双子+1
もう一人の仲間の登場です。
ミルルとルルミちゃんの二人が一緒に行くことが決まり、約束の3日が経過したので俺たちは再びチャオ爺さんの店を訪れていた。
「さて、チャオ爺の仕事ぶりを見るのは久しぶりね。楽しみだわっ!」
「陛下!見たらすぐに帰っていただきますからね!陛下の承認が必要な書類が山のように溜まっているんですから!」
さすがに今日は来ないだろうと思っていたのに、当然のように女王も一緒だったのは驚いた。ただし、今回は護衛というかお目付け役らしい人が一緒だったが…。
「ふぉふぉ、陛下は変わりませんな。幼少の砌も陛下はよく城内の職人たちの下を訪れておりましたなぁ…」
どこか昔を思い出すような哀愁を漂わせながら、チャオ爺さんが台車を押してやって来た。台車には布が掛けられており、どのように仕上がったのかはわからない。
…そう言えば、二人の分を作ってもらったの無駄だったかな?まあいいか。あっても困るものでもないし。
「さて、昔話はこの辺にして…。待ちかねておられる方々がおられるようですからな」
ヤノンと双子が今か今かとベールに包まれたマジックバックの周りで目をキラキラさせている。
「…マツリ、お前は行かなくていいのか?」
「拙者、いまいちオシャレというのがようわからん!」
「……ははっ、そういう奴だよなお前は」
無駄に男らしいというか、女らしさがないというか。
「…それに、こうしてシィド殿と一緒にいるのは楽しいでござるよ」
「……ッ!?」
驚いた。こいつはたまにこんなことを言うからな。
「お待たせいたしました。こちらがあなた達のマジックバックです」
「「「おお~~~!!」」」
バサッとベールが外され、二つのマジックバックの全貌が明らかになる。
そして、僅かに遅れて3人の感嘆の声が上がる。
「まず、こちらがシィドさんたちパーティの分になります」
大きい方のカバン――というよりもほぼバックパックという方が正しそうだったが、それが俺たちの分か。
「特徴としては、口が開きやすいため比較的大きな物も収納が可能です。また、3人の平均に合わせた上でヤノンさんでも背負いやすいようにベルトは調整式に。そして、最大の特徴ですが…こちらをご覧ください」
そう言ってチャオ爺さんが指さしたのはバックパックの下の方にある丸い出っ張り。まるで円柱状の筒でも入れているように両側に突き出ている。
「ここは、非常用取り出し口です」
「…非常用?」
「はい。冒険者をされている皆様ではいちいち口を開けて中身を取り出すのは困難な場合も多いでしょうから」
たしかにな。俺もヤノンも基本的には取り出しやすいように腰に付けたポーチからヘベレケ玉などの必要なモノは取り出している。
「ここに、手を入れれば中のモノを簡単に取り出すことが出来ます。しかも、ここは伸縮性のゴムを使っているので本来の取り出し口と同じレベルまで広がるので、取り出せない物はありません」
スポッと手を穴に通していく。その手は腕の先から肩部分まで入っていくが、反対側から出ることはない。
「そして、もう一つポイントが取り出し口とは言え、常に中身が出てきては意味がありませんので当然その辺りの工夫も万全です。
この部分は手を入れることで中の空間と繋がります。わかりやすく申しますと、扉を開けるような感覚でしょうか。そうすることで中身を取り出せますが、普段はその扉は閉まった状態ですので中身が横から落ちるなんて心配はありません」
つまりは、内蓋が付いたカバンってことか?
「さらにはご注文にあった通りに耐荷重量は300㎏まで!どうです?いい出来だと思うのですが…?」
「はい。最高ですね。なっ?ヤノン」
「はいなのですよっ!これならばいろいろ作業が捗ります」
「うむ。拙者はいまいちわからぬがヤノン殿が喜んでいるのならば良いのではござらんか」
「…では、次はお二人の分ですな」
二人の分は当然と言えば当然だが俺たちの物よりも小さ目だ。見た目はショルダーバッグっていうのが一番近いかな。
「お二人の分も基本的にはシィドさんたちの分と性能に差はありません。ただ、ちょっと入れれる量が少ないぐらいですね」
結局はデザインの差ってことなのかな。
「ただ、それではつまらなかったのでちょっとだけ趣向を凝らしてみました」
徐にバックを持って立ち上がると、2階へと上がっていき手すりに引っ掛けたかと思うと本体部分を外側に出し、
「いざっ…!」
その本体部分に跨るように身を乗り出した。
「ええっ、ちょっとーー!?」
千切れて落ちると判断しすぐさま走り出す。
俺だけでなく、長い付き合いの女王…そして女王が動くのに釣られて護衛やチタニアさん、少し遅れてヤノン達も一斉に落下地点に向かっていく。
(間に合わない!?)
