大規模アップデート
仮想世界からぬけだし夕食を食べるために居間に降りると、テーブルの上には既に料理が並べられていた。
「今日も美味しそうな料理だ。ありがとう香奈」
両親が共働きなので、基本的にこの時間は僕と妹の香奈しかいない。
そのため、夕食はいつも妹が作ってくれている。
「お世辞はいいから早く食べちゃおう、お兄ちゃん。私少しやりたいことがあるから」
どうやら予定があるようなので妹に迷惑をかけないようにさっさと席に着く。
「やりたい事ってこの後何かあるのか?」
二人で夕食を食べながら、何の気もなしに香奈に尋ねる。
「うん、ちょっと今やってるゲームで今日から大きなイベントがあってね。友達と一緒にやる約束をしてるの」
妹の言葉にすこし引っかかりを覚える。
この後に大きなイベントというと、思い当たる節があった。
「もしかして、そのゲームってサモクロか?」
「うん、そうだよ。お兄ちゃんももしかしてやってるの?」
さすが中高生を中心に大ヒットしているだけあって、香奈もあのゲームをやってるようだ。
「あぁ、舞花たちにさそわれて昨日からな。香奈もやってたんだな」
最近部屋にこもって何かしているのは知っていたが、どうやらサモクロをやっていたらしい。
「私も同級生の子達に誘われてね。お兄ちゃんもやってるなら今度一緒にやろうよ」
「そうだな、僕が初心者卒業した頃に遊ぼうか」
最近兄妹で遊ぶ事も少なくなってきていたい丁度良い機会だろう。
なるべく早く妹の足を引っ張らないくらいにはならなくてはと決意する。
「ごちそうさま!さて、私は新規クエスト実装される前に少しやる事があるから先に部屋に行くね。洗い物よろしくっ」
夕食を食べ終えた香奈は、そう言うと食器を片付けて急いで部屋へ戻っていった。
よほど新規クエストが楽しみなのかいつもよりも大分テンションが高めだ。
僕も舞花たちと合流する前にシュリの所へ寄っていかないと行けないので、早めにご飯を食べ終えて洗い物をすませる。
今日の遅刻しかけた教訓をふまえ、明日の準備を先に済ませてからサモンクロニクルに接続することにした。
再びログインしていつもシュリが店を開いている所へ向かったが、どうやら今はいないようだ。
先ほど一緒に行動したときに友人登録を済ませておいたので、シュリにインスタントメッセージを送る。
友人登録をしておくと今ログインをしているのかどうかわかるし、このように簡単に連絡を取れるのでとても便利だ。
メッセージを送るとすぐに返信が返ってくる。
どうやら舞花たちと一緒にいるとのことなので、僕も急いでそちらへ向かう事にした。
「あ、ルートこっちこっち!」
昨日同様町の外にでると、すぐに舞花が大きく手を振ってるのが見えた。
メッセージにあった通りシュリとシトロンも一緒にいるようだ。
「こんばんは三人とも。シュリさんはなんでここに?」
「私が夕飯から返ってきたらシトロンからメッセージがきててな。今日の新規クエストで一緒に遊ばないかと誘われたんだ。そうだ、強化がすんだからこれを君に渡しておこう」
シュリから強化されたフェリルの装備を手渡される。
「ありがとうございます。早速着けてみますね。おいでフェリル」
フェリルを召喚し、貰った装備をつけさせてみる。
大爪を基本の素材としたその武器は、フェリルの前足を覆い、爪での攻撃をサポートできる形をしていた。
「二次進化をするまでは使えるだろう。進化してフェリルの形状が変わったときはまた相談しにきてくれ」
現状進化には昨日フェリルがした一次進化と、その次の進化である二次進化がある。
二次進化でも姿が変わるため装備を入れ替える必要がある時もあるらしい。
「本当色々とありがとうございますシュリさん」
何から何まで世話になりっぱなしのシュリに改めて礼をいう。
