1.異動—違和感回収課に配属された日—
「違和感回収課、所属です。」
そう言われてもなぁ、と思った。
何だその、わけのわからん課は。
市民課の課長を務める今井は、かつての部下に対して、はぁ?と間の抜けた返事をしてしまった。
当人も戸惑っていた。
——何だよ、違和感回収課って。
望月はこの市役所に新卒で入所して三年目になる。配属通知を受け取ったとき、最初に思ったのは「見間違いか」だった。二度見しても三度見しても、そこには確かに「違和感回収課」と印字されている。
そんな課名は、これまで一度も聞いたことがない。
庁内イントラを検索しても出てこない。組織図にも載っていない。同期に聞いても、誰一人として知らなかった。
極めつけに、配属先の人数は「一名」。
つまり、自分だけだ。
何をすればいいのか、まるでわからない。かつての上司にも、このまるでさっぱりわからない課に配属になった話をしたら、はぁ?と返事をされたわけだ。
一人なのでせっせと動いて席を落ち着けなければいけない。二階上のフロア、そこは文化課と広報課が入っている所だった。
「よぉ望月!」
声をかけてきたのは、同期の吉野だった。
「席そこ?俺、文化課なんだけど、望月は?」
「俺?」
少し言い淀んでから答えた。
「なんか、"違和感回収課"ってやつ。」
「……へ?」
予想通りの返事だ。
仕方がないからもう一度、「違和感回収課だ。」と言ってやった。
「何だよそれ、意味がわからん。何すんの?」
「俺もわかってねぇ。一人だし、上司はとりあえず吉野と一緒で文化課の課長らしい。」
席を整えてから、文化課の課長のところへ挨拶に行った。上司は上野と言った。
「まぁ、よくわからないから仕事聞いとくわ。」
誰にどう聞いてくれるのかもわからないが、仕事がなくて困るような事態は避けたい。
どんな基準でこの課に配属されたのか。
そもそもこの課は、以前もあったのか。
突然できた課なのか。
色々わからない事だらけだが、とりあえず席はあるし、きっと仕事も何らかあるだろう。
そう思うことにして、望月はデスクに腰を下ろした。
パソコンを立ち上げ、特に意味もなく庁内メールを開く。
新着はない。
左斜め前の席では、吉野が電話対応をしている。
少し向こうでは、広報課の誰かが笑っている。
ごく普通の、いつもの市役所の一日。
その中で自分だけが、少し浮いている気がした。
——コッ。
どこからか、軽い音がする。
——コッ。
このフロアに来てから、忘れた頃にこの軽い音が聞こえてくる。でも……一体どこから?
音は小さい。だが、近くではない気がする。辺りを見回してみる。
電話をしている者も、キーボードを打つ者も、誰一人として顔を上げない。
——他の誰も、気にならないのか?




