表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はWeb小説家をやめる  作者: TOBE
49/62

私がグイグイで何が悪い

 談話室を利用する女子の中で私、岳野予夢だけがグイグイという評価をうけている。

 別に直接いわれたわけじゃないが、男子共の顔にはっきりそう書いてある。ムカつく。

 だから今日は談話室で近葉と紺野が一つのノートを囲って何か書いていても首をつっこまなかったし、時おりケラケラ笑っていても何が可笑しいのか聞くこともしなかった。

 他の二人の女子と同様、澄まして視線さえやらず、ファッション雑誌をひたすらペラペラと好奇心をやり過ごす。すると、やがて男子共は遊びに飽きたのか「それじゃ俺達、先に帰るわ」と言って席を立った。

 談話室には女子三人。それと、さっきまで男子共がいじっていたノートが残された。

 私はまだ動かない。グイグイという評価はむしろ同じ女にこそ抱かれてはならない。

 そ知らぬ顔でファッションモデルのいけ好かないコラムなんぞに視線を落としていると。「さてと」上竜が読んでいた小説を閉じる、パタンという音が聞こえてきた。さてと。何がさてとなのか。流石に気になった私が顔を上げると、今度は「ええ」と言って賀来が編み物の手を止め、道具を長机に置いた。

 二人は私を見ている。そのまなざしの中には「グイグイなんて、気にしなくていいのよ」という優しさがあった。

 みんな。私は感動し、それでも口調は「そうね」と短く返し、立ち上がった。

 交換日記。引いた。他の二人も引いている。


「薄々そうではないかと思っていたけれど」不潔、と言いたげに上竜が顔をひきつらせる。

「見た目的には紺野くんがウケと見せかけて絶対クズさんがウケですよね」賀来は引きながらもちょっと興奮している。腐女子!

「でさ」私は二人に目配せしつつ言った。「見る?」

 馬鹿なこときかないで。二人は外人のように手を広げるジェスチャーで答える。い~い笑顔だ。愚問をしてしまった自分を「ふっ」と笑い、私はノートに手を掛けた。



 ○月△日

 薬草を採取した。

 触媒となる特別な水を採取した。

 スキルを使った。

 ポーションができた。

 小銭くらいにはなるかと売りに行ったら家一軒かえるくらいの金貨をくれた。

 うれしかったです。

【これで一日100アクセス以上確実!チョロッ】


 ○月△日

 いつも薬草をとるダンジョンに熊が出たから倒した。

 熊の部位をギルドに持っていったらクエストを斡旋されて、他の冒険者達と砂漠に行った。

 ワイバーンを倒した。

 帰りに本来の討伐目標であるワームを倒した。

 なんかSランク冒険者に認定された。

 うれしかったです。

【ブックマーク50達成やったね!】




「こ、これは……」たぶん他の二人と同じひきつった顔で、私は次のページをめくる。




 ○月△日

 エルフ「優しい……」

 猫耳「優しい……」

 王女「優しい……」

 聖霊「優しい……」

 聖女「優しい……」

 身分や特別な肩書きはないが、顔とスタイルは抜群の平民「優しい……」

 ハーレムが出来ました。うれしかったです。

【DO-KAKU下半期大賞に輝きました。みなさんのおかげです(笑)】


 ○月△日

 前世を再現したお菓子が王都で人気になって、なんだかんだで王城に招かれた。

 献上したお菓子を食べた王様は一口食べるなり美味しさのあまり天井を突き破り、大気圏に突入してそのまま星になった。

 うれしかったです。

【書籍化決定!】


 ←いや王様が星になったら反逆罪になるだろいい加減にしろ(爆)

 ○月△日

 冥王星まで流された王様は数年の時を経て地球に帰還する。しかしその姿は宇宙空間の過酷な環境に適応するため、もはや人の形を保っていないのだった。

 王都を焼き払わんと火炎を吐く巨大な怪物。隊員Iの悲痛な叫びが木霊する。「王様ぁ。お前、人の心はなくなっちまったのかよぉ」

【国民的特撮番組爆誕!】



「近葉のやつ体育の時間、やってたわね。ジャミ○の真似……一人で」


 というか流石に自由に書きすぎではないか。異世界アルアルで異世界作家を茶化すという趣旨からも外れてる気がする。


 ←何それ。真面目にやってよ。


 怒られてる――。こんな下らない遊びで真面目にやれって。

 呆れて読み進めると、紺野の軌道修正のお陰か、もとの趣旨に戻っていた。


「良かった、反省したようですね」と賀来が言う。

「良くはないでしょ。ぜんぜん良くはないでしょ」二回言うのも当然だと思えるくらい、上竜の言い分はもっともだった。

 更に読み進めると【】の部分の嘗めくさった文章は【国民栄誉賞授賞】までいったが、それ以上はレパートリーがなくなったのか書かれなくなり、同時に日記自体の流れも少しずつ変わり始めた。



