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ふたご銀河の物語  作者: 日向 沙理阿
104/153

ダルシア帝国の継承者

450.

 帝都ロギノスのフェルラー邸で、リドス絵連邦王国の大使リルケ・ユウキから、アルネ・ユウキはTPでの連絡を受けた。

「どうかしましたか?」

と、マローネ・フェルラー夫人が聞いた。

 アルネ・ユウキがティー・カップを手にしたまましばらく動かなくなってしまったからである。

「ええ。その、ちょっと困ったことになりそうなので……」

 帝国艦隊がヘイダール要塞へ向けて動くとの知らせに、アルネ・ユウキはこのまま捜索を続けるべきか迷っていた。

「話がしにくいというのでしたら、私が部屋の外へ出ましょう」

と、フェルラー夫人が言った。

「いえ、かまいません」

 ジェルス・ホプスキンとゼフィア・シノンは顔を見合わせた。

 今来たTPの知らせはアルネ・ユウキ自身にだけ向けて来たものであるので、TPはあってもゼフィア・シノンには何が起きたのかわからなかったのだ。

「リドス連邦王国の大使からの知らせでは、帝国艦隊が近くヘイダール要塞へ向けて親征を行うということが決定したそうです」

「ヘイダール要塞へ、帝国艦隊が来るというのか?」

と、ジェルス・ホプスキンは驚いて言った。なぜ、そんなことになったのか、と彼は聞きたかった。

「まあ、実際に行くとしたら、その準備に少なくとも数か月はかかるでしょうけれど、皇帝陛下は十日で出発しろという命令を出したみたいね」

「それはいくら何でも無茶ではないのか?」

「ええ。だから、軍務卿や宇宙艦隊司令長官が何とか準備ができるまでごまかすのではないかしら」

「それは変です。あの若い皇帝陛下はもともと宇宙艦隊出身の軍人です。それなのに、そんな無茶な命令を出すなんてことがあるでしょうか」

と、フェルラー夫人は言った。

 貴族は新しい皇帝に反感を持っている者が多いが、一般の民衆は新しい皇帝に希望を見出していたのだ。出身は平民ではないものの、貴族の内には入らない帝国騎士という名ばかりの身分だった。その子供が軍の幼年学校に入り、卒業して瞬く間に出世をしてついに元帥にまでなったことは、平民の間では成功譚として語られている。もっとも貴族の間では、その出世は姉の力によるものと誹られていたのだった。

 しかし、フェルラー夫人は息子の上司でもあった皇帝については息子からの評価や自身の能力によって得られた情報により、若い皇帝は本物であると考えていた。

「皇帝陛下がおかしいのは、おそらくあの『呪い』の所為だと思います」

と、アルネ・ユウキは言った。

「呪い、ですか?」

「ええ。この帝都ロギノスには古い時代の呪いが封じられていたのです。それが、何者かによって、現代に蘇ってきてしまっているのです。その影響を皇帝陛下は確実に受けていると思われるのです」

「このロギノスは高々五百年前に銀河帝国の帝都として当時の初代皇帝陛下が定められたのです。その古い時代というのは、いつのことでしょうか」

「その呪いは、かつてここに居住していたアルフ族が作ったものなのです。その時代はあなた方の歴史時代よりもずっと前、原始時代と言われた時代よりも前のことなのです。彼らの文明はその『呪い』によって、完膚なきまでに消滅してしまったのです。そのあと、新しい文明が起きるまで、長い時間が必要でした」

 そもそもアルフ族が遠い銀河からふたご銀河に移住してきた理由も、その『呪い』によってこれまで居住していた星系が居住不可能な状態になったからである。その『呪い』を故郷の星系に置いて出てきたつもりだったのが、ついてきてしまったのだ。

 しばらくの間はその『呪いも』影を潜めていた。それが再び蘇ったのは当時のアルフ族の王家の一人が、自分が王となるためにその『呪い』を使って競争者を亡き者にしようとしたためだと言われている。

