62話 青く
ダイヤと話してから三十分ほど経った。
俺は表の庭園に出て、芝生の上に寝転がる。
城の防衛魔法は昨日と違って、目を凝らしても見えない。
空を見上げる俺の視界にミントグリーンの髪と桜色のリボンが見えた。
視線をそちらにやると、不思議そうな顔をしたリリィが俺の方をじっと見ている。
「リリィさん、こんにちは。」
「こんにちは、ライトちゃん。日向ぼっこしてるの?」
「半分正解ですけど…。ダイヤに頼まれて、城の防衛魔法を見ているんです。」
「そういえば、昨日ザックとかいう子に潜られちゃったって言ってたわね。」
「俺、どうやら空間魔法が見えるらしくて…。古い型だけなんですけど。」
「魔法が見えるって面白いこと言うのね。シルファーも小さい時そんな感じのことを言っていた気がするわ。」
そう言うと、リリィは俺の隣に腰を下ろした。
シルファーという名前が出たことを、俺は聞き逃さなかった。
「シルファーも魔法が見えたんですか?」
「えぇ。本当かどうかはわからないけど、光や闇などの高い魔力を必要とする魔法は見えるって。
魔法の声が聞こえるって言って、どういうものか教えてもらったこともあるけど、私にはわからなかったわ。」
リリィはくすっと笑う。
シルファーはリリィの古い良い友達なのだろう。
見えるというのは理解できるが、魔法の声となると俺もわからない。
もし、魔導書が揃ってクロムさんがシルファーに会えたなら、魔法の声について聞いてみよう。
「リリィさんから見てシルファーはどんな人ですか?」
「そうね。もうすっかり大人なのに中身はいつまでも子ども、とっっっっても強い魔法使いだけど一人になるのを誰よりも恐れているちょっと困った子。」
「なんだか自分の子どもみたいに話しますね。」
俺がそう言うとリリィが驚いたように俺を見る。
「大切な友達の子なの。あの子は私が助けてあげなくっちゃ♪」
リリィはニコっと笑うと立ち上がる。
服をパンパンと払う小さな背中には、大きな責任を背負っているようだ。
シルファーとリリィの関係をもう少し掘りたかったが、今日はこのくらいにしておこう。
「それにしても、ダイヤは人使い荒いわよね。昨日のトレイちゃんにも厳しかったし、三番隊に仕事を押し付けすぎなのよ。後でビシッと言ってやらなきゃ。」
リリィはそう言うと、手を振り城の中へ入って行く。
俺はもう少し防衛魔法越しに空を眺めていた。




