第9話 『魔法学 Ⅱ』
爺さんは、角張った棒状の水晶を手に取った。15cm位の長さで、<灯火>の光を反射し、青白く輝いている。魔力はあるようだが、ほとんど流れを感じない。不思議そうな顔を浮かべていたのか、爺さんがすぐに答えてくれる。
「これはマナクリスタル。大気に満ちているマナが結晶化したものでこのサイズになるまでにだいたい750年程かかり、それ相応の堆積されたマナが内包されておる。ほとんどは魔力だまりと重なった洞窟に少しづつ生成される。杖に使ったり、そのまま触媒に使ったり、高級なポーションに使ったり、内包されたマナを使ったり様々な用途があるのじゃ。需要は多いのじゃが、貴重で、市場ではかなりの値がつく」
「マナとは?」
「うむ。魔力には3つ...いや4つの種類がある。一つ目はオド。領域内の生成炉から湧き出る魔力。自然界には存在せず、垂れ流していると霧散する。変幻自在で水のような性質を持つ。二つ目はマナ。大気中に満ちている強大な魔力。マナ自体を直接消費して魔法を使用することはできず、精霊や対外魔力操作系の魔法によってコントロールすることで魔法として確立する。同じく水のような性質を持つ。三つ目はイド。信仰魔法を使用するための後付けの魔力。水のような性質を持つが、こちらはグラスに入っているイメージ。与えられたグラスの数だけ魔法を使用でき、普段使えない属性、系統の魔法を使用できる。つまりは1日の回数制限付きで信仰魔法を使用可能な魔力。そして四つ目。大昔の神代、世界に満ち満ちていた魔力、エーテル。神はエーテルを使って大地や空、海や人を作ったとされる。まあ、神話の話じゃがな」
「実質的には3つということか」
それにしても水のような性質か。領域の中では液体、体外では気体、魔力の濃いところでは少しづつ個体になる、ってところか。
「そうじゃな。まあ、神話関連も後で勉強するがよかろう。いくらか誇張されているじゃろうが、全くのでたらめという訳ではないかもしれんしのお」
「確かにな」
魔法やモンスターなんてのがある世界だ。神がいても不思議じゃない。
「ちなみに魔力ごとで燃費が違っており、オド≦イド<マナ<エーテルとされる。イドはピンキリじゃが、マナはオドの千倍ほどの力を持っておる」
「ほー、マナ一滴で同じ量のオドの千倍の力を出せるのか」
「そうじゃ。うむ、魔力の話はこれくらいで、次は魔法の話に行こうかのお」
「まずは属性。基本となる七属性は火、風、水、土、雷、神聖、深淵」
黒板に書いていた図を消し、円に囲まれた五芒星を書く。星の五つの頂点に火、風、水、土、雷と上から時計回りに書いていく。その隣に神聖と深淵が互いに矢印を刺している。
「五属性は隣り合っている属性が相生で、火と風、風と水、水と土、土と雷、雷と火の相性が良い。覚え方は、風が吹き暗雲が空を覆う、雨が地を濡らし、雷鳴が轟き、雷は高木を赤々と燃え上がらせる。線で繋がっている属性が相克で、火と水、水と雷、雷と風、風と土、土と火が互いに打ち消す。こちらは、燃え上がる火は雨によって消え、雷雲は風によって彼方に運ばれ、濡れた土からは新たな生命が芽吹く。と覚える」
「神聖と深淵は?」
「それらは相克で、互いに打ち消しあう。この二つの属性は希少で、適正者は少ない。特に深淵属性に適性のある者は極端に少なく、この国に使える者はおらん」
爺さんは、一瞬渋い顔をしたがすぐに元の顔に戻る。何かあったのかと聞こうととしたが、すぐに次の話に移る。
「次は魔法の系統じゃ。無属性と属性魔法に分かれ、無属性は強化 防御 放出 回復 召喚 創造 探知 特殊。属性は強化 防御 付与 加護 放出 回復 精霊 召喚 創造 体外魔力操作 特殊。まあ、ほとんど文字通りじゃの。特殊は空間、幻、状態異常といくつか複合されておる」
「使える属性、系統は人によって異なり、エルフは風属性の適性が最も高く、最低でも低位魔法は極めることができる」
「エルフは全員魔法が使えるのか。人...ヒューマンはどれくらいの割合なんだ?」
「10人に1人ほどは魔法使いになれる素質があるが、魔法を学ぶ機会が無ければ使えぬ故に割合はもっと低くなる。さらに覚えられる魔法も少ない」
