第8話 『魔法学 Ⅰ 』
3時間ほどで「種族図鑑」を読み終わる。流して読んだのでこのぐらいだったが、普通に読んだらかなりの時間がかかっただろう。
なかなかの情報量だったな。人についての知識はある程度分かった。あとは法律やらの常識が知りたいな。
「魔法についてもだな」
うーん。腕を組んで頭を悩ませる。魔法はよくわからんな。あの爺さんがなんか言ってたっけな。
「次は魔法入門書にするか」
重ねている本から一冊抜き取る。こちらは「種族図鑑」ほど厚くはないがページ数はかなりのものだ。本を探していた時に軽く読んでみたが、魔法についての基本的なことが書かれていた。
魔法とは人智及ばぬ神秘の力。天より与えられし技とも、深淵より漏れるエネルギーとも、世界が秘める力とも言われる。宗教と紐付けられ、信仰魔法と呼ばれるその宗派の者しか使えない特別な魔法もある。種族によって魔法への適性は上下するが、一部を除きほとんどの種族が魔法を使用できる可能性を秘めている。知識と魔力、そして素質。この三つが重要であり―――
と、部屋の奥でがちゃりと扉が開く音がする。キーラに聞いたが、奥は貴重な資料を保管しているらしい。俺はもちろん入れない。それに魔法で鍵がかけられているそうだ。
「げ...」
扉から出てきたのはあの爺さん。宮廷魔術師のツェーなんとかだったかな?後ろには資料を抱えた人型の岩の塊がついてきている。身長は2mほどで逆三角形の体型をしており、丸い頭は半分ほど胴に埋まり、目と思しき部分には赤い宝石、みぞおちの辺りにはオレンジ色の宝石がはめられている。岩の色は大理石のようで、銀色の紋様が体の宝石から伸びている。高級感のある様相で城の中を歩いていても違和感はないだろう。
ゴーレムというやつか。関節の可動はスムーズなようであまり音は立てていない。じっと観察していると爺さんと目が合う。にこり、いやニタリの方が近い笑みを浮かべ近づいてくる。
「奇遇じゃな」
「ああ」苦笑いで答える。
すると読んでいた本を眺めて笑みを浮かべる。
「ほう、魔法の書か。それにしても、あれほどの魔法を使用できて入門書を読んでおるのか?」
「あ、ああ。ろくな知識も持っていないからな...」
「ほう、知識もなしに魔法が使えるとは...先日の話もだが...実に興味深いのぅ」
少しの沈黙の後老人が口を開く。
「ふむ、魔法のことを知りたいならわしの研究室に来るが良かろう。おぬし自身、自分の力を理解しておらんようだしの」
ふむ、この爺さんに従うのは癪だが餅は餅屋。魔法の事は魔法使いに聞いた方が手っ取り早い。
「そうだな。あんたもそっちの方が嬉しそうだ」
「ほほ!そうじゃのぉ、研究者として未知との遭遇は実に嬉しいものじゃからな」
「お、おう」
テンション高いな...すごい笑ってるよ...
「では、ついてくるがよい」
「ああ」
本を片付けて爺さんと一緒に研究室とやらに向かう。すると後ろからかしゃりかしゃりと小さな音を立てゴーレムもついて来る。少しぎこちないが自然な動きだ。ほんとに岩で出来てんのか?
「こいつはあんたが作ったのか?」
「ん?ああ、わしゃここまでのは作れんよ。うちの錬金術師たちの長、スケイル・メイル・スケアクロウ。マスターゴーレムクラフターと呼ばれ、ゴーレムクラフトにおいて右に出るものはいないのぉ」
スケイル・メイル・スケアクロウ?・・・確かスケイルは鱗だったかな?メイルは鎧。ゲームにスケイルメイルってのが出てきたけど、鱗みたいな金属片を縫い付けた鎧だよな。んでスケアクロウはかかし。鎧のかかし...ゴーレム?なんか偽名っぽいな...
「偽名か?」
「ふむ...偽名...ではないが親に名付けられた名ではないの」
「妙な言い回しだがどういう意味だ?」
「スケちゃんと礼拝堂に居たアヌはおぬしと同じでここの生まれではないのじゃ」
お、やはり外にもエルフがいるようだな。
「そうだったのか」
「色々あってここに住むことになったのじゃが、込み入った事情がある故、わしが話すべきではないのお」
ほーん。気にはなるが仕方ないか。
それから数分。広い居館の廊下を歩いて行く。
「ついたぞい」
爺さんが扉の前で止まる。ゴーレムはギリギリ入れそうだ。扉は魔力を帯びている。おそらくは持ち逃げ対策の魔法だろう。
建て付けが悪いのか音を立てながら扉が開く。
中に入ると右の壁一面に本棚が配置され、正面にあるいくつかの木製のラックには何かの生物や植物が詰めらた瓶や美しい蝶の標本、光を反射してきらきらと輝く水晶、植木鉢に生えるどこかで見た花などが所狭しと並んでいる。奥にある机の上には丸められた羊皮紙が積み重ねられ山を形成しており、そこからは魔力の流れを感じる。部屋の隅には様々な雑貨が積み重ねられた所があり、片付けが苦手なことを容易に想像できた。照明はもちろん<灯火>が付与された魔導具で薄い輝きを放っている。
「白盾一六号。資料を机の上に置くのじゃ」
するとゴーレムは奥にある机の上のスペースに持っていた資料を丁寧に置く。かぼちゃを握りつぶせそうな大きさの手で器用に資料を置く姿は実に滑稽である。使い方間違ってるだろこれ...
