テロリストに改造された者たち
島内高志こと中田由自は、2022年の総選挙で政権与党だった民政党よりも右寄りの政策を主張する政党は議席は取れないという定説を打ち破り、議席を取った極右政党「黄金の約束」の議員の一人だった。その背景には日中国境紛争と外国人移民排斥を求める一部過激な世論の支持があったためだ。
当時の石貫内閣の憲法改正に協力し僅かな差で国民投票で改正を実現した。これで国際的協調路線で平和になると人々は思ったが、それは幻想だった。”奴ら”は東アジアを紛争地域の一つにすることを目的にしており、石貫内閣の超強硬軍事路線を取らせる事で破滅へのトリガーを引かせたのだ。
また”奴ら”は他の国にも工作をしており、中国では政権中枢に覇権主義による周辺地域への武力による諸問題の解決を図らせ、一方で国内の民族対立を激化させた。また朝鮮半島では北の独裁者一族の殺害によるカオス化、南には経済混乱による政権崩壊をしかけた。その結果、意味のない群雄割拠がおきてしまった。
一方、日本では言論統制が行われアメリカ合衆国との軍事同盟を強化しようとしたが、そこに落とし穴があった。アメリカの政権中枢に”奴ら”の洗脳を受けた者が複数いたのだ。結果として”奴ら”のよる人類共倒れ計画に乗せられた訳であった。そのことが暴露され石貫は自ら死を選んだが、それは他の主要国の政治指導者よりもマシだったかのしれない。他の”奴ら”に協力したとみなされた首脳のなかには”奴ら”によって”処刑”がテレビ中継されたものもいた。
中田ら”黄金の約束”自体は石貫に連座することはなかったが、大多数の国民から外国人排斥をするのは”奴ら”に協力しているとみなされ、事実上表舞台から追放された。しかし、それを不当な陰謀だとして、なおも外国人排斥を訴える活動をしていたが、戦時体制への反発を抱く者たちから、少なからずの支持を集めていた。
古今東西共通することであるが、そういった不満を持つ若者達の中にはヘイトスピーチといった言葉の暴力からエスカレートして破壊行為、そうテロリズムに走る者も少なくなかった。彼ら”難日会”の中枢部は”奴ら”の策謀にのり難民収容所への同時多発襲撃を計画していたが、多くのメンバーは洗脳され機械化された”道具”に文字どうり改造された。
その一人、赤木田沙里奈は事件発生時の2027年当時17歳だったが、その二年前の中学生時代に、名古屋近郊で行われた”黄金の約束”の難民収容所設置反対集会で、「設置すれば南京大虐殺のように皆殺しにしてやる」と、1937年の南京事件と同じことを起こすようなアピールをしたことで問題児扱いされていた。もっとも彼女はその場の雰囲気に流されいったことであり、本当はその気などなかった。だいたい、これは言葉の暴力であっても”奴ら”のように本当に人を殺すはずはない、脅しだから・・・
その日”難日会”の抗議デモに行こうとした彼女は”奴ら”の工作員によって拉致され、即席の”機械娘”の素体にされてしまったのだ。万騎が原を襲撃するテロリストとしてだ。いつものようにデモに参加するつもりで最寄り駅まで電車で来て待ち合わせ場所に行ったところ、突然トラックの荷台に乗せられ、着ているものを全て脱がされ、そこにあったカプセルの中に入れられてしまった。
これは”鋼鐵の子宮”の簡易版といるもので、日本国内に持ち込められるようにコンパクトに設計されていた。しかし、その装置の改造能力は大変低く”機械娘”と違い全身の改造は出来なかった。そのため身体にあらかじめ機械細胞で構成された外骨格を着せ、身体から外れないように結合する機能しかなかった。いわば”機ぐるみ”に無理矢理閉じ込めるわけである。
彼女ら”難日会”メンバーは”使い捨て”なので粗雑な改造であったので、大陸で暴れまわっていた”機械化兵士”よりも戦闘能力が低く、その生存機能も著しく劣っていた。沙里奈のようにデモに参加しようとして改造されたのは150人いたが、このような事をしたのは単に”鋼鐵の子宮”を日本に運び込めなかった上、”難日会”を処分するのに都合がよかったからだ。もはや権力の中枢にいない者に利用価値はなかったからだ。
彼女ら使い捨ての”機械娘”には最小限の火器しか与えられなかったが、武装などしていない難民にとってはそれだけで脅威だった。もっとも正規軍の火器に勝つことが出来るはずもないうえ、粗雑な改造のため耐久性が乏しくもはや生存の見込みもなかったが、”奴ら”からすれば、旧人類同士が殺しあうのだからドウでもよかった。
中田由自は”奴ら”に同志を売ったがそれは自分を追放した祖国への復讐であるとともに”奴ら”の甘言に乗ったのだ。テロを実行すれば”奴ら”の支配階層に入れると・・・・
一方”使い捨て機械化兵士”にされた赤木田沙里奈であるが、あまりのことでショックを受けていた。裸にされたと思ったらカプセルの中で甲冑を被せるように身体の上に外骨格をつけられたところ、灼熱の刻印をされたかのような激痛を受け、のた打ち回っていた。そして落ち着くと自分の意思に関係なく身体が勝手に動くのだ。
その後、”難日会”メンバーはトラックに乗せられたまま”奴ら”のアジトに連れて行かれ、そこで自衛隊機兵部隊から退役し大陸のレジスタンスへ供与されるはずだったパワードスーツに永久連結する作業が行われた。これらパワードスーツは”奴ら”によってハイジャックされた輸送艦から強奪されたものだった。
全身の痛みが癒えない沙里奈も”二二式機動重装備強化服”のコックピットに入れられ”奴ら”の機械細胞によって有機的に結合されてしまった。もはや自力では機械の体から出ることが出来なくなった。
「こんなの嫌だよ! あたしはこんな殺人機械になるために活動していたわけではないし、言葉では死ねとはいったけど本当に人殺しする気はなかったのよ。あたしはただ・・・」と心の中で叫んでいたが、その声は誰にも聞こえなかった。彼女はただの消耗兵器の制御装置でしかなかったからだ。後は難民を以前自身が言ったとおりにして、自衛隊か国連機構軍の餌食になる運命しか残されていなかった。




