86話 思いやりの心
「マーガレットさんからお手紙です。」
「え、マーガレットから?」
「マーガレットって魔法学校の校長って言ってた人?」
「そうだ。ほぼ毎日会うのに、どうして手紙なんか…。」
ダイヤは手紙の封を開けて、読み始めた。それとほぼ同時にニーニャは部屋から出ていった。
手紙を読み終えると、ダイヤはそれをテーブルに置いた。
手紙の内容がちらりと見えたが、魔導書にかいている文字と似たもので書かれており、俺には読むことができなかった。
「すまないが、今から少し出かけてくる。今日は疲れただろ、ゆっくり休めよ。」
ダイヤはそう言って部屋を出る。
ゲストルームに取り残されてしまった俺はダイヤが出ていってから数秒後に部屋を出た。
部屋を出るとニーニャが廊下に立っていた。
さっき部屋に入ってきたときには持っていなかった、分厚いファイルを持っている。
「もうお話は終わったのですか?」
「はい。ダイヤが出かけたので、俺も聞きたいこと聞けましたし。」
「それならいいのですが。」
「…もしかして、ダイヤのこと待っていました?」
「いえ、そういうわけではないのですが。今日のザックのことについて共有しておこうかなと。」
「なるほどです。」
確かに、今日のザックのニーニャに対する態度は不思議に思うところがあった。
クイードにも”気に入られた”と言われていたし…。
「ザックの言うことが真実ならば、サイモンさんが彼のことを詳しく知っているかもしれません。」
「そういえばザックはシルファーと同期だって言っていましたよね。」
「情報は一つでも多いほうがいいですし、クイードのことも伝えておこうかと。」
ザックの情報が少しずつ集まってきて入るが、クイードの情報は一つもない。
彼の顔は見えないし、全体のシルエットもローブで分かりづらい。
そしてあの尻尾のようなものは何だったのだろう。トカゲの尻尾のようだったが、全長二メートルほどあったし、大きな鱗がいくつもついていた。
しかし、あの声…ザラザラとかすれた声だったが、何処かで聞いたことのある声だ。
誰の声だろうか。この世界で聞いたのか、俺の住んでいた世界で聞いたのか。
どちらにせよ、あのクイードという男は、何かみんなが知らないことを知っているような気がする。
ソレイユに魔導書を渡したのも、何か思い当たることがあるに違いない。
ふと、俺は思い出したことがあった。
「ニーニャさん、もしかしてクイードと知り合いですか?」
「どうしてですか?」
「えっと、なんとなく…、なんですけど。
クイードとニーニャさんが近くにいた時、ニーニャさんが何か気づいたように見えて。」
ニーニャはハッとして、腕を組んだ。
「勘違いかもしれないのですが、古い友人に似ていまして。
でも、もう何年も会っていませんし、クイードの顔はマスクで見えていなかったので、彼の話し方だけで判断したのですが。」
「古い友人?」
「はい、ジンという方です。強くて優しい、彼は僕にとってのヒーローなんです。」




