表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏バイトに行て機械娘にされてしまった  作者: ジャン・幸田
第九章:急変する状況の中で
68/130

衝撃の事実を前に(加筆改訂版)

 美由紀は両親は大学入学を巡り対立して以来、冷戦状態だった。やはり地元の大学に進学してもらいたいようで、出来ればお婿さんをもらって家業を継いでほしかったようだ。それでも最終的には進学させてもらったのだがら、本当は自分のワガママを許してくれたのだといえた。だがらこそ今も心の中に苦い物を感じていた。


 三月に高校を卒業して以来、父の泰三とは口も利かないまでに関係が悪化していた。やっぱり一人娘を進学のために独り立ちさせるのは、不安だったのかもしれない。将来誰かの元に嫁がすにしてもである。


 今日は自分の誕生日だから帰郷して少しでも関係を修復すべきだったのに、と思っていた。それに明日から東京に行くし月末には海を渡ることになるので、父に会える日がいつなのか判らなかった。しかもパワードスーツ嫌いの父だから、機械娘になっていることを認めるはずはないから、脱いでからじゃないと駄目だろうと考えていた。


 そう思っていて何気なしに外を見たときのことだ、研究所の駐車場の片隅に見慣れた”今井工務店”と横に書かれたトラックが止まっているのに気付いた。あれは父がいつも仕事で使っている車両だ。さっき母に行っているかもしれないと連絡を受けてはいたが本当に北吉備の山奥に来ているとは思っていなかった。「まさか、ここに来たというわけ? 父さんが・・・」と絶句していた。


 よく考えると父の泰三の行動力は人並み以上だ。中学の時にフィギュアを同級生に壊された時も美由紀は報復を恐れ相手の名前を言わなかったのにも関わらず、泰三は相手を突き止めて弁償させただけでなく謝罪までさせており、娘の為の行動力は人一倍あった。だから大家にでも聞いて突き止めたに違いなかった。


 そのころ泰三は第一応接室にいた。その場には薫だけでなく前田所長もいた。薫は美由紀が実の妹という事実を突きつけられて半ば放心状態だったので、対応が出来なくなっていたからだ。ついさっき薫は念のため既に解析されていた自分と美由紀、両者のDNAを照合したところ、姉妹関係が肯定される結果が出ていた。ミトコンドリアDNAが共通で同じ母親から生まれたのがわかったからだ。さらに自分と機械娘になる前の美由紀の顔写真を見比べてみたところ、やっぱり姉妹といえるぐらい共通点があった。


 やはり本当の話だと信じるしかなかった。いくら”奴ら”と闘おうと決心している薫とはいえ、自分に妹がいた事実の前に涙を流していた。機械娘のエリカにしたのが自分の実の妹だったことを知り、恐ろしく罪なことをしているのではないかと考えていた。「美由紀がエリカの機ぐるみに殆ど調整なしで入れたのも近い心と身体を持っていたからということなの? 」と自答していた。その様子では立ち直るのはしばらく時間がかかる様子であったから祐三が対処しはじめた。



 「あなたの娘さんにはうちの研究に協力していただいて感謝しています。まだ色々とやっていただきたいことがありますので、是非ともこのままお願いしたいのですが」と祐三は話の続きをしていた。祐三と泰三とは年齢も近かったが、泰三の方が体格も立派で腕力も強そうであり、いくら祐三が裏の交渉術に長けていても迫力負けしているのは、否めなかった。


 「おたくらがここで研究しているのはパワードスーツだろ! だいたい江藤の家は人を機械人形に入れる事業で大きくなったからな。まあ今じゃ複合巨大企業になっているけどさ。美由紀の奴がそんな分野を学ぶ大学に進むのは反対だったのもパワードスーツが嫌いだからけど、理由は話していなかったけど」と、泰三はおかわりしたコーヒーをまた飲んでいた。祐三と薫は本当なら出発準備をしなければならないがならないが、それどころではなくなったので他のスタッフに任せていた。この場から離れることはもう出来なかった。


