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由莉とえりか 前編


「ゆりちゃん、これって……」



 えりかは少し戸惑った。目の前に由莉が向けている長くて先が四角い形をしてて……真ん中に指が入りそうなほど大きい穴が空いているそれが……



「これはね、『銃』っていう武器。……人を殺す事が出来るものだよ」



 感情の起伏なく言葉を紡ぐ由莉。その言葉に黙ることしか出来ないえりか。



「そして、この銃は私の相棒のバレットM82A1。この大きな弾を相手に撃つ武器なんだよ」



 そう言うと由莉はバレットを片手に持ち、もう片方の手でポケットに入っている50口径弾を掴みとるとえりかに投げ渡した。クルクルと回りながら重力で下に落ちていく銃弾をえりかは危なげに受け取った。



 ___重い……それに…………大きい。こんなの人に当たったら……



「……………………私はこの銃でもう2人を撃ち殺してる。私は……人殺しなんだよ」



「…………っ」



 相変わらず声に感情がこもっていない由莉だったが、えりかは僅かに由莉の手が震えているのが分かった。



「やろうと思ったら今この場で……えりかちゃんを撃ち殺す事も出来るんだよ?」



 由莉はバレットの銃口をさらに近づけえりかの額の前に構えた。その中に弾が入っていないのは由莉しか知らないことだった。



「怖いでしょ?今まで側にいた人が本当は人殺しだったなんて。だから…………もう……」



「…………っ!」



「えりかちゃんの……側には____っ!?」



 その瞬間、由莉はかん高い音が聞こえると同時に右頬に激しい痛みを感じ軽く横によろめいた。ふとその方向を見ると___顔を真っ赤にして右手を平手で振り抜いて睨むえりかがいた。



「……ふざけないでよ」



「だよね……ごめんね……こんなこと1ヶ月以上も黙ってた__」



 勘違いも甚だしい由莉の発言にえりかは平手を握り拳にして、さらに怒りの篭った声で叫んだ。



「……違うよ!わたしが怒ってるのはそんな理由じゃない!」



 えりかは由莉のすぐそばまで近づくと由莉の肩を両手で掴んだ。



「……ゆりちゃんの言葉で聞きたかったよ。今のあなたは……『ゆりちゃん』じゃない」



「っ!?」



 その言葉は由莉の閉ざした心の鍵をめちゃくちゃに打ち砕いた。何重にも何重にも、決して弱さを見せまいと張った心の壁が一瞬にして崩壊した。



「ゆりちゃん、本当の事を言ってよ……私を傷つけたくなくてやってるなら、我慢しないで本当のことを言ってよ!!」



 一番の友達からの……本心の叫びを聞いて、由莉は我慢していた感情がついに爆発した。



「……ぃゃ、いやだよ……えりかちゃんと別れるなんてそんなの嫌だよぉ……もっと、えりかちゃんと……色んなことがしたい!もっとトランプやりたいし、もっと一緒にお話したい、もっとお風呂も一緒に入りたい、もっと一緒に寝たい!……これからもずっと…………えりかちゃんと一緒にいたいよ!」



 今まで必死に弱音を吐かないと決めてた、その思い全てが滝のように言葉となってえりかの元へと流れ出た。



「でも、私は人を殺した。そんな事を知ったらえりかちゃんはきっとどっかに行っちゃう。そう思ったら怖くてどうにかなりそうだった……っ。だから、えりかちゃんが元気になるまでは……って黙ってた。その間は楽しかった……楽しかったけど隠し事をしている私がどうしようもなく情けなかった。私の傷を見せた時も、えりかちゃんがずっと味方でいてくれるって言ってくれて嬉しかった。なのに……これだけは…………これだけは言ったら怯えられると思って同時に苦しかった。」



 由莉はもう息もできなかった。苦しさで胸が張り裂けそうだった。



「だから……今日、きっぱりお別れしようと思って…………もうえりかちゃんが私の事を見て苦しまないように冷たくあたって……銃口を向けちゃった………最低だ……私、大好きなえりかちゃんに最低なことしちゃったぁ……っ。」



 殺す気はなくても自分の大事な人に銃を向けること、それがどんなにやっちゃいけない事なのか由莉は知っていた。それなのに、分かっててそれを自分の思いの実現のためだけにしてしまった事、それがどす黒い罪悪感となり由莉の心も身体も押しつぶしていった。



「私は…………もう、えりかちゃんとは一緒にいられない……こんな事までして、今さら許してもらうなんて考えてな___」



「ううん……許すよ」



 地獄の底にまで堕ちて行きそうな由莉を救ったのはえりかの一言だった。



「なんで……?なんで、許すの?えりかちゃんのことを……殺せるって言った私を……どうして!」



 絶対に言ってはならないこと、それを言って許されるはずがない、そう思ってた由莉は若干怒鳴りながらえりかに聞いた。すると……えりかから返ってきたのは優しく何もかもを包み込む、そんな言葉だった。



「ゆりちゃんは……わたしの命の恩人だからだよ」



「え……っ!?なんで……それを……」



 由莉は激しく動揺した。その事はまだえりかに一言も話してなかった。すると、えりかはその真相を由莉に全て話した。



「阿久津さんに全部教えてもらったよ……私がここに来た理由も……それとゆりちゃんの秘密も」

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