「その呪いというのは、どういうものなのですか?」

「『死の呪い』と言われています。人の死を願うものなので。ただ、それが王家の人間の死を願うだけでなく、種族全体の死を願うものにまでなってしまったのです。そのため、アルフ族の国や文明が滅びました」

「でも、初めは一人の死を願うものだったのではないですか?」

 自分の競争相手を亡き者にするのであれば、一人だけで済むはずだった。だが、その一人を守るものもいる。その一つ一つを消していった時、気づけば残ったのは呪いをかけた者だけだったのだ。それだけではない。犠牲者が出ると、その犠牲者はその理不尽さに他の犠牲者を要求することになった。それが次々と増えていき、いつの間にか生きている者すべてが『呪い』を掛けられた状態になった。

「初めはそうであっても、その一人の死を成功させるためには、多くの者の死も必要になったということです」

 たかが呪いに一種族を滅ぼすなどということが可能とは、ジェルス・ホプスキンには思えなかった。

 だが、フェルラー夫人は、何か見えているようだった。事実彼女にはアルネ・ユウキが『死の呪い』の話をしたときに、古い時代の情景がその目に映じたのである。

「アルフ族というのは、人間に似た種族だったのですか?」

と、フェルラー夫人は聞いた。

「ええ。でも、今このロル星団に住んでいる人間とは少し違ってはいました。例えば、肌の色や髪の色、それに身体的な特徴も少し違っていました」

「私の眼には、青い肌の銀色の髪の、非常に背が高く、耳が長く尖がっているのが見えます。それに頭には角が一本あるように見えます」

「ええ、だいたいそのような特徴を彼らは持っていました」

「それだと、今の我々とはずいぶん違いますね」

「でも、昔はそうだったのです。次第に、今のあなた方のような形になっていったのです」

「それで、彼らの社会は魔法が使われていたということですが、科学技術のようなものはどうでしたか?」

「アルフ族の科学技術は今のあなた方の持つものよりも進んでいました。何しろ、遠い銀河からこの銀河へ移住してくることができたのですから……」

 聞いていて、ジェルス・ホプスキンは不思議な気がした。大昔、このロル星団には今の自分たちとは違った種族が住んでいたというのだ。魔法を使う上に科学技術も発達していた。それがなぜ、今のような形になったのだろうか、と彼は思った。


 ヘイダール要塞への帝国艦隊の出征を決めた翌日、軍務卿はゼノン帝国大使とナンヴァル連邦大使を連れて宮殿へ参内した。

「ほう、早いな。もう来たのか」

と、皇帝は多少不快そうに言った。

 皇帝は昨夜の話ですぐにも自身の旗艦に乗艦したかったのだ。だが、それを阻止するべく軍務卿は皇帝の先手を取ってジル星団の大使たちを連れてきたのである。

 ゼノン人とナンヴァル人はどちらも人間型種族ではない。従って、皇帝は彼らをあまりよく思ってはいなかった。それにゼノン人は何となく、大使という地位にいるものであっても胡散臭く感じるのだ。

「皇帝陛下に置かせられましては、リドス連邦王国についてお聞きになりたいことがおありとか……」

と、若いゼノン帝国大使ロガール・ヴァン・ダンは言った。

 その隣でナンヴァル連邦の大使.マグ・ファーロン・シャは黙って会釈をした。こちらはゼノン人とは多少違う印象を皇帝は持っていた。

「うむ。かの国について、お前たちはどんなことを知っているのだ?」

「以前からお話ししておりますように、あの国は大変良くない連中です。我々の帝国はあの連中にたびたび煮え湯を飲まされているのです」

 隣で聞いているナンヴァル連邦大使.マグ・ファーロン・シャは何を言っているのかと表情を曇らせた。ゼノン帝国がリドス連邦王国に関わるのは他の国ともめ事を起こした時である。たいていそれはゼノン帝国の無理無体が引き起こしたものであるのだ。その結果、ゼノン帝国はリドス連邦王国に煮え湯を飲まされることになる。それは他の国から見れば、単なる自業自得に過ぎない。

