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Scene17: てんちゅう

 放火は、すぐには気づかれなかった。


 眼鏡を掛けたボヤけた視界でも、またの間に埋められた頭には、オレンジ色に揺らめく小さな炎が見え、細いけむりが天井へとびていくのもわかる。


「女のアソコって、もしかして髪の毛が燃える匂い!?」


「ううん。いでいるのは、あんたの髪が燃える匂い」


「……えぇっ!? うわっ、なんじゃあああこりゃあああ!」


 私は黒縁眼鏡を放り捨てる。


 跳ね起きたナオヤが頭をパチパチ叩きまくっている滑稽な様子がクリアになった。


 誰が見たってセックスどころではなくなっている状況。


 不思議な踊りをして慌てふためく光景を堪能たんのうしたいのは山々だが、私は急いで起き上がる。ジッパーを上げるだけにとどめ、ベッドから降り、床に散らばった物々で足をすくわれないようにしながらドアに向かって直行した。


 ドアノブに手をかける。そして、


 ――コツン。


 と、手の中に握りしめたままになっているライターに気づく。


 放りなげるために手のひらを開いた直後、ライター表面にプリントされている文字に目を奪われた。


「〝くるくるキャロル〟?」


 私は退出を踏みとどまった。


 回れ右をしてベッドに向き直る。


「ナオヤくーん? これは何かなー?」


 愚弟はベッドのふちに腰掛け、手のひらをフーフーしていた。


 髪の毛火災は沈火しているが、頭からは湯気ゆげみたいな煙りが立ち昇りつづけている。


 私の猫なで声を聞きつけてこちらに視線を寄こし、紋所もんどころのように掲げられているライターを見たあと、ハッとなって一度シェルフに顔を向けてから、またこちらを見やった。


「僕のライターを使いやがったな……」


「やっぱりあんたのなんだ」


「そうだよ返――」


 と、発言が尻切れになる。


 失言に気づいたのだろう。


 私は片眉を上げ、語気ごきを強めた。


「どうして童貞が、ラブホのライターなんか持ってんだ? ん~?」


 ナオヤが所持していたのは、東北によくあるラブホテルチェーン店で貰える、店名ロゴの入ったライターだったのだ。


「……友達からぁ……もらったんじゃなかったけかな」


 私は助走をつけて跳躍ちょうやく


 コタツテーブルを踏み台にしてさらに高く飛翔ひしょう


「言い訳がましい!」


 必殺の空中回転踵落(かかとお)としを脳天へ叩き込んだ。

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