 泰三はさらに話を続けた。最初からお見通しだったというのだ。最初に反対しなかったのは、自分も仕事が忙しくて駆けつけなかったこともあるが、アルバイトなどしたことのない美由紀が途中で投げ出すと思ったからだという。それに「サイバーテック・ロイド」の社名で高額なバイト料といえばパワードスーツの開発に関係するのは充分予見可能だったのに、最初から反対すればよかったのにと後悔の念を語っていた。いくら自分が決めたこととはいえ、まさか美由紀の身に危害が及んでいないか心配が募りだしたのだという。だからこそ様子を見に来たのだということだった。


 「さしずめ、美由紀の奴をたぶらかしてあんたら美由紀をパワードスーツのモルモットにしているのだろ! だいたい江藤のおじさんは誰これ構わず自作したロボットの衣装を着せようとしていたよな。俺の家内の真由美も無理矢理着せられたしな」と泰三はいうのだ。どうも娘に今起きている事をある程度予想しているようであった。ここから彼は堰が切れたかのように話を続けた。


 「うちの美由紀はな、最初自衛隊か国連軍の機兵隊員になりたいといったので、それは大事な一人娘がすることではないと反対したんだ。それで大学はどうしてもアンドロイドかパワードスーツの研究開発か製造に関わる学部に行きたいといったのよ。俺がパワードスーツ嫌いなのを知っているのにさ。本当に嫌だったけど、まあ一度言い出したら修正しないところが俺の娘だからしかたないということで、最終的には口を出したけど金は出したというわけだ。まあ俺の知力をも受けついたのかこんな山奥にある大学に来てしまったけどもよ。それはともかく江藤の家と付き合いが殆どなかった理由だけはあんたにも聞かせないといけないだろうな」といって、財布の中から一枚の古い写真を出してきた。


 「これは俺の兄貴だった誠二だ。彼の方が江藤のおじさんと仲が良くてな、大戦前は一緒に江藤家に遊びに行ったものよ。大戦中、いろいろと協力していたのは兄貴だったけど、俺も時々手伝っていたけどな。でもあの時以来江藤家に出入りすることも、パワードスーツが嫌いになったのだ。あの”万騎が原難民キャンプの虐殺”で兄貴がテロリストに殺害されたのだ」といって壁に顔を向けてしまった。どうやら涙が溢れた顔を二人に見せたくなかったようなそぶりだった。


 「あの日、兄貴がボランティアでキャンプのインフラ整備の手伝いをしていたのだ。俺はたまたま高校時代の友人に誘われて近くの温泉で飲み会にいっていたのだ。そしたらテロリストに襲撃されたのだ。次の日の朝に兄貴を探していたら土木用パワーローターの操縦席で黒焦げになっていたんだ。後で警察にテロリストの供述として聞いた話では、兄貴はテロリストの攻撃から難民を守るためにパワードスーツで武装した奴らと戦っていたそうだ。何人ものテロリストを倒したけど最終的には生きたまま焼き殺されたというのだ。だから悪いのはテロリストとそれを指示した”奴ら”だということは頭では理解できる。しかし心では兄貴を殺したパワードスーツが憎いというわけだ。だから、アレ以来うちの工務店ではパワーローターを使う仕事は受注していないし、江藤の家には出入りしなくなったわけよ」と目のところを手で拭いながら話していた。


 しばらくの沈黙の後、泰三は薫と祐三の方に顔を向けた。「薫媛よ。うちの美由紀の事は香織との約束で江藤家に話をしたことはないから、あんたが知らなくてもしかたないことだ。本当は香織がうちに子供が出来たら江藤のおじさんに直接話をする約束だったけど、もう永遠に果たせない。だから今日言ってしまったんだが、後は美由紀に渡さないといけないものがあったんだよ。香織との約束で大人になったら渡すようにといわれていた手紙があるのだ。それとあんたに出会えたら渡してくれという手紙と一緒にだ。でも今日ここで会えたのは、やっぱり香織が導いてくれたのだと思うよ。やっぱり香織の天国であんたら二人の”姉妹”をあわせたいと思っていたんだろうね。まあ、前置きが長くはなったが、早く娘に俺を合わせてくれよ」というのであるが、ここで二人は大変な事態であるい事を気付いた。今、美由紀は機械娘なんだ!


