信頼の証
「いい戦いぶりだった!君たちのことは信用するよ!」
大決闘大会が終了し、再開した直後にバトムスさんからそう告げられた。
(……ふぅ、無駄にならなくてよかった)
試合の最後の方にはそんなこと忘れてしまったいたのだが、無事…とはいかないまでも目的を達成できたことに安堵する。
試合後、マツリとジェンネさんは打ち解けたらしく――おそらく拳を交わすことでなんらかの友情が芽生えたのだろう――今はお互いの健闘を称え合っている。
ちなみに、そんな二人の様子を面白くなさそうにしながらピリノンがまとわりついていた。
「……で、これからどうするんだい?まだ他の都市も回るのかな?」
「ええ。その予定です。一応、ジュリアンさんからは次は東部主要都市に向かってほしいと言われているので…」
「……東部?ブゲキからなら王都セントルか北部主要都市ノスマンの方が行きやすいのに、なんでわざわざ…」
それは俺も疑問に思っていたことだ。都市間を鉄道で結んではいるが、すべてが地続きというわけではない。中央主要都市(現在の王都)セントル以外は反対側の都市には必ず一つ主要都市を経由しなければならない。
「なんでも、北部は後回しにしておいてほしいということでしたので…」
とりあえずジュリアンさんが言っていたことをそのまま伝えるとバトムスさんは納得したようだ。
「言いたいことはわかったよ。たしかに、ノルマンはちょっと異質だからね」
「……異質?」
どういうことだろう。
「まあ、行ってみればわかると思うよ?」
この時は詳しくは教えてくれなかったが、たしかに行ってみたらすぐに事情が把握できた。多分、ジュリアンさんもバトムスさんもこのことを知ってはいたのだろうが、言えば俺たちが行かない可能性もあると考えたのだろう。
「じゃあ、いってらっしゃ~い」
その後、駅でバトムスさんに見送られながら東部主要都市イスタンジアを目指し出発した。
「行って参ります代表」
今回の旅路にはジェンネさんも同行することとなった。今回のように話の齟齬があってはならないということでわざわざ付けてくれたのだ。
ただ、秘書を同行させて良かったのかと心配になってしまう。
アフィやアースナルドのガイナスさんを見ていると秘書の人がいなくなった途端に遊び呆けるし…。
しかし、俺の考えは杞憂だったようだ。
ここは大都市だから、ジェンネさん以外にも秘書はおり、そもそもいてもいなくても趣味にかまけてふらふらと出かけるので少しぐらいなら問題ないらしい。
「――ハッキリ言いますが、私はあまりジュリアン様を信用しておりません」
移動中の汽車の中で突然そんなことを告げてくるジェンネさん。
「ジュリアン様はかつて神に仕えていたお方です」
さらに、穏健派ということもあって民からの支持率は各都市の代表の中でも飛びぬけていると語る。
「…それなのに、なぜ信用できないんですか?」
俺が尋ねるとそれは逆ですと告げられる。
「だからこそ信用できないのです。皆さんは知らないでしょうが、ジュリアンさんは統治者たちからの信用度はどの代表よりも明らかに低いんです」
「やっかみではござらんか?」
彼女が信用できない理由がピンとこない。
「いえ、違いますね」
しかし、ジェンネさんは断言してくる。
「彼女は教会にいた頃から予知能力を持っていることは知られていました。しかし、それを国のために使ったことは未だかつてありません」
ジェンネさんが言うには、ジュリアンさんは国民のためや自分の都市のためなどにはその能力を惜しみなく使ってきた。だが、その情報を自分の身の内に秘めることはあってもそれを誰かに知らせて動くことはなかったそうだ。
「……単純に、代表としての優位性を崩さないためでは?」
「そうでしょうね。ですが、彼女が予知能力を発動させた場合動くのは彼女の意を汲む人間たちだけです。彼女は予知の内容を自分の都市の重鎮たちにすら漏らさない。
そんな彼女がなぜ今回に限って各都市に情報を流すのか?それもあなたたちのような外部の人間まで使って…」
なるほど、その前情報を知っていたからこそバトムスさんは俺たちを疑ったのか。
「ですが、今回は国王が暗殺されるという予知です。そんな重要な情報を隠すわけにはいかなかっただけでは?」
そう。この世界ではありえない『暗殺』という手法がどのような手段かはわからないが用いられるという事態はとても一都市の代表の胸に秘めていい内容ではないだろう。
「わかっています。今回の事件が例外というだけかもしれないということは…。ですが、その微かな違和感に神経を研ぎらせるのが代表としての仕事です。そして、代表が疑っている以上私もそれを信じるわけにはいきません」
そう語る彼女の瞳にはバトムスさんへの信頼と自らの職務に対する揺らぎない責任感がハッキリと見て取れた。
その上で彼女は続ける。
「しかし、杞憂であって欲しいという願いもあるのです。だからこそ、あなたたちを代表は信頼したんだと思います」
道中語られた言葉に相容れない価値観を感じた瞬間だった。




