ」

 デューンの戦闘スタイルは、バトルグローブを嵌めた格闘である。武器などは元々携帯していない。デューンは、両手をゆっくりと上げて掌を兵士に見せながら、落ち着いた口調で続ける。

 「兵士に魔族が紛れ込んでいたので倒しただけだ。俺たちに敵意はない」

 兵士たちは、再びデューンらと魔族の死骸を交互に見ていている。

 「・・・た、隊長・・・どうしますか」

 「・・・わ、我らに歯向かって、そ、その魔物が兵士を殴り殺したことは事実だ」

 デューンは、掌を横に上げ、首を横に振って、

 「隊長さん、問題にするところが違うだろう・・・その兵士に化けていた魔族を問題にしろよ」

と、隊長に目をやった。

 隊長は白い仮面から(なび)くデューンの髪を見止めて、

「ん・・・その白藍色の髪、まさか貴様は、奴隷のティタンの民か・・・奴隷の分際で、我らに意見するとは、許せん!・・・此奴らを殺しても構わん」

と、隊長が命じた。

 だが、兵士たちはイフが控えているため、尻込みしている。

 「可笑しいなぁ。もう10年以上も前に、この国ではティタンの民は奴隷ではなくなったと聞いていたのだが・・・皇帝の命を守らぬ(やから)がいるのか?」

デューンは首を(かし)げながら、とぼけたような口調で挑発した。

 「デューン、挑発しないの。もっと和気あいあいと話せる雰囲気にしなさいよ」

 「ハフ、この状況で、和気あいあいって・・・」

 「おい、そっちの仮面の女、お前は獣人だな」

隊長の後ろから進み出て来た小太りの兵士が、声を張り上げた。

 「・・・そうよ。私は獣人。それがどうかしましたか?」

 「ケッ! 黙れ、魔物とティタンの民、獣人ごときが、我ら兵士の誰何に口答えするとは、万死に値する!」

小太りの兵士が、大声を張り上げ、ひきつった顔で槍を突いてきた。

 ハフの尻尾がピンと上へ伸びた。その瞬間に、小太りの兵士は地に倒れていた。ハフの電光石火の拳だった。

 「何!・・・お前も、歯向かう気だな。構わんこの者たちを殺れ!」

ハフの喉元へ槍の穂先を向け、隊長の命じる声が聞こえたと思った刹那、周りにいた十数人の兵士は、次々にその場に倒れていった。ハフの拳、手刀、肘、膝などあらゆる肢体が凶器となって、(うな)りを上げたのだった。