「白盾という名前なのか?」
「そうじゃ。うちのゴーレムは防御型の『盾』、攻撃型の『矛』、魔法砲台の『杖』がおって、こいつは防御型最下位の白盾。その上が晶盾、黄盾、鋼盾、金剛盾、と続き最硬は黒盾じゃ。『杖』は特殊で鋼と黒が無くミスリル製の碧杖が最硬になる。これは鉱物の魔法適正が関係しておるのじゃが...錬金術の話はこれくらいにして魔法の勉強を始めるかのお」
すると物が積み重なっている一角に行きがさがさと漁る。そこから黒い板のようなものを取り出しゴーレムに持たせる。
「これは...黒板か?」
「そうじゃ。こいつを使うぞい」
用意された椅子に座る。学生時代を思い出す。
「はじめに魔法の基礎の基礎からじゃ。魔法にあまり関心の無い者は魔法と言ったら炎を出したり、冷気を放ったり、空を飛んだりとイメージするだろう。しかし魔法にも様々な種類がある。わしが得意とする最もポピュラーな『魔術』。鉱物や金属を触媒とする『錬金術』。弱体付与系の魔法を得意とする『呪術』。宗派によって様々な信仰魔法を使える『奇跡』。エルフやドルイドが使用できる『精霊術』。モンスターなどを召喚し使役する『召喚術』。幻覚を見せたり相手に催眠をかける『幻術』。霊体や死体を使う『死霊術』。ヒューマンの島国に伝わる『妖術』『陰陽術』。などなど地域や種族によって異なる種類があるのじゃ」
「なるほどな。『魔法』ってのはそれらの総称か。種類は分かったがどんな原理で魔法を使えてるんだ?」
爺さんはふむと言って黒板を向き、図を描き始める。
「そうじゃな、次は魔導器官の話をしよう。」
「魔導器官?そのまんまだな」
「ほほそうじゃのお。魔導器官は生成炉、タンク、排出口、変性機構、伝達路、発現門の6つで出来ておる。生成炉は魔力を生成。タンクは貯蔵。排出口はタンクから出る魔力の調整。変性機構は魔力を属性、系統別に変化。伝達路を通り、発現門で魔法を放つ」
図が書き終わり、こちらに向き直る。
水の滴る石、酒樽、蛇口、何本にも分かれるホース、ノズル。
「なんとなくイメージできた」
「うむ。しかし魔導器官には個人差がある。例えばタンクの容量が多くても最大出力が低いなんてこともあるのじゃ」
「素質が重要ってのは魔導器官のことか」
「そうじゃな。使用できる属性や系統、出力、容量全て、とは言わないが噛み合わなければならないため、魔法の才能があると言える者は少ないんじゃ」
「では次じゃ。魔導器官がどこにあるかわかるか?」
「う...ん...?」
頭や腹のなかにそんなのが入る余裕なんかないよな...考えていると爺さんがニヤリと笑う。
「答えは、『ここにあるがここにはない』じゃ」
「あ、そういうのいいんで」
む、と言って、わざとらしく口を尖らせる。
「はあ、魔導器官は体内ではなく、『領域』と呼ばれる場所に内包されている」
「なんだそれは?」
「魔法を使えるならばわかるはずじゃ。声を聞いたことはあるか?」
声...もしかしてあれか?自分の内側に意識を向ける。
―――『領域と接続』
『使用可能属性 火 水 風 土 雷 神聖』
『使用可能系統 <無属性> 強化 防御 放出 創造 探知 特殊 <属性> 付与 加護 放出 回復 精霊 召喚 創造 体外魔力操作 特殊』
『体内魔力の残量 467,614/467,614』
『体内魔力生成炉性能 5.4/s』
『最大放出許容上限 226,893 』
『同時使用可能魔力伝達路 6門』
「なるほど、これか」
「分かったようじゃな。『領域』とは世界と自分、自分と他人を分かつもの。『領域』には魂が紐付けられ、この世界に存在する全ての者がそれを持っているのじゃ」
「じゃあ死んだらどうなるんだ?」
「死を迎えると魂が少しずつ劣化していく。すると魂と『領域』の繋がりが解けていき、世界との境界が曖昧になる。そして世界と同化、土へと還るのじゃ。まあ、アンデットの原理はネクロマンサーにでも聞いてくれ」
『領域』の中に魔導器官があり、魂で繋がっていると。死ぬと魂が劣化していき、体も朽ち果てる。
「よし、理解した」
「うむ。よきよき、あとは魔力の性質、種類、魔法の階級、属性、系統...こんなところかのお」
「はあ、まだまだあるな...」
「うむ。魔法は知識こそが力となる。原理、理屈、理論。理解する事で魔法を使えこなせるようになるのじゃ。おぬしはすでに魔法を使いこなせるようじゃが、そういった事は重要じゃぞ」
「はいはい」
適当に返した俺の言葉に気にする素振りもなく木製のラックから水晶を手に取り話し始める。
「では次じゃ」
続きます。




