シュリ姉さんの初心者講座
シュリの手腕は見事な物で、加勢するためにフェリルを召喚するまでもなく戦闘が終わってしまった。
「シュリさんって本当に強いんですね……」
正直、シュリの言葉を疑っていたわけではないがさすがにエリアボスをこうもあっさり倒してしまうとは思っていなかった。
「まぁ私は正式サービス始まる前の試用期間からやってたからね。そこらの初心者よりかは強いよ。ただ、私は途中から生産メインに移行してしまったから同期に比べると大分劣っているはずだ」
試用期間からやっていたというならばその強さにも納得がいく。彼女の言っていた同期、つまりテストプレイヤー達は今もゲーム攻略の最先端にいる人達だと聞くし。
「それに、あの熊は私たちと相性がいいってのもある。このゲームはダメージを与えた箇所によってより大きなダメージが与えられる事は知ってるかな?」
「はい、知ってます」
昨日フェリルが熊の喉元に攻撃した時に大きなダメージを与えていた理由だろう。
生物としての弱点となり得る場所に攻撃をするとクリティカルヒットを出せることは把握していた。
「それと同じように、肉体を持つモンスターにはある場所を攻撃するとその能力をうばったりすることができる。例えばさっきの用に目を潰せば視界を塞ぐ事が出来るんだ。他にも足を砕けば移動が遅くなるし、空を飛ぶ敵なら翼を攻撃すれば地面に落とせる。そういったモンスターの弱点をつくのがアルコは得意でね」
確かにアルコの攻撃は一発一発が確実に相手の能力を損なわせる攻撃だった。
急所を正確に狙える高い器用さと、一撃で相手に大きなダメージを与えられる攻撃力を存分に生かした戦いだったようだ。
「ただ、逆にモンスターの大群に囲まれたり身体や急所を持たないモンスター、魔法生物のような物がいるんだがそういうの相手には非常に不利なんだ。こんな風に戦いには得手不得手があるからしっかりと覚えておくと良いよ」
シュリの先輩としての教えをしっかり頭に入れる。
これからシトロンや舞花たちと一緒に戦うときも今の話はすごく役に立つだろう。
「参考になります。今日はシュリさんに色々習わせてもらいますね」
僕がよく理解していない生産についても教えてくれるらしいし、シュリに誘ってもらって本当に良かった。
「初めは周りの人間をみて習うのが一番だからな。さてと、目当ての物も手に入ったし鉱山へ急ぐか。それにしても一発ドロップとはついてるな」
どうやらさっきの熊を倒してもう一つ大爪が手に入ったようだ。
この森にもう用はないとの事なので足を速めて森を抜ける。
生い茂っていた木々が段々とその数を減らしていって徐々に視界が開けてくる。
その先には採掘用のトロッコや折れたつるはしなどが散乱している鉱山が見えてきた。
「よし、ついたな。私たちはこれからこの中で素材採取をする。というわけでこれを君にも渡しておこう」
シュリがインベントリの中からつるはしをアイテム化して取り出してから俺に手渡す。
「多分知らないと思うから、モンスターのドロップ以外の素材採取法を教えるぞ。基本的にプレイヤー自身の行動はほとんどシステムとしてのサポートを受けられないのがこのゲーム特徴なんだが、幾つかその中でも例外がある。それが生産と素材採取だ」
そう言うとシュリがやじりと木の棒、そして鳥の羽を取り出した。
「こんな風に手に入れた素材はそれだけだと使いもにならないが、プレイヤーが手作りする事によって一つのアイテムとする事ができる。もっとも、完成品となる際にシステムの補正はかかるがな」
こんな風に、といって三つの素材を組み合わせていく。
すると、矢が一つのアイテムとして出来上がった。
「もちろん素材だけをシステムを使って大量生産することもできる。でも手作りの方が効果の高い物が作れるんだよ。それに上手に作ると手作りアイテムの中でもさらに効果の高い物ができたりもする」
この辺は他にもあるVRMMOとにたようなところがあるようだ。
もっとも、生産もプレイヤーにスキルが存在するわけではないので明確な基準がないというのが少し異色だが。
「それでシュリさんみたく自分で装備を作って売ってる人がいるわけですね」
「そういうこと。手作りな分手間もかかるんだけど手芸をしているみたいで楽しくてね。それで戦闘やめて生産メインに移行したんだ」
「なるほど。それにしても手芸が楽しいなんて思ってたより女性らしいんですねシュリさん」
その男勝りな喋り方から、無意識にかっこいい系のイメージを持っていたため少し意外だった。
「昔から何かを作ったりするのは好きだったんでな。さて、それじゃあ次は素材採取についてだ。といってもこれは素材がある場所で適切なアイテムを使ってそれに則した行動をすれば良い。実際に見せてあげるから鉱山の中に入ろうか」
もう一本新しく取り出したつるはしを肩に担いで、シュリが鉱山の入り口へ入っていく。
置いていかれないように僕もそのすぐ後ろを追いかけた。
鉱山の中は至る所で光る苔のような植物が生えてるため、どこもぼんやりとした光で照らされている。
途中何匹か鉱山に生息するモンスターだと思われる巨大なミミズのような物を見かけたが、襲いかかってくる前にアルコに急所を打ち抜かれて倒れていった。
「ついたぞ、ここだ」
しばらく歩くといままでの場所に比べて大分広い空間にでる。
その広間の壁には至る所に掘り返された後があった。
シュリが壁の近くによって、まだ掘り返されていない場所をつるはしでたたく。
「ほら、見ていないでルート君もやってみるといい。そんなに力はいれず壁を軽く叩くのがこつだ」
シュリに言われた通り、僕もつるはしで壁を叩く。
しばらくそうしていると、アイテムを手に入れたというテロップが表示された。
「あ、これですかシュリさん」
手に入れたアイテムを具現化して、ほのかに光を反射する黒い鉱石をシュリに見せる。
「無事採取できたようだね。そんな感じでプレイヤー自身がアイテムを採取する事も可能だ。それともう一つ、裏技としてPIDをつかって軽いミニゲームのように素材集めをする事も出来る。リアルで暇な時とかに時間つぶしとしてやると結構な量の素材を集められるから一度試してみると良い。さて、それではもう少し素材を集めるとしようか」
そう言うとシュリさんが再びつるはしを振るいはじめたので、僕もそれに習って鉱石を集める。
三十分ほど二人で雑談をしつつそのまま鉱石を掘っていたが、そこで事前に設定していたアラームが鳴り響いた。
「すいませんシュリさん。そろそろ夕食の時間なので一端ログアウトしますね」
「あぁもうそんな時間か。私もそろそろ一度ログアウトするとしよう。君が手伝ってくれたおかげで予定より大分集まったしな。助かったよありがとう」
汗を拭いながらにこやかな顔で感謝を口にする。ゲームでの仮の姿とはいえ、シュリのような美人に素直に礼を言われると少しときめくものがある。
「こちらこそ色々教えてもらってありがとうございました。これ今日採れたもの全部渡しておきますね」
今掘り返した鉱石と、今日ここにくるきっかけになった大爪をシュリに手渡す。
「よし、ルート君が頑張って働いてくれたし私が心をこめて君の召喚獣の武器を強化しておこう。そんなに時間はかからないだろうから次にログインした時にでも採りにきてくれ」
「わかりました。夕食食べ終わって少ししたらまたくるのでその時に伺います」
「了解した。それまでには仕上げておこう」
シュリとの約束もしたので僕は再度別れの挨拶を告げてゲームの終了ボタンを押して、一度現実世界へ戻っていった。