「で、ナンヴァル連邦の大使はどう思うのだろうか?」

と、皇帝は質問の矛先を変えた。

「我々はゼノンの大使のようには考えておりません」

「ほう、卿らはどのように考えているのだ?」

と、ロガール・ヴァン・ダンは不快げに言った。

「リドス連邦王国は確かに、ゼノン帝国から見ればよくないと思うでしょう。ですが、ジル星団においては、ゼノン帝国は侵略的な国として、知らぬものはありません。わがナンヴァル連邦も何度もやりあいました。他の小国を助けたこともあります」

「そうだ。お前たちも、我々から見れば敵にしかすぎない」

「そのため、対ゼノン帝国の同盟も作られたことがあるのです」

「何をいっているか。そのような同盟はあのダルシア人に対しても作られたことがあるはずだ」

「それは、大昔のことです。それにその時代は、ダルシア人に対してものが言える種族はあのガンダルフの魔法使いだけだったのです」

「ほう、ガンダルフの魔法使いとな……」

 急に皇帝は興味を持ったように言った。

「ガンダルフというのは、現在リドス連邦王国の首都星でもあります。リドスと名乗っているのはここ二百年ほどのことです。以前は『惑星ガンダルフ』という名で呼ばれていました。ガンダルフというのは、魔法使いの発祥の星でもあります。今ではそれがどうなったかはわかりませんが……」

「それは、どういうことだ?」

「噂では、ガンダルフでは魔法使いがなくなりつつあるということでした。ただ、ガンダルフにリドス連邦王国が来てから、魔法が復活しつつあるとも聞いています」

 この魔法の復活にはガンダルフの五大魔法使いの出現が関係していると、ナンヴァルの大使は聞いていた。それは彼の魔法使いからの情報である。ただガンダルフの魔法使いについて話をすることは、例の銀河帝国の大逆人にまで話が及ぶことなので、彼は黙っていた。現在の帝国の常識では大逆人が実はガンダルフの五大魔法使いの一人であるといっても、それを信じてもらうことはおそらく不可能だと考えたのである。

「ということは、リドス連邦王国はよそからやってきたというのか?どこからやってきたのか知っているだろうか」

「彼らは、遠い銀河からやってきたと聞いています。今からおよそ二百年前にガンダルフにやってきたのです」

「すると、その時ガンダルフにいた住民はどうしたのだ?」

 遠くの銀河からやってきたと聞いて、皇帝はリドス連邦王国が大艦隊を率いてやってきて惑星ガンダルフを武力侵略したのだと考えたのだ。そして、それまでいた住民は皆虐殺されたか、奴隷にされたかわからないが、いずれにしろ新しいリドス人を支配者として受け入れたのだと思ったのだ。

「当時、ガンダルフは『ガウィン・レヴン』という守護者がいたのです。その守護者がリドス連邦王国を受け入れたと聞いています」

と、ゼノン大使よりもガンダルフのことに詳しいナンヴァルの大使が言った。

「……?それは、どういうことなのだ?」

「惑星ガンダルフには大昔から、『守護者』と名のる者が守っていました。ダルシア人やゼノン人などの侵略者からガンダルフを守っていたのです」

「それは、ジル星団にある伝説の一つだと、ほとんどの国は考えていたらしいが、それは本当のことだ。我がゼノンにおいてもそうだったが、私は聞いたことがある。大昔、いや億年以上の昔から、『ガウィン・レヴン』はガンダルフを守ってきたのだ。そいつが、リドスの連中をガンダルフに住むことを許可したのだ」

と、ロガール・ヴァン・ダンは不快そうに言った。

 その話を知っていると聞いて、ナンヴァルの大使はこのまだ若いゼノン大使を少々見直したのだった。


451.

