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夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第九章:急変する状況の中で
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途中まで付いていく!

 美由紀と薫、前田所長が泰三と話すため不在にしている間も研究所では出発準備をしていた。もっとも今回の東京本社行きは、臨時のもので見本市に必要なものは既に発送が始まっているので、今回は松山本社から回送して来たアンドロイド専用車に最小限必要な装置を載せるだけだった。


 そのため、夕方出発するのは美由紀と聖美と真実の三人の機械娘と所長と薫と松山本社からのスタッフ二名と少人数で、西第三研究所のスタッフは誰も同行しないことになっていた。これもスタッフの大半が夏季休暇を取っているためだが、本当は”奴ら”からのテロ攻撃を受けるのは確実な状況なので、可能な限りスタッフを退避させる事が目的であったことを知っているのは所長と薫だけだった。


 その頃、聖美と真実は美咲だけでなく美由紀までも出かけていることが不思議だった。特に美由紀は薫に連れ出されたままだからだ。その時なにが起きていたかについては相当後になってから聞かされることになったが、まさか二人が実の姉妹だとは思ってもいなかった。それも美由紀と薫の素顔を見比べたことがなかったからであったが。


 「それにしても聖美、東京に行ったら何をするんだろうね。他の研究員に聞いたら見本市を想定していくつかイベントに出るということだったけど、なにか聞いていない? 」とストレッチをしながら真実は暇を弄んでいた。いくらオフとはいえ機械娘の姿では近所の商店に買い物もいけないし、第一この田舎ではガイノイド家政婦を雇っているような家もないので怪しまれるのがオチであった。


 「私の場合は、つくばの自衛隊研究所でこの前の演習場の実証試験の続きをするということよ。まあ、休みらしい休みも今日ぐらいらしいけど、本当に何もできないね」と返した。本当は弟のお見舞いをしたいところであったが、機械娘しかも重武装型では病院にも行くことは出来なかった。しかたないので電話で密に連絡しているが、本当は顔を直接見たかったが、もし行っても今の戦闘用スーツ姿の”機械娘”では病院の敷地にすら入れないのは間違いなかった。


 その頃”奴ら”の工作員の山崎麻美は岡山から資材運搬用のトラックを運転して戻ってきた。彼女は本物の”山崎麻美”を抹殺して入れ替わった何者かであった。外見こそ麻美と似ているが中身はバイオロイドと呼ばれる複製人間だった。


 ”バイオロイド”は一種のクローンであったが、”奴ら”が使うことは滅多になかった、その理由は寿命の短さであった。生命は全て新陳代謝をするがバイオロイドはその度にエラーが重ねるため最終的には生命体として維持することが出来なくなり”死”を迎える。このような短時間しか使えない工作員を使うのも早期の研究所の破壊が目的だからに他ならなかった。


 「この身体もあと二週間もてばいいかな。どうせ使い捨てなんかだから私は。設計では寿命は一年あるはずなのになんで私は三ヶ月もないの? 」と考えていた。専門家からすれば遺伝子設定をバグッたのが異常な短命の原因といえたが麻美は恐ろしいことを考えていた、本当の麻美の事を。本部の工作員が洗脳に失敗したので、彼女を殺害し遺体を損壊したので急遽作られたのが自分であるが、彼女の怨念もこの身体に乗り移ったのかと。


 この時、彼女は川沿いの国道を走っていたが河原を見ると水遊びをする家族連れや釣り人が見えていた。ただの道具にしか過ぎない麻美からすれば絶対に味わえない光景だった。「いくら私が工作員として作られた道具に過ぎないとはいっても、今度生まれ変わってくるときは平凡でもいいから人として生まれ変わりたい。その前に取りあえず機械娘たちを葬らんといかないけど」とつぶやいていた。


 その頃、薫は自分が姉であることを美由紀に告白していた。美由紀はずっと一人っ子だと思っていたので姉がいるとは意外だった。さらに自分の基になった「卵細胞」を授けてくれた人からの手紙まで受け取ったことも驚きだった。まさか19歳の誕生日にこのような事が起きるとは思ってもいなかった。


 「とりあえず、みんなの前では私たちが姉妹だということは内緒にしてね。変に特別扱いしているとはみんなに思われたくないから。それとこの事は義父に報告しておきますから」と薫も戸惑いをまだ隠せない表情で話していた。無理もないことであるが、実の妹と知らなかったとはいえ、自分の機械娘のエリカのパワードスーツの中に適合するからと言って閉じ込めたのは薫本人が決めたことだ。これも何かの巡り会わせなのかも知れないと思わずにはおれなかった。


 それよりも薫が心配しているのは、今回の機械娘プロジェクトの隠された最大の目的を美由紀に話した時、どのような反応を示すかであった。危険な目に遭うことは確実な事態がすぐ目の前まで来ているのを全く説明していなかったからだ。今のところ聖美には話をしているし、美咲は明後日義父が直々に説明することになっている。エリカも本当の目的には薄々気付いているようだ。美由紀と真実には見本市の直前まで話をしないと決めてしまっていた。


 心の片隅では本当の目的を今話をして、嫌なら父と帰ってもらっても構わないという気がしたが、今そうすると、もしかすると二度と会えないような気もしていた。それに母の従姉妹の真由美にも会いたかった。母の思い出を聞きたかったからだ。取りあえず今は全てを話すのはやめようと思った。


 そう考えていると泰三はいきなり「今日は美由紀の誕生日なんだろう! なにかお祝いさせてくれたっていいじゃないか。今は難しいかもしれないのは判るけど」と言い出した。確かに”妹”の美由紀の誕生日ぐらいはしてもいいかということになった。薫は所長と相談の上でバンガローでささやかな”パーティー”を開くことになった。


 急いで所長が北吉備にある店でケーキを買ってきて、誕生日会を本当にはじめることになった。本当は聖美と真実も呼んでも良かったが、それでは”姉妹”ということがバレルので諦めた。取りあえず二人には先に出発してもらい後で合流することにした。


 美由紀からすればこの歳で誕生日会をしてもらえるとは夢にも思わなかった。しかも父ばかりでなく”姉”と一緒だ。ふと機械娘ではケーキなど食べれない事に気付いた。フェイスマスクが顔を覆っているからだ!


 そう考えていると、薫が美由紀の頭部を覆っているエリカの側頭部に肩に入れてあった鍵のような物を差し込んだ瞬間、エリカの頭部に隙間が出来た。それを持ち上げると美由紀の素顔が見えてきた。急に目の前にあるモニターではなく裸眼で外の景色が見え出したので驚いてしまった。


 「美由紀、実はねエリカの頭部はメンテナンスなど必要に応じて外すことができるのよ。本当は一部だけでもいいのだけど折角だから全部外してみたのよ」と、美由紀の顔をタオルで拭きながらいった。その後「せっかくだから」といって薫は美由紀の顔に自分の化粧品でメイクまでしてくれた。


 その様子を見ていた所長と泰三は、この二人が姉妹だと強く認識するようになっていた。それだけ二人は歳が離れていることを除けばよく似ていたからだ。こうして美由紀は首から下だけは機械娘の姿のままで誕生日を祝ってもらった。


 ささやかなパーティーが終わり、これから合流する場所を何処にするかと相談していたところ、泰三はまたも爆弾発言をした。「途中まででいいから俺も付いていく! その間に美由紀と話をしたいのだ! 」と。

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