図鑑通りヒューマンの魔法適性は低いようだな。エルフは全員使えるようだし、かなり優遇されているみたいだ。
「では最後に魔法の階級の話じゃ。魔法は一等〜九等に分けられ、それぞれ天使の階級を与えられておる。低位は9等天使級、8等大天使級、7等権天使級。中位は6等能天使級、5等力天使級、4等主天使級。高位は3等座天使級、2等智天使級、1等熾天使級となっておる。もちろん高位に行くほど魔力の消費量が増えていき、詠唱が必要な儀式魔法や大規模魔法がふえていく。おぬしの使った<禊の雫>は神聖属性の儀式魔法じゃな」
リオの弟に使ったやつか。どうりで消費量が多いと。
「敵に使われたやつは<機械仕掛けの羊の夢>だっか?」
「そうじゃ。深淵属性、智天使級の大規模儀式魔法。希少属性の高位魔法を使いこなす...相手は相当の使い手じゃったのお」
先程と同じような口調だが、若干の苦々しさを感じる。
「ところであんたは宮廷魔術師なんだろ?敵の魔法使いと比べてどのくらいの実力を持っているんだ?」
この爺さんがどのくらいの魔法を使えるのかは気になる。
「そうじゃな...敵はおそらく呪術師。詳しいことはライオネルに聞かなくては分からないが、正面切って戦うタイプではない。同程度の魔力量ならば、わしは放出系をメインに使うため一対一ならこちらに分がある」
呪術師と魔術師か。呪術はデバフをかける支援型のイメージがあるが、魔術は放出系で炎なんかを飛ばす感じなのか。
「相性はいいってわけか」
「しかし、深淵属性は強力じゃ。相手の魔力がわしよりも上の可能性も捨てられん。裏でこそこそとされたらたまったもんじゃない」
そう言ってわざとらしく肩をすくめる。
「まあ、魔法に関して教えられることはだいたい教えたかのお」
「そうか、ありがとう」
よし、魔法についてもだいたいのことは理解できた。
「で、気になっていたのじゃが、礼拝堂で最初から魔法を使えたと言っていたが、おぬしはどれほどの魔法を覚えておるのじゃ?」
爺さんは待ってましたと言わんばかりの表情で質問してくる。
面倒事はごめんだが、色々情報をもらったのだからこちらも言わざるを得ない。仕方ないが正直に言おう。
「うーん...無属性、五属性、神聖属性の魔法はだいたい使えるな。熾天使級は各属性3種は覚えてるが、深淵属性はまったく使えん」
すると、爺さんは一瞬目を見開くとすぐに冷静になったのか髭に手を当て、思案にふける。
「試しに低位の火属性魔法を使ってみてくれ」
そう言うと、真偽を確かめるような視線をこちらに向けてくる。
「あ、ああ」
やべ、流石にべらべら喋ったのはまずかったか?とまれ、威力と範囲を絞り掌から魔法を具現化させる。
「<火炎>」
掌で揺らめく炎を爺さんは軽く一瞥すると、
「うむ、座天使級を3門同時展開した時からなんとなく考えてはいたが、やはり 祝福じゃろうな」
「祝福?」
「神々からの贈り物。選ばれた者にのみ与えられる特別な力じゃ。この国には片手で数えられるほどしかおらん。おそらく、おぬしの力は『熟練した魔法技能の付与』かのお?」
「やはりすごいのか?」
「・・・エルフは風の精霊が肉体を持った種族。火属性魔法は使用できない。わしは風、水、土、雷の四属性を使えるがそれでもめずらいしほうじゃ。八百数十年生きているが六属性使いも火属性魔法を使えるエルフも見たことがない。今まで見てきた祝福の中でも随一の効果じゃな」
「ふーん」
やっぱり相当強い力をもらったようだ。この世界で楽に暮らしていけるかもしれん。
「軽いのお...六属性、さらには多くの熾天使級魔法を使うなぞ伝説の領域じゃぞ...」
はあ、とため息をつき、言葉を続ける。
「スカーサハ。まさにエルフの英雄の名を継ぐにふさわしい力じゃ」
「―――時間じゃな。そろそろ謁見の間へ行くとしよう」
時計を見れば、約束の時間に近づいている。
「白盾一六号。主人の元に戻っていいぞ」
そう言うと黒板を元あったところに置いたあと小さな音を立てながら扉に向かって歩いていく。
「わしらも行こうか」
「ああ」
返事をし、頭の中で話す内容を組み立てながら謁見の間へと向かう。
説明回おわり。