 ヘイダール要塞において定例の会議が行われたのは、帝都から連絡のあった日より二日後だった。

 ベルンハルト・バルザス提督――銀の月は、もっと早く会議を開きたかったのだが、うまくいかなかったのだ。

 この会議は定例会議であったので、司令室の者たちをはじめとして、ヘイダール要塞の政治代表たちやギアス・リードが加わっていた。その他には、あの暗黒星雲の種族リード・マンドやレギオンの城の客人も来ていた。

「今回の議題は、惑星カルガリウムの住民に対する転送装置の付与について主に話をしたいものだ」

と、ヘイダール要塞の政治代表であるエルシン・ディゴが言った。

「転送装置の付与?それは何の話です」

と、ノルド・ギャビが聞いた。

「惑星カルガリウムの住民がようやく戻ることができるようになったと聞いている。その場合、あそこには生活物資が現在のところ何もない。それを補うために、転送装置を使ってヘイダール要塞から生活必需物資を送ると聞いている。それについて、その転送装置の所有権に関しての問題とそれをどのくらいの数惑星カルガリウムに置くのか、そしてその費用はどうするのかを聞いておきたい」

「つまり転送装置について、その所有権がとこにあるのか。それとこのヘイダール要塞で作られている転送装置を惑星カルガリウムで使う場合、その費用はどこから出すのかということです」

と、ギアス・リードは言った。彼にしてみれば、ヘイダール要塞の工場で作られている転送装置は、ヘイダール要塞のものなのだ。だから、彼ら政治代表たちは惑星カルガリウムにそれを売ってやるような感覚でいるのだった。

「待ってください。転送装置がここにあることは知っています。ですが、大した数はないのではないですか?」

と、ダズ・アルグが聞いた。

 銀河帝国も持っていない、使い方によっては新兵器にもなる『転送装置』は、それほど数が多くはないことをダズ・アルグ提督は知っていた。それを惑星カルガリウムの連中にやってしまっては、要塞の戦力が落ちると考えたのだ。

「我々は、このヘイダール要塞で転送装置が作られているのをこの目で見たのだ。それは、ディポック提督とクルム司令官代理も知っている」

「本当ですか?」

と、ダズ・アルグは聞いた。

「これからそれを言おうとしていたのだ。確かに転送装置の工場がヘイダール要塞にある。だが、もともと転送装置は惑星カルガリウムで発見されたものなのだ」

と、クルム司令官代理が言った。

「つまり、新世紀共和国ですでに転送装置が作られていたということですか?」

 会議がざわざわと騒がしくなった。話がまるで関係ない方面に行くので、バルザス提督もどこから口をはさむべきかタイミングを失していた。

「何を言っているのか。転送装置は新世紀共和国のものではない。銀河帝国のものでもない。もし、それがあったなら、両者の戦いなど、もっと早く終わっていただろう」

と、ヘイダール伯爵が言った。

「しかし、それではなぜ、このヘイダール要塞に転送装置の工場があるのですか?」

「それはもちろん、私が作ったからだ」

「それなら、あなたは銀河帝国の伯爵なのですから、銀河帝国のものだといってもおかしくはありますまい」

 その時、ヘイダール伯爵と目される人物は、他の者が聞いたら驚くようなことを言った。

「いいか、ヘイダール伯爵はこの要塞が完成する前に死んだのだぞ」

「では、あなたはいったい誰なのです?」

「私は、ヘイダール伯爵だ」

「いや、あなたは今、ヘイダール伯爵は死んだと言ったのですよ」

「つまりだな、ヘイダール伯爵は死んだと当時の連中に思わせたということだ」

「なぜです?」

「ふん。誰かが私の命を狙っていることは知っていた。それは、このヘイダール要塞を作ったという彼らにとっては、あまりにも大きな功績を妬んでのことだ。それで私は、死を装って、身を隠したのだ」

 それなら合点がいく、と皆が思った。とはいえ、どうやってそんなことをしたのかはわからないのだが。

「だとすると、あなたは今、いくつになるのですか?ずいぶんなお歳だと思われるのですが……」

と、グリンが聞いた。

 ヘイダール伯爵という彼は、白髪に白髭を蓄えていて、かなりの高齢だというのは見ただけでわかる。だが、彼の死と言われている年から数えれば、二百歳を超えているのだ。ロル星団の人間の寿命はおよそ百二十歳が上限で、それ以上になるとほとんどいないはずだった。