「フェリルもパワーアップしたみたいだし、ここで私からも報告があります!じゃーん!」
僕とシュリのやり取りを見ていた舞花が、いつも通りテンション高めに声を上げる。
舞花の方をみると、フィオーレを召喚してしたり顔をしていた。
「さっき遊んでた時にレベルアップして、ついに私のフィオーレちゃんが二次進化しました!強力なスキルも覚えたし今日のクエストへの備えはばっちしだよ!」
確かにフィオーレの衣装は昨日よりもかなり豪華になっている。
羽も大きくなっており、その姿は小さな妖精の女王のようだ。
「おぉ、マイカも遂に二次進化か」
シトロンがフィオーレを眺めながら呟く。
ちなみにシュリとシトロンの召喚獣はすでに二次進化しているので、僕以外は現状では最終形態ということになる。
「そういえばどんな強力なスキルを覚えたんだ?」
可愛いでしょーとシトロンに自慢している舞花に、シュリが質問する。
「回復系魔法系ともに色々スキルが増えたんですけど、一番の目玉はこれですね!」
そう言って舞花がスキルウィンドウを開く。
「スキル名フルバースト!残りの魔力を全部使って消費した魔力に則したダメージを与える必殺スキルっ。ちなみに魔法力の高さでボーナスも入るから相当高いダメージをだせるよ!」
残った魔力全消費とは大分リスキーな技だが確かに強力だ。
「ほう、面白いスキルだな。魔力の回復が問題だが使い方によってはかなり強そうだ」
現状他のゲームで言うMP、つまり魔力を回復する手段がメディテーションという全ての召喚獣が共通でもっているスキルを使うか、自然回復をするしかない。
そのため魔力を全消費してしまうと行動がかなり制限されてしまうが、それだけの制約に見合った火力は出せるようなのでやはり使いどころによるだろう。
「フェリルの加護といい、舞花のそのスキルと良い、使い方が難しいのが多いな」
「わかってねーなールート。それをいかに上手く使うかがこういうゲームの楽しみじゃねぇか。癖のあるスキルの方が使ってて楽しいぜ」
確かにシトロンの言う事も最もだ。
「まぁ、そう言う事だな。私のアルコも使いどころが難しいし、パーティでお互いの弱点をカバーしていけば使いどころが難しい力も存分に発揮できるだろう」
シュリがこのゲームの大先輩として話を締める。
そんなやり取りをしている間に、運営が発表した新要素追加の時間が訪れた。
時刻は二十時丁度、予告された時間ぴったりにゲームがアップデートされたという連絡が全てのプレイヤーに行き渡る。
『いつもサモンクロニクルオンラインをお楽しみいただき誠にありがとうございます。予告通り、正式サービス開始から一ヶ月がたったと言う事で、新たなゲーム要素と大規模クエストを実装いたしました。今回追加された内容は以下の通りです。
・新規ストーリークエスト「召喚士たちの軌跡」とそれに連なる新エリア等の実装
・レベル上限の解放と、三次進化の実装および、それに伴った新スキルと新召喚獣の追加
・覚醒進化の実装
・PIDによる連携システムへの更なる新要素の実装
以上の四点が今回の主なアップデート内容になります。
更に詳細が知りたい方は、サモンクロニクル公式ページにてご確認ください。
それでは召喚士の皆様、新しく広がったサモンクロニクルの世界を心行くまでお楽しみください』
「遂に来たな、ストーリークエスト」
告知を全て読み終えたシトロンが呟く。その顔は興奮を抑えられないといった表情をしている。
他の皆も同様の用で、すぐにでも新要素を遊び尽くしたいと言った面持ちだ。
「それじゃあ行こう皆。新しい冒険に!」
舞花のかけ声にあわせて他の3人が空に拳をつきあげる。
そして溢れ出る好奇心に身を任せて、僕達はストーリークエストの攻略を開始した。