 「ふー、あとは貴方1人ね・・・貴方、隊長さんかな?」

 「・・う、うぐあー!」

隊長は叫び声を上げてハフの腹に槍を突き出した。

 ハフは、この槍の柄を踵落(かかとお)としで()し折ると、伸ばした2本の指を隊長の瞳寸前で止めた。

 「隊長さん、貴方の瞳に映った最後のものが・・・この2本の爪」

ハフは、残酷な結末を隊長の耳元で囁いた。

 「ひぃーー! 助けてくれー」

 ハフの表情がにこやかに変化する。

 「隊長さん、私たちの望みは1つだけ。お願ぁぁーい。それを叶えてぇ♡」

 「な、な、何が望みだ・・・」

 「皇帝に、あ・わ・せ・て」

ハフは、隊長の鼻先を人差し指でピンと弾いた。

 「ひいーっ」

 それを見ていたデューンが、黙って立っているイフに向かって確認する。

 「なあ、・・・魔人って、ああいうのを言うのかなぁ・・・」

 「むう・・・魔人は人間にとって恐怖と死の象徴。あの隊長にとってのハフは正に・・・」

イフは、デューンと顔を見合わせ、黙って何度も首を縦に振った。


 デューンとイフ、背後から隊長の首に短剣を当てて盾にしているハフが、ザーガード帝国の帝都市街のメインストリートを歩いている。

 イフの炎弾が飛ぶ。

 不意を突かれた人間は燃えだし、黒こげの魔族の姿となって倒れる。その度に、市街の群衆から悲鳴が響いた。

 「きゃー、助けてー」

 「ま、魔物が攻めて来たぞー」

イフの姿を遠めから見ただけで、首都の民たちは先を争い逃げ出して行った。

 「城下に入って、これが6匹目の魔族だ。あと7匹か・・・」

デューンがうんざりした様子で呟く。

 その脇でハフが、ぐずる隊長の頭を小突きながら、

 「ほら、ぐずぐずしないで。

 デューン、受けた任務は完遂するのよ。皇帝の説得と城下の魔族殲滅・・・でもね、くれぐれも穏便(おんびん)に完遂して頂戴」

と、デューンの背に向かって言った。

 「穏便って・・・その言葉は、隊長を人質に捕っているハフ、あんたにそのまま返してやりたいよ」

 「過ぎた事をごちゃごちゃ言わないの! それにこれは穏便のギリ許容範囲よ」

 「・・・いつの間にかに、穏便という言葉の意味は、誘拐(ゆうかい)と人質を捕るという犯罪行為も許容されるほど広くなっていたんだなぁ」

 『あそこに3匹いる』

 イフの視線をデューンが追う。

 イフが炎弾で1匹の魔族を炎に包むと、群衆に紛れていた2匹の魔族が翼を出して飛び上がった。

 「きゃー、魔族だわ」

 デューンの炎の大蛇が、石畳の上に姿を現すと、上空を飛ぶ魔族を飲み込んだ。遥か遠くの空に逃げる魔族へハフの雷魔法が稲光とともに炸裂した。

 「あと4匹だ」

 『残りの4匹は城内だ』

 「城内か・・・やはり、魔族は、この国の中枢に入り込んでいたな」

 デューンたちが城の前までやって来ると、突然、城の正面の大扉が開き、黒の鎧に身を固めた兵士たちが駆け出して来たかと思うと、大扉の前で剣と盾を構えて隊列を組んだ。その動きは、非常に訓練され洗練された動きであった。

 「穏便に行動していたはずなのに・・・どうやら、デューンは歓迎されてはいないようね」

ハフは、隊長の背中から喉仏に短剣を突き付けながら、笑い声交じりで言ったが、焦げ茶と茶色の縞のある尻尾はまっすぐ上に立ち毛が逆立っていた。

 「『デューンは歓迎されていないようね』って、俺のせいかよ!」

デューンは、空を見上げて大きく息を吐いた。

 大扉から最後に出て来た赤い鎧を着た騎士は、堂々たる偉丈夫で、大剣を背負っていた。

遠目からでも、その騎士が指揮官であると分かった。

 赤の騎士が、大剣を抜いて命じる。

 「今後一切の私語を禁ずる! 

 皇帝陛下のお命を狙う、その者たちを打ち取れ!」

 ザッザッザッザッ、ザッザッザッザッ

 黒の兵士たちは隊列を組んで行軍し始めた。無言のままデューンたちに迫って来る。

 イフの眼が鋭い光を放った。イフの放った魔法コメットによって、小隕石(しょういんせき)が無数に降り注ぐ。ヒュー、ドゴゴーンと、風切り音と衝撃音が耳をつんざく。辺りには白煙と砂埃(すなぼこり)が立ち込めている。

 『赤の騎士は、魔族だ・・・我の炎魔法コメットを防御した。奴はかなり強いぞ』 

 白煙と砂埃の中から翼を広げた魔族が、上空に飛びあがった。体長は3m近くあり、額から伸びる角は螺旋状(らせんじょう)()じれていた。上空から黄色に赤い瞳でイフを見ている。

 その魔族は、何の躊躇(ちゅうちょ)もせずに向きを変えて飛んだ。互いの力量を見定めた上での最上の選択、逃走であった。

 逃げる魔族の真下から炎の大蛇が、炎の竜巻となって立ち上がった。魔族は、これを回避しようと横に逃げた。炎の大蛇が向きを変え、逃げる魔族を追い詰める。

 魔族は、炎の大蛇に呑み込まれ、炎の竜巻の中で激しい錐もみにあう。やがて、炎の竜巻は、地面から浮き上がり、そのまま天に吸い込まれていくように上昇を続けた。

 炎の竜巻の消え去った上空には、炭素に返った魔族の(すす)だけが風に浮かんでいた。

 その時、城の中から、3匹の魔族が飛び出した。イフの炎弾とデューンの炎の大蛇が、3匹を補足する。魔族たちは、苦痛の悲鳴を上げる前に燃え尽きていた。

 『デューン、ハフよ。この城下街及び城内の魔族全てが片付いた』

 炎に包まれる魔族の姿を目撃し、黒の兵士たちの頭は混乱するが、指揮官の最後の命令を遵守(じゅんしゅ)していた。無言でデューンたちに迫って来ていたが、殺気は失われている。