 ○月△日

 私はついに王国を出る決意をした。転生以来、様々な発明と冒険で王国を繁栄させてきたが、魔王が原因とされる農作物の不作、マナの減少は依然として歯止めが掛からずにいる。

 魔王討伐はチートを持って生れた転生者の宿命。前世の記憶を持つ私にとってそれは自明、規定路線であったが、魔王城が浮かぶという鉛色の空を見ていると、何故だかひどく不安がつのってくるのだった。


 ○月△日

 飛空艇の整備を進める私のもとに不慮の知らせが届いた。メイン燃料である魔石を積んだ船団が沈没したというのである。

 すわ魔王軍に襲われたか、自ら出向けば良かったと後悔したが、聞けば理由は悪天候による事故だという。

 かなりの痛手だった。魔石の収集は転生し、物心ついた頃から方々に依頼して進めてきた一大プロジェクトであり、再び同じ量を集めるとなると途方もない時間を要すると予測された。

 魔王の影響は日に日に強まっている。もう一度などと、そんな時間は残されていない。

 私はすぐに別の方法を模索し始めるのだった。


 ○月△日

 この世界でエネルギーが形をとる現象は前世のものとほぼ同じである。

 火、水、風、光、そして雷。電気エネルギー。魔石の代わりにこれを動力源としてはどうかと考えついた。

 しかし話はそう簡単ではない。魔石は全てのエネルギーの(みなもと)であり、前世の科学の常識で考えるならエネルギーは(みなもと)から別の形へ変換されればされるほど元の力を失うのである。つまり、下手をすると電気は魔石から直接取り出すエネルギーの劣化版。これを補うには周囲の自然現象からの発電、そして電気を受け取る側のエネルギー使用効率を高めていくしかない。

 問題は山積み。しかし私は燃えている。これは転生者である自分にしか越えられない山なのだから。


 ○月△日

 順風満帆のチート人生はどこへいったのだろう。魔石の一件いらい不運が続き、まるでこれまでのツケを払わされているような心持ちである。

 エネルギー効率向上の為に必須だった稀少金属はまたしても海の藻屑と消え、発電機構の開発は次から次へと問題が浮上してくる。

 そして今日、これまでで一番の問題、その兆しに直面した。もはや重要物資の輸送を他人に任せてはおられぬと自ら王国の山を越え、国境までやってきた時それは起こった。

 私の頭に突如として発症した雷鳴のような頭痛。国境から少し後退し、休んでいると頭痛は治まった。そしてまた国境に近づくと体調が悪くなる。

 これはどうしたことか。嫌な予感を抱いた私は回復するなり今度は別のルートから国を出ようと転移魔法を使った。

 今日じゅうに試せる場所は全て駄目だった。今わたしは港の施設から海を睨み付けている。私が到着するなりまるで出航を阻むように波は荒れ狂い、空には稲妻が縦横無尽に走っている。

 もしかしたら。私は国を出られないのかもしれない。


 ○月△日

 猫耳「優しい……」

 王女「優しい……」

 聖女「優しい……」

 平民「優しい……」

 最後まで私のそばにいることを選んだ彼女達は、息をひきとる瞬間まで私をそう評した。

 私が停滞しているうちに魔王の影響は進行し、天候不順、飢餓、疫病などあらゆる厄災が私の大切な者達の命を奪った。

 私は何か見えざる力によって王国を出られない。いくらチートな能力を持っていても、私では世界を救えない。

 いままで手掛けた数多の発明は、長命なエルフ、永遠の命を持つ聖霊に託され、涙ながらに国を出奔した彼女達によって後世へ伝えられるだろう。

 これでいい。全てをやり終えた私は今、自宅のある丘に立っている。荒廃した王都を見下ろせば、恋人たちと過ごした楽しい日々が甦ってくる。

 ふと思いたってステータス画面を開く。称号の欄には「古代の大悪党」とある。

 つまり、そういうことなのだろう。

 間もなく王都の生き残り達が私を殺しにくる。役立たずのチート能力者に、追い詰められた人間が抱く感情など、こんなものだ。

 返り討ちは容易だが、私はもう抵抗しない。このまま静かに第二の人生に幕を閉じるとしよう。

 最後に。真の転生チート、「勇者」の出現をせつに願って。




「いやぁ忘れ物忘れ物」談話室のドアが開き、近葉と紺野が入ってくる。近葉が鞄にノートをしまい、同時に私達の放つ異様な雰囲気に気が付いた。「どうしたお前ら、静まりかえって」

 まさかノートの中身、読んだんじゃ。近葉は眉をひそめるが私は構わずツカツカと近寄る。危険察知能力の高い紺野などは既に逃げ腰だが退路を賀来と上竜が塞ぎ「逃げようたってそうはいきませんぜ、坊っちゃん」と笑う。

 代表して、私は怯える近葉にググイッと詰め寄った。


「勇者篇、はよっ!」


「なんで許可したんだ、飛竜院のやつ!」怨嗟の声をあげながらの執筆は、午前0時を過ぎるまで続けられた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