「歳のことなど、聞くものではない。第一私は、帝国の人間ではない。当時の帝国の連中は知らなかったが、私は遠い銀河の出なのだ」

「そういえば、以前に、あなたはアンダインという遠い銀河の種族に属していると聞いたことがある」

と、クルム司令官代理が言った。

「アンダイン?聞いたこともない。例のグーザ帝国のように、われらの銀河を侵略しにきたのか?」

と、エルシン・ディゴが聞いた。

 彼にしてみれば、遠くの銀河から来たような種族だとすると、かなりの科学技術も持っているはずだと思える。だから、どんな目的でやってきたのか気になるのだ。

「ふん。侵略など、ばかばかしい。私だけではなく、我が種族にはそのようなことをする者はない。第一、すでに元の銀河ではアンダイン種族は滅びたはずだ」

「滅びた?」

「簡単に言えば、この三次元宇宙には存在していないということだ。その存在そのものが消えたわけではないのだが……」

「それで、何をしにあなたは我々の銀河に来られたのですか?」

と、今度はグリンが聞いた。

「興味があったからだ。やっと宇宙文明に到達したという幼い文明を見に来たのだ」

「幼い?我々は十分に成熟していると思いますがね」

「ふん。ほんの数年前まで、不毛な戦をしていたではないか。それがやっと終わったのではなかったのか?」

「確かにそうですね」

と、ディポック提督が言った。

「それで、転送装置がなぜヘイダール要塞で作られているのか不思議なのだが、それだけではない。この要塞のエネルギー源である核融合炉がなくなっているのはどうしてなのか、教えてほしいものだ」

と、クルム司令官代理が聞いた。

「何ですって!」

と、叫んだのはダズ・アルグだけではなかった。

 皆驚いて、おそらくその理由を知っていると思われるダールマン提督――ガンダルフの魔法使いレギオンの方を見た。そして、

「それは、どういうことだ」

と、皆一斉に文句を言ってきた。

「何も問題はない」

と、ダールマン提督は当然のように言った。

「核融合炉が無くなったというのに、問題がないとはどういうことだ!」

「要塞のエネルギーはどうなっているのです?」

「まあ、待て。要塞のエネルギー源である核融合炉がなくなっているが、これまでエネルギーが不足したという報告はない。とすると、融合炉はなくなっても、その代替エネルギーがあるはずだ。それはどういうものなのだ?」

と、クルム司令官代理が冷静に聞いた。

「今この要塞のエネルギーはかつてロル星団にいたアルフ族の使っていたものと変えたのだ」

「それは、どんなものなのだ?」

「基本的に、ホワイト・ホールを中心にしてエネルギーを得ている」

「そのホワイト・ホールはどこにあるのだ?」

「普段はレギオンの城の方にある。そもそも『レギオンの城』のエネルギー源だったのだ」

「なるほど、レギオンの城と要塞は結合したのだったな。だとすると、そのエネルギー源は要塞の方にもなくてはおかしいのではないか?」

「ここのホワイト・ホールそのものは、異次元空間に存在しているものだ。そこからエネルギーを得ているから、この要塞にはないのだ」

「そんなもので、要塞のエネルギーは大丈夫なのか?」

と、エルシン・ディゴ政治代表が聞いた。聞いたことのないエネルギー源である上に、どこにあるのかもわからないのだ。彼は不安を感じざるを得なかった。

「ふん。このエネルギーは要塞の元の核融合炉の百万倍以上のエネルギーがある。この要塞がいくつあっても賄えるくらいだ」

「だとしても、要塞とその城との結合の結果、前とかなり違う部分があるようだ。それをきちんと我々だけではなく、他の者にもわかるようにしなければ、この要塞を扱うことは難しいのではないだろうか」

