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怪談集  作者: appipinopi
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14/17

何が起きたのか分からない不気味さ

最近は会社の繁忙期で毎日残業続き、電車に乗り家に帰っている途中、窓をふと見ると、いきなり人影のようなものが見えた。

疲れているせいだろう。

目をこすり、もう一度見ると、その人影は消えていた。


駅を降りた時、足音が聞こえた。


コツ、コツ……。


少しずつ近づいてくる。

住宅街だし、同じ道を歩く人もいるよね。

そう思い、気にせず歩いた。

だが、一つ気になることがあった。

私が信号で止まると、足音も止まる。

歩き始めると、また――


コツ、コツ……。


妙な胸騒ぎを覚えた私は、コンビニへ入った。

店内には店員と数人の客がいる。

安心して飲み物を手に取り、何気なくガラス越しに外を見る。

街灯の下に、一人の男が立っていた。

黒いスーツ。

傘も持たず、ただこちらを見ている。

知り合いではない。


数分後、男はいなくなっていた。

「気のせいか……」

そう呟き、店を出る。

また歩き始める。


コツ、コツ……。


今度はさっきより近い。

思わず振り返る。

誰もいない。

静かな住宅街。

聞こえるのは、自分の荒い息だけ。

安心したその瞬間だった。


コツ。


足音が耳元で止まった。

背筋が凍りつく。

振り返ることもできず、私は鍵を取り出し、震える手で玄関を開ける。

勢いよく家に入り、鍵を閉めた。

これでもう大丈夫。

そう思ってドアに寄りかかった。

すると玄関の外から、


コツ。


コツ。


コツ。


誰かが、ゆっくりと家の中へ入るように歩いてくる音がした。

ありえない。

玄関の向こう側なのに、音は確実に家の中を歩いている。


コツ。


コツ。


コツ。


音は廊下を進み、リビングの前で止まった。

息を殺し、耳を澄ませる。

数十秒の静寂。

もういなくなったのかと思った、その時。


コンコン。


リビングのドアが二回だけノックされた。

恐る恐るドアスコープ代わりに隙間を見る。

誰もいない。

安堵してドアを開けようと手を掛けた瞬間、スマートフォンが震えた。

画面には防犯カメラの通知。

『玄関で人物を検知しました』

映像を開く。

そこには、玄関の前でスマートフォンを見ている私が映っていた。

そして、そのすぐ後ろには――

電車の窓に映っていた、あの人影が立っていた。

しかし映像には、その影は私の後ろにいるのではなかった。

玄関のドアをすり抜け、すでに家の中へ入っていくところだった。


翌日、その家から私の姿は消えていた。

玄関には靴が揃えられたまま。

財布もスマートフォンも残されていた。

ただ一つだけ、警察が不思議に思ったことがある。

家中どこを探しても、人が歩いた形跡はなかった。

なのに廊下には、乾いた土の足跡だけが、リビングの前でぷつりと途切れていたという。



後日談

事件から三か月後。

警察は失踪事件として捜査を続けていたが、有力な手掛かりは何一つ見つからなかった。

会社では「疲れから突然いなくなったのではないか」という噂が流れ、やがて話題にする人もいなくなった。


そんなある日。

私が毎日利用していた終電の車掌が、一つの奇妙な証言をした。

「終電を点検していると、たまに窓に人影が映るんです。でも車内には誰もいない。」

最初は気のせいだと思っていた。

しかし、防犯カメラを確認すると、一瞬だけ確かに人影が映っていた。

その人物は、毎回同じ場所、同じ窓に立っている。

映像を停止して顔を拡大した瞬間、車掌は思わず椅子から転げ落ちた。

それは、三か月前に失踪した会社員――私だった。

映像の私は窓の外をじっと見つめ、何かを訴えるように口を動かしている。

音声はない。

唇だけがゆっくりと動く。

映像解析の担当者が何度も確認し、読み取った言葉は、たった一言だった。

「振り向くな。」

その日以降、その路線では終電に乗った乗客から同じ証言が相次いだ。

「窓に誰かが映っていた。」

「目が合った気がした。」

「振り向いたら、足音が聞こえ始めた。」

鉄道会社は原因不明として記録を残したが、公表されることはなかった。


そして今でも、その終電では、ごく稀にこんなアナウンスが流れるという。

『お忘れ物のないようご注意ください。……また、窓に映るものは決して振り向いて確認しないでください。』

もちろん、そのようなアナウンスを流したという記録は、一度も残っていない。

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