襲撃!
「兄貴、頼まれていたパワーローターを持ってきたぞ! 旧式の中古だけどパワーだけなら民需用では国内最大級だぞ」泰三は兄の依頼で、難民収容所の排水路建設の為に全高10メートルもあるパワーローター”菱潟製作所製アトランティック”を調達してきた。
「本当ならサイバーテック・モビルの最新型をリースしたかったんだけど、大陸に優先だといわれたので、昔の伝手で建設が中断されたダム工事現場にあったやつを借りてきたぞ。一応ダム工事が再開されるまでには返してくれということだけど、当分なさそうだから大丈夫だ」
泰三が借りてきたのは、圧搾空気と油圧で大きなアームを動かすことが出来るパワーローターで、移動のための足も付いていた。これがあれば春が来て雪が溶け出して洪水になる前には排水路を作るのは簡単だと思われた。しかしサイズが大きすぎたといえる代物だった。
「泰三、ありがたいけどちょっと大きすぎないか? それにリース代金だってかかるのじゃないか? でもありがとう」といって、早速ならし操縦をし始めた。アトランティックは旧式なので軍事用よりも動作は遅かったが、その分パワーがあるので土木用としては充分だった。
「兄貴、聞いた話なんだけど今度大陸に派遣されるパワードスーツのパワーソースって人造機械化筋肉細胞だそうだ。だから今までのパワーローターも新製品から変わるはずだから、もしかするとそのまま無償で譲渡してもいいぞと言われた。だから兄貴が自由に改造してもいいそうだ」といって、誠二が操作するアトランティックを見ていた。
実は人造機械化筋肉細胞はサイバーテック・ロイドがノ・ヤンスクからもたらされた技術情報を元に開発したもので、”奴ら”とは違い培養した有機細胞と機械細胞を融合したもので、理論上は人間改造の機械化兵士よりも強力なものとされていた。 なお”奴ら”の機械化兵士の三分の二は女性を素体としていたが、これは女性の方が機械細胞との融合率が高かったためといわれていたので、”奴ら”の支配下地域の女性人口が激減したといわれていたが、この事が明らかになったのは大戦末期になってからであった。
一通り慣らし操縦をしたあと誠二はコックピットから降りて、ヤンスク一家を雇用することのお礼を泰三に言った。そして今日は久しぶりに兄弟と飲もうといったが、泰三は本当にありがたい話だけど今日は松本で大学の先輩の招待を受けているので、そっちに行かないといけないといって断った。そして別れ間際に「兄貴、それじゃオさん一家の引越し祝いをするから久しぶりに富山に帰ってきてよ。親父だってそれぐらいは多めに見るはずだから大丈夫だ。その時積もる話をしようよ」と言って収容所を後にした。この時泰三が見た誠二の生前最後の姿になった。
万騎が原難民収容所が襲撃された2027年12月17日は、最悪の一日であった。まず午前10時に国連機構軍小松基地に着陸予定だった大陸からの難民800人を乗せた大型旅客機が着陸に失敗し多数の死傷者がでたほか、名古屋で国連機構難民高等弁務官事務所中部支部が自動車爆弾によって入居していたビルごと破壊され、中部地方の難民収容所三箇所で暴動、長野では”黄金の約束”関西支部のデモが暴徒化し、多数の逮捕者がでる事件が起きていた。そのため、各地の治安当局は対処に忙殺されていたが、それらは”奴ら”が万騎が原を襲撃するための撹乱行為にすぎなかった。実際これで万騎が原にいた警備隊も他の収容所に出動したため警備が手薄になっていた。
この日、さらに手薄にする事が行われようとしていた。万騎が原に装甲車に守られたトラック45台が第八地区に入ってきた。これは機械化兵士のうち約2300人を秘密のうちにニュージーランドに移送するためだった。彼らは国連機構軍小牧基地まで移動してから空路移動することになっていたが、決定されたのは二日前で慌しい移動となった。そのため移動手続きをするため装甲車に松本卓爾所長が同乗したほどだった。この一行を警備するため精鋭隊員の大半が同行してしまった。残った警備隊員は非武装の難民が暴徒化したときには対応できたが、武装したテロリストには無力であった。
この日の”難日会”と”奴ら”による襲撃の最大の目的は、”裏切った機械化兵士”抹殺とノ・ヤンスクの拉致であり、皮肉なことに意味を半分なさなくなっていたが、復讐心に燃えていた島内高志こと中田由自は、難民を虐殺することしか頭に無かった。
警備が手薄な万騎が原裏にある急峻な山岳地帯を”難日会”メンバーをテロリストに改造した一団が密かにやってきていた。この時200人がいたがそのうち50人がパワードスーツに融合され、そのほかの150人は簡易版機械化兵に改造させていた。
その中にパワードスーツと一体化させられていた赤木田沙里奈がいた。彼女の身に施された改造は大変粗雑なもので、簡単に言えば”機ぐるみ”を着せられたが、彼女の肉体は機械化細胞の暴走によって溶解してしまい、皮膚も消失し筋肉細胞も内臓細胞も機械化細胞の餌食になっていた。元の彼女の身体で残っているものとしては頭部と脊髄の骨格だけであった。そう完全に別の生命体に変異しており二度と脱げないばかりか。元にも戻れなくなっていた。
この点は”鋼鐵の子宮”で製造される”機械娘”と同じだったが、それとは異なり生存の可能性も少なく、下手をすれば数日も生きられないものだった。しかも後に”機械娘”のなかには、ある程度もとの肉体を復元できたが、彼女はそれさえも不可能なレベルだった。
「あたしの身体は何処に行ったのよ? なんでこんな機械人形の部品が私の体の一部のように感じるのよ。それにあたしはもう呼吸もしていないし死んでいるというわけなの? それになんでこれから人殺しに行かないといけないのよ。こんなのいやだよ。だれかここから出してよ! 」
そう心の中で叫んでいたが、彼女の肉体は急造の”機械娘”の素体として使われ融かされていたのだ。だから後は人々を殺し、テロリストとして人類側に消される運命しか残されていないようだった。これは、この日テロリストにされた”難日会”メンバーに共通したものであった。