「司令官代理の言うことももっともだ」

と、エルシン・ディゴが言った。

「いいだろう。その点について、説明をする機会を作ろう」

と、ダールマン提督--レギオンは言った。

「それは、できるだけ早い方がいいと思うが……」

 一応皆、納得したように感じたので、バルザス提督は次の議題に移った。

「これは今回の会議招集の中心議題なのですが、近々銀河帝国の艦隊がヘイダール要塞を攻撃することに決定したようです」

「それは、本当か?」

「二三日前に、プロキシオン号から連絡がありました。それによりますと、この情報はリドスの大使からのもので、かなり信ぴょう性の高い情報だということです」

 クルム司令官代理はバルザス提督の話を聞いて、もうそんな時期になるのかと感慨深く思っていた。

「ちょっと待て、今帝国艦隊に攻撃を受けたら、この要塞は大丈夫なのか?」

と、エルシン・ディゴが言った。いくらエネルギーは十分あるといっても、エネルギーだけでは戦えないのだ。

「大丈夫かとは、どういうことだ?」

と、ダールマン提督が言った。

「ここの艦隊は先の戦闘でかなりやられている。今から補充しようとしても、とても間に合うまい。それに援軍などあの惑星ゼンダから来るわけがない。だとすると、とても帝国艦隊とは戦えないではないか」

「いえ、そんなことはありません。こちらにはダルシアの艦隊もいますし、リドス連邦王国の艦隊もいます」

と、ダズ・アルグ提督が言った。

 ヘイダール要塞の艦隊は確かに先のグーザ帝国や未知の艦隊との戦闘で損害を受けていた。数も減っている。だが、数は少なくてもダルシアの艦隊はその減った分の戦力を埋めるのに十分な数があると彼は考えていた。ダルシア艦隊の武器は銀河帝国のそれをかなり上回る強力なものなのだ。

「そのリドス連邦王国は我々の帝国との戦いに味方でいるという保証はあるのか?」

「リドス連邦王国と何か条約を結んだのでしょうか?」

と、秘書のギアス・リードが言った。

「いや、条約は結んではおりません。こちらは、国ですらないのですから、他国と条約を結ぶことなど考えたこともないのです」

と、グリンが言った。

 とは言え、以前暗黒星雲の種族が大挙してやってきて要塞によからぬことをしようとした時、リドス連邦王国の女王夫妻がやってきて、それを阻止したことをグリンは覚えていた。それになぜかわからないが、リドスの王女たちがやってきたことがある。その時もヘイダール要塞が危機に瀕した時だった。それは、エルシン・ディゴやフランブ・リンジなど、元新世紀共和国から来た政治代表たちが来る前のことだった。

「確かにそうだが、我々リドス連邦王国はこの要塞を重要だと考えている。だからこそ、レギオンの城と合体させたのだ」

と、ダールマン提督が言った。

「で、この要塞は前と比べてどれだけ強力になったのか?」

「少なくとも、銀河帝国の艦隊が来てもそう簡単にはやられない程度には……」

と、曖昧にダールマン提督は言った。

 実際は要塞の兵器を使えば銀河帝国の艦隊などかるく全滅させるくらい可能になっていた。ただ現実にそれをすることは考えていない。要塞の武器や兵器は、銀河帝国やもちろん元新世紀共和国を敵として戦うために強くしたのではないからだ。ガンダルフの魔法使いやリドス連邦王国の考えている敵は、他にあるのだ。それはまだ、要塞の者たちに話す段階にはない。

「つまり、現状の戦力で銀河帝国の艦隊と戦うことが可能だと考えてよろしいのですね」

と、これまで黙って聞いていたフランブ・リンジ副代表が言った。

「そう考えてもかまわない」

「元銀河帝国の元帥でもあった方がそう仰るのであれば、我々も心配などする必要はないのではありませんか?」

「しかし、……」

と、それでもまだ不安そうにエルシン・ディゴは言った。


452.

「それよりも、銀河帝国の艦隊がこの要塞を攻撃するという情報はどれだけ信憑性があるのか考えた方がいいかもしれませんね。それに、その理由は何なのでしょうか」

と、ギアス・リードが言った。

「我々の情報を信じられないというのか?」

「我々は、リドス連邦王国のことはよく知りません。ジル星団の中の一国であるということしか、わかりません」

「だが、少なくともリドス連邦王国はこのヘイダール要塞の味方だ。例え、同盟など結んでいなくてもだ」

「だとすれば、これからそのリドス連邦王国と条約やらを結んではいかがでしょうか?」

と、フランブ・リンジが言った。

「そうすれば、信用できるということか?」

と、ダールマン提督が言った。

「そのような、証のようなものがあれば、安心できるということですわ」

「なるほど。ですが、銀河帝国の艦隊がヘイダール要塞へ到着するまであと数か月だと思われます。その間に条約のようなものを結ぶことは時間的に難しいと思われますが……」

と、バルザス提督は言った。

 国と国との条約のようなものは、その条約の条文を慎重に考慮する必要があるので、数か月で作れるようなものではない。それにリドス連邦王国のことは、たとえこの要塞にいるディポック提督らでさえ、よく知らないはずだった。

