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31. 海乃幸の依頼

 魔王城の朝は早い。


〝ガンッ!〟

〝バキッ!〟

〝ドドンッ!〟


 城壁の向こうで繰り広げられる、冒険者と骸骨衛士との戦いの音が目覚まし代わりだ。実のところ、冒険者といっても大抵はシステムがサービスで生成するN.P.C.なのだが、時々庭にまで侵入する(やから)は宝物狙いのプレイヤーではないかと思っている。魔王城であると認識しているかは不明だ。

 しかし、はっきり言って朝から迷惑であり、いくらご近所の家屋敷が森や林を挟んで離れているとはいえ、騒音問題になりかねない。


『結界を張ればいいだろう』

 ゲームマスターである凛子のアドバイスに従い、敷地の境界線に防音結界を張った。これは魔王城そのものによる魔法であり、当然ながら侵入者避けの罠やトラップは庭や城内のあちこちに仕掛けられている。たまに部屋の中で見境のない棚が動いて、足の小指を狙ってくるのはやめてほしい。


 骸骨衛士が並ぶ廊下を通って洗面所で顔を洗う頃には、食堂のテーブルに朝食が用意されている。

 厨房を切り盛りするコック長はオークで、ネコやトカゲの獣人とゴブリンロードを従えている。これもやはり魔物のN.P.C.なのだが、恐ろしい見かけによらず出てくる料理の味や香りは繊細かつ盛り付けも見事なものだ。これはほぼ強制的に提供させられている屋敷とのトレードオフらしく、また食にこだわる凛子の趣味に違いない。栄養のバランスも考慮されている点は、外食やコンビニ弁当が中心の食生活にはありがたい。今度、海で釣った魚を持ち帰って捌いてもらおうと思う。


「さて、今日のサポート依頼だが……」

 朝食が終わると凛子による運営ミーティングが始まる。ユーザーが増えていることもあり、平日は基本的に仕事になる。何もなければ遊びまわる凛子の相手をして一日が終わる場合が多い。最近のお気に入りは海釣りである。


「海乃幸から仕事が入っている」

「海乃? って、BBソフトでデザイン主任やってたあの人か。まだサキュバスやってるのか?」

「個人情報なので回答できない」

「まあ、転生はしてないだろうな。たしか去年、上野でメイドキャバクラか何かの店を開いたんで、花を送ったんだ」

「その、魔人クラブ《海乃》で問題が発生した」

「何があったんだ?」

「首だけの忍者が現れたそうだ」

「……首だけ……の?」

 何だそれ。

「そんなキャラクターが、マジユニにいたか?」

「いるわけないだろ」

「だよな」

 何かの悪戯としか思えないが。


「海乃によるとだな、昨日の夕方頃、Qちゃん……がお盆からお酒の入ったグラスを取り出す魔法をブンちゃん……に教えていたら、忍者の首が出てきた……大阪に住んでる子供の忍者だそうだ。後は混乱していてよく分からん。とにかく行って調べてくれ」

「凛子はどうするんだ?」

「私はエラー解析を行う」

「エラー? 珍しいな」

「マジユニのシステムに、軽微だが矛盾のある処理が発生した。今回の海乃の件と関係があるかもしれない」

「子供の忍者の首な……」

 首から下の体は、大阪にいるのだろうか?


 俺は仕方なく、古ボケた車で上野にあるクラブ《海乃》まで一人で行くことにした。

「とりあえず、昼前には到着すると連絡しておいてくれ」

「了解した」


《行ってらっしゃいませ!》

《お気をつけて!》

 城門に立つ骸骨衛士に見送られて車を出すと、サイドミラーに黒い雲が漂う魔王城が写った。これでは〝ここに魔王がいますよ〟と宣伝しているようなものだ。いっそのこと、駅前のビジネスホテルにでも引っ越して、通いの魔王でもやろうか……。

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