96話 みる者
「忙しそうだったな。」
「あの箱、何に使うんだろう。」
ウィルとメグが、さっきの教員の背中を見て呟く。
尖った耳に黒い髪、目鼻立ちが整った長身の男性だった。
彼も純血の魔法使いなのだなぁ…と感じれた俺は、随分この世界に慣れてきたらしい。
「魔法学校の先生は、あんなラフな感じなんだね。」
俺がそう言うと、二人は少し驚いたあとに笑った。
「あれ、ダイヤさんだぞ。」
「…え!?」
思わず大きな声が出てしまい、ウィルとメグに”しーーっ”と注意されてしまった。
「ライトは、あの姿の時のダイヤさん見たこと無かったのか。」
「お城にずっといたら、見る機会ないもんね。」
あの可愛らしい顔(中身は可愛げがまったくないが…)からは想像できないような姿だったので、驚いたが、同時に”黒い髪の純血魔法使い=ダイヤ”と考えてもいいのかもしれないと思った。
「どうして、あの姿なんだ?」
「詳しくは知らないんだけど、昔いた生徒の親から子供じゃない大人の教師をつけろっていう苦情が入ったらしいよ。ダイヤ様を知らないなんて、相当魔法から遠い存在の家庭だったのね。」
「魔法に関心がなくても、医者なんだから誰でも知っているだろう。」
「医者なら、みんな知ってる存在なの?俺の故郷ではいっぱいいたんだけど。」
「そうなの!?そっちのほうがびっくりなんだけど!」
「トヤヘリノを含めたこの周辺地域に医者なんて数えられるだけしかいないぞ。」
そんなに医者の数が少ないのは驚きだ。
こっちの世界では、まだまだ医療が発展していないのか。それとも医者になれる人が限られているのか。
そうなると、”医者”がいる国、つまり東の国は、医療で相当儲けれそうだし、国間の地位も高そうだが…。
「ニーニャさんが軍事医療の免許持ってるって言っていたけど、医者っていう分類には入らないのかな?」
「医療系の免許を持っている人はたくさんいるだろうけど、医者とは扱いが別らしいよ。」
「そもそもランク七以上じゃないと、医者にはなれないしな。」
「星七個ってかなり大変だよね。ソルさんとリンさん、あとヴァイオレットさんは星八個持ってるって言ってたよね。」
「八個ってすごいよなぁ」
この世界の星の価値が随分高いことが改めてわかった。
星五以上取るのが難しいと言っていたし、医者というのはかなり狭い門をくぐり抜けた人じゃないと厳しいらしい。
数が少ないというのもこれで納得だ。
俺たちは階段をあがり、色々な教室を見て回った。
魔法学校はかなり広く、ソレイユやリュンヌ、ヴァイオレットがいる教室を見つかることができなかった。