 ザッザッザッザッ、ザッザッザッザッ

 「・・・・・」

 『我は、炎祭神獣イフリートのイフ』

 黒の兵士たちは目を見開く。

 「・・・・・」

 デューンは、黒の兵士たちを指さして叫ぶ。

 「おい、あんたら、いったい誰の命令を守っているんだ。あの指揮官は魔族だったろうが」

 ザッザッ、ピタ

 「・・・・・確かに」

先頭にいたすらりとした黒の兵士が(ひざまず)くと、全ての兵士が跪いた。

 「私は、近衛副団長のゾアンと申します。炎祭神獣イフリートのイフ様、ご無礼をお許しください」

 『むう。我は皇帝に話をしたい』

 「それは、我々の職権の及ばぬところです。されど、我らは、謹んでご案内致します」

 『むう、頼むぞ』

 デューンがイフに目をやってから、兵士たちに厳しい口調で言う。

 「ゾアン、兵士が上官の命に従うのは分かる。だが、その上官は魔族だったんだぞ。その命令に盲目的に従ってどうするんだ。

 権威に対する無思慮な敬意は、生きる価値を失う」

 デューンは一つ息を吐き、冷静な口調となって続ける。

 「ふーっ。いかに近衛兵とは言え、ゾアンたちの剣は、この国の民を守るための剣。その剣先には、自分の意志を込める必要があると思う。

 間違いを間違いとして正せる判断と行動する勇気を持ってほしい」

 「・・・・正に・・・耳に痛いお言葉ですが、このゾアン、肝に命じます」

 ハフは、へーっと、デューンの言葉に感心した表情を浮かべ、城門警備隊長の首に回していた腕を解く。

 「悪かったね・・・城壁の外で寝ているあんたの部下には、手加減をしておいたから、大した怪我は負っていないはずだよ」

 「これは、神獣様御一行に不遜(ふそん)にも剣を向けた報いです」

 「神獣様ご一行に不遜にも剣を?・・・あんた、何も分かっちゃいないね。私は、あんたたちが人種や民族で差別をした事が許せなかったんだよ」

 「・・・・」

 ハフはプイッと背中を向けると、デューンとイフと共に、城の大扉を潜った。


 ゾアン率いる黒い兵士たちに、皇帝の執務室まで案内されたが、皇帝ウィードⅠ世の姿は、そこにはなかった。

 侍女の話では、皇帝は、この1ヶ月は寝室に(こも)りっきりで、姿を見せることはなかったと言う。皇帝にお会いできるのは、内務大臣のビニャンスキー唯一人であったと言う。

 デューンらは、皇帝の寝室へと向かった。

 寝室には誰の姿もなかったが、イフが部屋の奥にある隠し部屋に気づいた。隠し部屋を開けると隠し(ろう)となっており、中には手足を鎖に繋がれたやせ細った男が壁に()るされていた。その着ていた服から皇帝ウィードⅠ世とみられた。

 「皇帝陛下ですか」

デューンが声をかける。

 同伴していた黒の兵士たちも、皇帝の体を支えながら手足の鎖を外す。

 皇帝は、激しい衰弱と意識も混濁(こんだく)があり、

 「・・・あ、・□δДが・・▼う」

と、定まらぬ焦点で聞き取れぬ言葉を吐くだけが精一杯だった。

 魔族は、皇帝を(あざむ)き主要3大臣職を奪取し、このザーガード帝国の実権を握っていたのだ。何らかの理由によって、命だけは奪われていなかったが、事実上の帝位簒奪(さんだつ)であった。先ほど城から飛び出し、デューンとイフらに屠られた魔族たちがまさに3大臣職のそれであった。

 皇帝の身を案じて後宮から王妃5人が、駆けつけて来た。涙を浮かべながら、各々に労りの言葉をかけていた。

 皇帝は、王妃たちの言葉に反応すらできなかったが、(まぶた)を動かして薄っすらと目を開けると、震える唇が微かに動いた。

 「・・・Д■・・▼・・ジャ・・ネットを・・・へ呼べ・・い・・ま・・・すぐに」

 皇帝の口元に耳を近づけていた王妃たちが(うなず)く。

 皇帝は、王妃たちに向けて(わず)かに微笑むと、そのまま眠るように意識を失った。

 ジャネットとは、先々帝エンペラードⅡ世の子、先帝ウィードⅠ世の実の妹であった。現在は、このザーガード帝国隣国のグリュードベル王国第4王子ダムクローの元へ政略結婚で嫁いでいた。

 デューンたちは、衰弱している皇帝に話は無理と判断し、1か月後の再来を伝えてその場を辞した。

 即日、ザーガード帝国帝都からグリュードベル王国のジャネットに向けて、祖先に魔物をもつグレートピジョンが伝書鳩として放たれた。また、伝令の騎兵10名が城門を駆け抜けて行った。


 「あぁ、結局、無駄足だったか」

デューンが城門を越えると、独り言を呟いた。

 「そんな事はないわよ。この帝都に潜む魔族を倒したし、結果として、傀儡(かいらい)だった皇帝も救出できたわ」

 「まあ、そうだよな。ここの民にも魔族への危機感が芽生えたよな」

 『1か月後には、事態が急変するかもしれん』

イフが振り返って、帝都の城壁を眺めていった。

 「でもねぇー、もう少し穏便に事が進められると良かったわ」

 「え、ちょっと待てよ。それは、兵士にキレたハフが原因だろう」

 「その言い方は失礼ね。隊長さんに案内を頼んだだけよ」

 「頼んだだけね・・・その方法が穏便ではなかったと言っているんだよ」

 「・・・・チッ」

 ハフは白い仮面を外した。そして、ピッコロを取り出すと、それを(かな)で始めた。

 「止めろー!」

デューンは、ブレイキンの様にアクロバティックに踊り始めた。イフもリズミカルで力強い舞を踊る。

 『ハフのピッコロの音色は、いつ聴いても軽快だ。ぐあははははっ』

 「くーっ、魔人ハフめー」

 『魔人同定には同意する』

 白い仮面を被った軽業師と魔物。もし、これを観たものがいるなら、曲芸一座の旅回りに見えたことだろう。

 ハフの軽快なピッコロの音色が草原の風に乗っていく。


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