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弓の名手


 昨日の夜約束した通り、フェリルの装備を受け取りにシュリの元を訪れる。

 学校で樹達と話していたため少し遅れてしまった。 


 「お、来たなルート君。待っていたよ」

 

 昨夜会った場所と同じ所に店を構えていたシュリが僕の姿を見つけて声をかける。

 

 「こんにちはシュリさん、お待たせしました」

 

 「なに、今日は私も休日で暇していたからな。別に気にしなくていいさ」

 

 そう言って、シュリが自分のインベントリから鋭い爪を模した武器を取り出した。

 

 「これが約束の物だ。基本的な型の武器だから他の素材を持ってきてくれれば強化したりすることもできるぞ」

 

 その装備を譲り受け、僕はシュリに礼を言う。

 

 「本当にありがとうございますシュリさん。そうだ、素材のことなんですけど実はさっきインベントリを確認したらこんな物がありまして」

 

 暴れ熊の大爪と記されたそのアイテムを表示して、シュリに見せる。

 

 「これはボス素材か。良い物持ってるじゃないか」

 

 そう、昨日の熊を倒した後初めてのボス戦の疲れからインベントリの確認をすっかり忘れていたのだ。

 そして今日ログインして、ふとインベントリを確認した時に初めて素材がドロップしていた事に気がついたというわけだ。

 素材の使い方については既にログインしていた舞花とシトロンに確認した所、僕の装備を整えるのに使うと良いといわれたので有り難く使わせてもらう事にした。

 

 「本当は昨日渡せておければよかったんですが……。これで強化ってできますか?」

 

 「いや、これはどちらにせよすぐには使えないな。強化は出来るが素材が少し足りない」

 

 ふむ、とあごに手を当てシュリが少し考え込む。

 

 「ところでルート君。この後少し時間があったりするかい?」

 

 シュリの突然の提案に首を傾げつつ頷く。

 舞花達とは大規模クエストが実装してから合流する予定なのでまだ時間がある。

 少なくとも夕飯までは時間が余っていた。

 

 「よしそれなら一緒に足りない素材を採りにいこうじゃないか。初心者らしいし、生産についても少し教えてあげるから」

 

 そう言いながらシュリが店を閉じる。

 

 「僕はすごく有り難いんですけどお店たたんじゃっていいんですか?」

 

 「この時間はほとんど売れないからね。ちょうど幾つか調達したい素材もあったし。何よりさっきもいったけど暇してるんだ」

 

 店をしまい終わったシュリが大きく伸びをする。

 どうやら相当退屈していたようだ。

 

 「それならお言葉に甘えて。それでどこへ行くんですか?」

 

 僕の質問にシュリがマップ画面を開いて指でその場所を示す。

 それは昨日行った森を更に抜けた所だった。

 

 「ここの鉱山に行く。君のレベルだとまだあそこのモンスターはきついだろうがまぁ私がいればなんとかなるだろう」

 

 どうやらシュリは戦闘もそれなりにこなせるらしい。

 てっきり生産に特化しているのかと思っていたのだが。

 

 「さて、それじゃあ行こうか」

 

 シュリの声に従い、その後を着いていった。


 

 鉱山に向かう為に昨日通った森を歩いて抜ける。

 昨日のあの熊がまた襲ってこないかとついつい当たりを見回してしまう。

 

 「そんなに心配しなくても大丈夫だぞ。暴れ熊なら私とアルコで倒せるしな」

 

 アルコとはシュリの召喚獣で、弓を携えた腰ほどの背丈の小人だ。

 シュリ曰く器用さと攻撃力に重きをおいた育成方針で、弓の名手らしい。

 

 「召喚獣っていうから動物系が多いと思ってたんですけど全然そんな事ないですよね」

 

 妖精の姿をしているマイカのフィオーレもそうだが、召喚獣とひとまとめに呼ばれていてもその種類は相当多岐にわたるようだ。

 

 「そうだな本当に色々いるぞ。私が見た中では人形を使っていた人もいたしな」

 

 それはもう生物ですら無いのではないだろうか。まぁその種類の多さもゲームの魅力なのだろうけども。

 



 「さて君がさっきから警戒している暴れ熊だが、できれば鉱山に着く前に一匹倒しておきたい」

 

 森の中腹まで来た所で、シュリがそんなことを言う。

 

 「え、でもあの熊ってエリアボスですよね?僕たちだけで倒せるんですか?」

 

 昨日は三人掛かりでもやっとだったのだ。

 二人で、しかもそのうち一人が僕じゃとてもじゃないけど倒せるとは思えない。

 

 「さっきも言ったろ、あの熊なら私とアルコだけで十分。君の武器を強化するためにはあの大爪がもう一本欲しくてな。……っと、噂をすれば何とやらだ」

 

 シュリが眼を細め、じっと森の奥を見つめる。

 僕もつられてその方向に目をこらすと、確かに熊の影のような物が見えた。

 

 「よくあんな遠くにいるのに気がつきましたね」

 

 いると言われたからわかったが、普通だったら気づかず通り過ぎてしまうだろう。

 

 「私たちの戦闘スタイルのせいかな?特に特別なことをなにもしていないんだが敵をみつけたりするのは得意でね。さて、準備はいいかアルコ」

 

 先ほどからずっと僕たちの後ろを着いて歩いていたアルコに声をかける。

 アルコは静かに頷き、構えた弓に矢をつがえた。

 

 「目標はあいつの目だ。ピンポイントショット」

 

 シュリが静かにスキル名を口にする。

 それと同時にアルコが矢を放った。

 放たれた矢は綺麗な放物線を描き、まだこちらに気がついていない熊へと襲いかかる。

 ここからだとしっかりと確認する事はできないが、どうやら着弾したようで熊が暴れ回っている姿が見えた。

 

 「ナイスだアルコ。さて次は右膝当たりを狙うんだ。ピンポイントショット」

 

 先ほどと同じスキルを使い、アルコの矢が暴れ回る熊へ向かう。

 シュリの宣言通り見事に膝を打ち抜き、熊の運動能力が大幅に落ちた。

 さすがに今度は熊の方もこちらに気がついたようで、穿たれた足を引きずりながら猛然と向かってくる。

 

 「中々元気な熊だな。アルコ、ガトリングショット」

 

 だがそんな熊の様子を見ても冷静なまま次のスキルの指示を出す。

 弓の前に魔方陣が展開され、アルコが弦を弾くとそこからいくつもの光の矢が放たれた。

 熊は殺到する光の矢をその分厚い毛皮と凶悪な腕をふりまわすことによってなんとか耐えきる。 

 だが、光の矢の雨が止んだ時にはすでにシュリが次の一手をうっていた。

 

 「ライトニングエンチャント、加えてピンポイントショット」


 つがえられた矢に魔法で作られた電気が迸る。

 その矢を怒りに狂った熊が大きく口をあけて咆哮した瞬間を狙って撃ちこむ。


 一閃の雷となったアルコの矢は、熊の喉奥に寸分違わず叩き込まれた。


 着弾と同時に激しい雷撃が熊の口の中ではじける。


 口の隙間から漏れる光が収まると、大熊は静かにゆっくりとその身を地に伏した。

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