 薫はそのことに気付いてはっとした。このまま会わずに帰らすことは出来ないし、かといって会わせるのも問題だ。それに機械娘の外骨格を外すのも時間的には残されていないし、美咲のように脱がすわけにはいけない。それに脱がしていたら”奴ら”の内通者に知れて美由紀の親族が危険にあわされかねない。ならば、美由紀と泰三の親子面会をさせるしかなかった。


 無論、時間を掛けって説得すればなんとか納得してもらえるだろうし、場合によっては、まだ美由紀が何処にいるかをいっていないので、後日お会いさせますといって、そのまま帰ってもらえるかもしれなかった。しかし、ここは時間を掛ける余裕はないし「論より証拠」とばかり、今の状況を口で言うよりも目の当たりにしてもらうほうがベストではないがベターな選択かもしれなかった。とにかく中央突破しかないと考えられた。そのような事を二人とも考えた結果だった。


 「今井さん、それでは娘さんとお話をする場を設けましょう。ここでは何ですから場所を変えてみんなとじっくり離せる場所でしましょう。娘さんですが別の場所におられますので、後で合流しましょう」といって、薫は手書きの地図を渡した。そこは近くの渓流にある祐三が所有するバンガローだった。


 泰三は黙ってそこに祐三と向かったが、慌てたのは薫だった。もしかすると美由紀も父が来ている事に気付いているかもしれないし、面と向かって会おうとしないかもしれない。黙って連れ出すしか道はなかった。それに機械娘になった美由紀を合わせたときに泰三がどんな反応をするのか想像も付かなかったので、対応しようがなかった。


 裏門から薫と美由紀は一緒の車で出発した。姉妹と知った初めての二人きりだ。薫はエリカの”内臓”になっている美由紀のことを思っていた。「そういえば美由紀ってガーディアン・レディに出演していた時の私に少し似ているわね。もうちょと髪が長くて顔が膨らんでいたらね。だから面談の時に過去の自分に会っているような気がしたんだろうね。でも、今井の親父さんはこれから母さんの手紙を渡してくれるっといっていたけど、やっぱりそれで美由紀にも姉というのはばれるだろうけど、これから私たちってどうなってしまうのだろうかね。それよりもあのパワードスーツ嫌いの親父さんにエリカ姿の美由紀を見せたらどうなるかの方が今は問題だ」などと考えていた。


 一方の美由紀は薄々父が面会に来たので連れ出されたということに気付いていた。理由はわからないけど薫の態度が尋常ではなかったからだ。それにしても、薫の顔を見ていると将来このような顔形になるのかなと考えていた。少し似ていたので親近感があったこともあるが、遠い昔にどこかで出会っていたような気がしたからだ。


 先にバンガローに着いた泰三と祐三は二人で話をしはじめていた。「俺は江藤の家とは年賀状のやり取りしかしていないけど、本当の事をいうと美由紀を取られるかもしれないと恐れたし、利権に群がるような欲深い親戚付き合いもしたくなかったからだ。薫媛、いや今は江藤薫なのね。彼女のことはずっと知っていたんだけど香織のことを考えると妹がいるとは今までできなかったのだ。ついでになって申し訳ないけど二人に預かっていた香織からの手紙を渡さないといけないのだ」


 しばらくして薫と美由紀が到着したが、バンガローの窓から泰三は機械娘になった自分の娘を先にみてしまった。この時祐三は彼が大変怒り出すのか心配になったが、反応は予想に反していた。「あれが、うちの美由紀なのか? まさかあんたら機械の体に改造したというわけなのか、あの姿から元に戻れるよね? 大事な嫁入り前の娘なのに機械になったわけじゃないよね? あれって美由紀の好きだったナントカレディのエリカの姿に似ているんだろ? 」としどろもどろになっていた。


 美由紀は窓に父の姿を確認したが様子がおかしいのに気付いた。いつもなら少々体調が悪くても堂々としているのに、顔色が悪かったからだ。機械娘の姿を見てサイボーグに改造されたと思われても無理もないことであるけど。


 玄関から美由紀が入った時、泰三は娘に近づいていった。薫と祐三は殴るのかもしれないと思ったが、彼は美由紀の身体に抱きついて「お前、こんなに無機質な身体になってしまったというわけなのか? まだ俺は娘の父親らしいことをしてあげていないというのに機械に改造されたというのか? 俺はそんなに悪いというのか? 答えてくれよ」よいって、その場で気を失ってしまったのだ。

 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