万能調味料
大体の大筋が見えてきたのでタイトルを変更しました。多分旧題は消さないと思います。反対意見が多ければ戻すかまた変更します。
「よく来たなジェンネ!歓迎するぞい」
ジェンネさんはそう言った女性――東部主要都市代表に熱い抱擁を以て出迎えられた。
えっ?俺たちはその間当然空気でしたが、何か?
ジェンネさんの案内で何の障害もなく王都である中央主要都市を通過し、無事にイスタンジアの代表に会うことが出来ているんだ文句なんて言ってられるか。
「…ところでそっちのは誰じゃ?また新しい子分か?」
しばらくしてようやく俺たちに気付いた代表がジェンネさんに尋ねる。
ジェンネさんは未だにガッシリと拘束している腕を外しながら、本題に入る。
「ほほう、王が死ぬ…か。それは愉快な話じゃな」
「……愉快?」
不謹慎な発言に思わず剣呑な声をあげていた。
「そう怖い顔をするでないよ。あの王が死んだところで言ってしまえば私には一切ダメージはない…そういう意味でしかないわい」
やれやれと肩を竦めていた。
「ダメージがないってことはないんじゃないですか?仮にも、あなたたちの上司というか上役みたいなもんでしょ?」
「普通の国ならばそうかもしれんが、我が国では事情が少し異なる。基本的にペンタ連合国において王というのは別にセントルの代表を意味するわけではない。5つの主要都市、その中の一人が王に選ばれるだけにすぎん。大抵は在任期間の長い者が就任するのが習わしになっておるがの…」
そんな国もあるのか…。
だったら、ダメージがないっていうのもあながち嘘ではないのか。王が急逝することで国内が一時的に混乱しようとも各都市の代表が速やかに収めればそこまで広がらない。一番酷くても王が今いる都市セントルの混乱が長引く程度…そういう認識なんだろう。
「…さて、難しい話はそれぐらいにして、近いうちに代表が集まるならば準備が必要」
そう言った彼女は俺たちを見まわしながら宣言した。
「――ということで今から食材を取りに行くぞい!」
「……まったく、何故私まで」
ブツブツと文句を言いながら、ジェンネさんは足を重そうに引き摺りながら最後尾を歩いている。
「ジェンネ、そう文句ばかり言うな。…それに、お主の実力では殿はしんどいのではないか?もっと真ん中に寄った方がいいと思うがの」
そして、なぜか同行している代表――イシュナ・クノン。
『食材?一体どういうことですか?』
彼女の言っている意味がわからず、顔を見つめ合わせる。
『…ん?そのままの意味じゃよ。今から食材を取りに行く』
『だ、だからっ、何でわざわざ今から行くんですか!』
声を荒げると、彼女はやれやれといった感じに首を振った。
『――いいか?お主たちの言っていることの真偽はともかく、近いうちに各都市の代表たちが一同に会するのはわかりきったことであろう?そうなれば、私が腕を振るわねばなるまい』
(あっ、駄目だ)
話が通じない。そう判断し、ジェンネさんの方に顔を向ける。
『ええっと、イシュナ様は元料理人で――』
『おいおい、ジェンネよ。私とお前の仲で水臭い。クノンでよいぞ?』
『…どんな仲ですか』
呆れたような表情を浮かべたジェンネさんだったが、言っても聞かないとわかっているのかそのまま話を進めていった。
『クノン様は元料理人。彼女は代表に就任してからは代表たちが集まる際には彼女が腕を振るうのが恒例となっているのです』
…ああ、そういうこと。
『さらには、今回は予定になかったこと。つまりは急なことで食材が用意できないので今から取りに行こう…クノン様はそう仰っておられるのです』
本当に合ってる?と代表に向き直ると、「うむ」と満足気に頷いていた。
『……わかりました。わかりたくないけど、事情はわかりました。つまりは、俺たちに取って来いって言ってるんですね』
『まあ、そうじゃが…安心しろ私も行くぞい』
『『『へっ…??』』』
この発言には俺たちだけでなく、ジェンネさんも何を言ってるんだみたいな反応をしていた。
『何を間抜けな表情をしておるか。お主も行くんじゃぞ?』
『えええええっ!?』
続けられた言葉に、ジェンネさんは今度こそ驚愕の声を上げて抗議する。
『な、何故ですかっ!?私は関係ないでしょ!そもそも、私はイスタンジアではなく、ブゲキの人間です』
『……おいおい、お主の代表が食べる料理でもある。関係ないってことはないはずじゃよ?』
んな無茶苦茶な。
『それに、来てもらわねば困るのじゃ』
『……どういうことですか?』
聞いた話じゃ、ジェンネさんはコロシアムという限定的な場所でこそ実力者だが、普段は秘書をしているだけで実力は大したことはないということだったが…。
『今から行く場所におる魔物の性質上、大人数で行く方が安全ということじゃ』
『今から行く場所って…そういえば、何を取って来るんですか?』
それもまだ聞いてなかったな。
『そうじゃな…お主、お主ならばわかるかの?』
そう言って彼女が指差したのは…マツリだった。
『拙者でござるか?』
『そう、お主じゃ。見たところジルバニア公国の人間ではないか?』
『…たしかに、拙者はジルバニアの出身でござるが』
『そうじゃろうそうじゃろう。見てわかるように我が都市、イスタンジアはジルバニア公国と関係がある』
そう言って彼女は着ている衣服を見せつけるようにくるっと一回転した。
そう、彼女はマツリ同様に着物を身に付けていた。
『土地が接しているせいか、関係が深くてな。ジルバニア原産の食材も多くこちらに入って来ておる。ここまで言えばわかるのではないか?』
試すような物言いだったが、マツリは何か思いついたような表情を浮かべる。
『……もしや、しきみでござるか?』
シキミ?