「では、条約は無理としてリドス連邦王国は我々に対してどのような協力をしていただけるのでしょうか?」

と、フランブ・リンジが言った。

「現在要塞にはリドス連邦王国の三個艦隊が駐留しています。それに、今回銀河帝国軍の攻撃が予想されるので、すでにこちらに向かって他のリドスの主な艦隊が集結中です」

 このバルザス提督の発言にはリドス以外の者たちは驚いた。どうしてそんなことになっているのか。まさか、この要塞を自分たちで占領するつもりではないかと疑いを持っても不思議はない。

「それはまたいつ頃からですか。二三日前に帝国軍の侵攻の報が入ったとおっしゃいませんでしたか?」

「我々は、一年以上前から今回の帝国軍の動きについては予知していたのです。各地に分散していたリドス連邦王国の艦隊を順次ヘイダール要塞へ向けて移動させていたのです」

「一年以上も前から?どうしてそのようなことがわかるのですか?」

「ですから、予知によってです。予知によって敵の凡その動きはわかります。ただ、敵の攻撃の期日などはそれほど正確にはわかりません。予知能力者は数が少ないうえに、未来の期日の限定は非常に困難なことがおおいのですが、それを確率的に考慮して、より確実性を持たせているのです」

「よくはわからないが、リドス連邦王国というのは、所謂特殊能力者というのがおおいのかね」

と、エルシン・ディゴが聞いた。

 リドス連邦王国には魔法使いや特殊能力者がいると噂では度々聞いていたのだが、それがどれだけ現実に使われているのか想像できなかったのだ。もちろん、新世紀共和国においても特殊能力者が、例えば刑事事件の解明に協力していた。ただそれは、末端の刑事たちの個人的なつながりで行われていたのであって、制度的に特殊能力者を活用していたわけではない。政府上層部においては、あの銀河帝国と似たような意識で彼らを見るのが常識だった。単に、人権を尊重するという点において彼らを追い回さなかっただけである。

「我が国においては、特殊能力者や魔法使いが多いのが特徴です」

と、バルザス提督が言った。

「そうすると、一般の市民の中にも軍の中にもそのような連中がいるということか?」

「もちろんです。普通の人間と共生しているということです」

「だが、それではいろいろ困ったことがおきるのではないかな?」

「それはどういうことでしょうか。普通の人間であっても、犯罪者はいます。それと同じことですが……」

 元新世紀共和国から来た者であっても、その話は想像しがたいものだった。もしここに特殊能力者を忌避する銀河帝国の者がいたとしら何と考えるだろうか、とディポック提督は考えてしまった。それだけではない、リドス連邦王国の者たちが増えるということは、要塞の中にそうした魔法使いや特殊能力者が増えるということなのだ。その時新世紀共和国から来た者たちがどんな反応を示すか、うまくやっていけるだろうか、と不安を覚えるのは当然のことだった。

 会議はその後終了したのだが、政治代表や司令室の者たちなどはバルザス提督の話を納得したわけではない。少なくとも、もし銀河帝国の艦隊が襲来した時、その援軍はリドス連邦王国からしかないという点において妥協したのである。援軍がなければ戦えないことは明らかなことだった。

 それに加えて、惑星ゼンダや帝都ロギノス方面に偵察隊を派遣して様子を探ることも決定した。偵察隊は万一発見された場合を考えて、リドス連邦王国の艦との二隻で構成することにした。リドスの艦と行動を共にするのは万一の場合は彼らの魔法を使うことで緊急事態に対応できるように考えたのである。



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