38話 似た者同士
「さて、じゃあどこまで残そうか。」
クロムは俺の記憶の一部分を消そうとしているらしい。
俺の頭に置かれたダイヤの手がひんやりと俺の頭皮に伝わる。
ダイヤの顔は見えないが、クロムは俺のことをまっすぐと見て俺に記憶をどうするか考えているようだ。
「ダイヤ、ライトの今の状況は。」
「瞬きの回数、呼吸の速度や言動も今のところ問題ない。」
「ダイヤに任せようかな。」
「丸投げするんじゃねぇよ。」
ダイヤは少し考えたあと、俺の頭から手をどかす。
「こいつから取るものは無いな。」
ダイヤはそう言って元の席に座る。
これはどういう意味だったのだろう。俺には取るような価値のある記憶が無いということなんだろうか。
それとも…。
ゲホゲホと咳き込む声が聞こえた。
無意識に下げていた頭を上げると、咳き込んでいたのはクロムだった。
「大丈夫か。」
ダイヤが近くに駆け寄り、声を掛ける。
「息吐いて、1・2・3。」
ダイヤの声でクロムは吸引器の薬を吸う。
「だ、大丈夫ですか。」
「あぁ、ごめんね。持病なんだ。」
「水取ってくる。」
「ありがとう。」
ダイヤが部屋を出ていった。
「さっきは驚かせてごめんね。」
「いえ、持病があるなんて知らなかったので驚いただけです。」
「その前もだよ。記憶消されちゃうかと思った?」
「え…、はい。」
「ダイヤは本当に記憶を消せてしまうから、気をつけてね。」
「気をつける?」
「僕らのことをかなり信用してくれているみたいだけど、大事な記憶は自分の中にしまったほうがいいかもね。」
確かに、ダイヤの前で余計なことを話して記憶を消されてしまっては大変だ。
それにプラスして心が読めるとなると、本当に敵に回したくない。
ダイヤが部屋に戻ったきて、クロムに水を飲ませる。
「今日はもう寝ろ。」
「僕、もう子どもじゃないんだけど。」
「悪化したらどうするんだ。」
「はい、もう寝ます。」
国王であるクロムでもダイヤには敵わないらしい。
「ダイヤ。」
「なんだ。」
ダイヤは呆れたようにクロムの方に振り返る。
「シェムさんがデイヴィッドくんを探すためにトヤヘリノの地域を調査するらしいんだ。」
「怪しまれないように隠すもん隠しとけってこと?」
「違うよ。ダイヤを協力助っ人として貸し出すって言ったんだよ。」
「お前には俺が暇人に見えるんだな。」
「そんなことはないさ。でもこれで、西の国に入る理由ができたよね。」
クロムがニッコリと笑う。
「はぁ、そういうとこ誰に似たんだか。」
ダイヤと俺はクロムの部屋を出た。
「お前の”物の記憶を見ることのできる力”は興味があるな。
この世界に来るときに授かったものだろう。発動条件は?」
「まだわからないんだ。今のところ手で触れたときに見ている。」
「でも記憶を見た時以外も手で触れているもんな。また、記憶を見たら教えてくれ。お前が良ければな。」