『その通り!今から取りに行くのはジルバニア由来で料理人ならば喉から手が出るほどに欲する夢の調味料、四季味草じゃ!』
夢の調味料っ!?そ、そんなものが…。
『そ、それは一体どんなものなんだ!』
『…ほほう、その反応お主ジョブは料理人か』
『そんなことはどうでもいい!教えてくれ!』
『うむ。では教えてしんぜよう!』
四季味草とは、それ自体は無味無臭だが四季が移り変わるように味が変わる不思議な草。
原理としては、料理や食材などと一緒に保存することでその味が移るそうだ。つまりは、匂いの強烈なモノの傍に置いておくとそれが移るみたいなもの。
様々な味を混ぜわせても一度に味わえるということで郷里に使えばまさに万能とも呼べる食材になるのだそうだ。
『――とまあ、そういう食材でな。あまり調味料を持って行っても邪魔になるだけじゃし、何よりも前菜などで出せば掴みは完璧!』
『たしかに、それなら急いで取りに行かないと…!』
もはや、俺の頭の中は行くことが決定事項になっていた。
『でも、マツリさんが知っているのならばわざわざ代表が行かなくてもいいのでは?』
ヤノンが当然の疑問をぶつける。
『先程も言ったが、その場所にはちょっと厄介な魔物がおる。それの対策じゃよ』
『……?』
『その魔物は名をフーリガーと言ってな、別名はパーティ殺し』
『パーティ殺し?』
物騒な名前だな。
『基本的に8~10匹の群れで行動しておってな。群れの数よりも少ない構成人数の場合のみ襲いかかってくるという習性を持っておる』
8~10匹か…。
俺、ヤノン、マツリ、それからミルルとルルミちゃんにピリノン。キャロルを頭数に入れていいのかはわからないがキャロルを入れても俺たちは7人しかいない。
たしかにこのままだと確実に襲われるな。
『それ自体の実力は高くないが、数が数だけに面倒臭い。じゃから、そこに行くのはパーティの上限10人を満たしすかクラン単位でしか立ち入りを許可しとらん。かと言って、いつ必要になるかわからない以上できるだけ早く取りに行っておきたい』
だから、ジェンネさんも加えて9人で行こうっていうのか。
――ちなみに、四季味草は長期保存が効かない。長く置いておくほど別な味が染みる可能性があるためだ。
『なあに、私の腕も衰えてはおらん。気にする必要はない』
「――チッ、鬱陶しいのう!」
四季味草の群生する森に入ってから早くも3度目のフーリガーとの遭遇。
どうやらキャロルは一人と数えられるようで、襲ってくるのはいつも10匹以上の群れだけだった。それ以外は遭遇しても向こうから逃げてくれる。
今はクノン代表が薙刀のような包丁を振るって素早く切り伏せていった。
彼女が言うように、実力はある。そしてフーリガー自体は大したことはない。数は鬱陶しいが…。
(これなら案外簡単に見つけられそうだな)
――そんな風に思っていた時期が俺にもあった。
「これはどうだ!?」
「駄目じゃ!まったくなっておらん!」
見つけた四季味草を掲げる度に駄目出しされていた。もうこれで11回目…心が、折れそうです。
「なかなか、見つかんないね…」
「……別になんでもいいじゃん!」
双子やキャロルは早々に飽きてしまっている。
「甘いわっ!美味いモノを食べるのに、妥協なんぞしておれるかっ!」
そんな彼らにも容赦ない激が飛ばされる。
(舐めてたぜ…!四季味草、なんて奥が深いんだ…!!)
四季味草は純白と言えるほどに白い方が価値が高い。
それは、その方がまだ一切味が染みてなく、それでいて染みやすいからだそうだ。
だが、見つけるのは少しばかり変色してしまっているモノのみ。
(これは先がまだまだ長そうだ)
一向に終わらない作業を進めながら、俺はそんな風に感じつつ料理の奥深さをまた一つ学んだのだった。
異世界食変紀行にするか迷ったのですが、漢字ばかりで読みにくいかなと思いまして…