そう思ったが、チャオ爺さんは落下することなくゆるゆると床に降り立った。
「「「……はっ??」」」
その様子に全員揃って間抜けな声を上げてしまう。
「ふぉふぉふぉっ、どうですかな?」
そんな俺たちを楽しそうに、悪戯が成功した子供のような茶目っ気のある表情で出迎えるチャオ爺さん。
彼は、俺たちの反応を見るなりどういう仕組みかの説明を始めた。
「これがこのマジックバックの特徴です。ベルトは上からモノを乗せると緩やかに伸びていき、逆に戻る時には――」
カチッと留め具の部分を押すとギュンッと勢いよく戻っていく。
「――このように素早く戻ります」
便利だし、凄い機能だがその説明はなんて人騒がせなんだ…!
「……チャオ爺ってこういう人をからかうところがあったのよね」
女王も若干呆れたようにチャオ爺さんを見つめている。
それは昔と変わらないと言っているのか。それとも…。
「さて、儂からの説明は以上ですな。また何かありましたらいつでもお越しください。陛下もたまには茶を飲みに来ていただいても構いませんよ?」
「それほど暇じゃありませんよ~だ」
「ふぉふぉ。それは結構。あまり城の者に迷惑をかけぬようにしてくださいませ」
そして、俺たちはチャオ爺さんの店を後にした。
「おほっ、これは凄いのですよ!」
チタニアさんの家に帰った俺たちは早速今までの荷物や買っておいた食料などをマジックバックに詰め込む。
それを背負ったヤノンははしゃぎまくっていた。
「今まで以上に物を持っていたのに、こんなに軽々と…!さすがは、マジックバックなのですよ!」
「…へえ。そんなに凄いのか」
「おそらく、爺殿の腕もあるのでござろう。これほど、見事な作りはなかなかお目にかかれるものではござらんよ」
マツリは縫合などの跡を見て、チャオ爺さんの腕を確認してはその仕事ぶりに惚れ惚れしている。
……まあ、早い話みんなして浮かれていたわけだ。
――コンコンッ
そんな中、ノックの音がして外からメイドさんが声をかけてくる。
「失礼いたします。皆さま、我が主がお呼びでございますので広間の方へお越しください」
「「「…………?」」」
俺たちは顔を見合わせた。
(一体なんだろう?)
「あっ、シィドさん!」
「…よう、二人も呼ばれたのか?」
広間に行くと別室で用意していた二人が先に待っていた。
「いや、オレたちは準備が終わって玄関に行こうとしたここで待つように呼び止められただけだよ」
何がしたいんだろ?
「おぉ、皆揃っておるようじゃな」
広間に集まってしばらくするとチタニアさんがいつものようにメイドさんを引き連れて現れた。
「……あれっ?そんなメイドさん今までいましたっけ?」
チタニアさんが連れていたのはまだ見たことのないメイドさんだった。
見たことがないだけでなく、今までは猫耳だったのにこのメイドさんだけは犬かキツネのような尖がった大きな耳を生やしていた。
「…なかなか、目敏いではないか。紹介しよう…と言っても名前はないのだが、これは新しく創った新型メイドじゃ。こやつには完全自立型の精神を与えており、核が傷つかない限り停まることはないという優れものじゃ!」
「へぇ~」
「リアクション低っ!もっと驚かんかい!」
「いや、そう言われても…」
ぶっちゃけ、それでどうしたって話だし。
「まあいい。この新型をお前たちに披露したのは別に自慢したかったからではない」
じゃあなんだってんだ?
「この新型。お前たちにくれてやる」
そして、彼女はにこやかに爆弾を放り込んできた。
「「「ハァッ!?」」」
えっ?何、どういうこと?
「なんでそうなるんですかっ!」
「私が、気に入ったからだ」
いや、気に入ったからってそんな……。
突如として与えられた凄すぎる贈り物にどう対応していいのやらわからない。
そんな風に考えている間にもその犬耳メイドは俺たちの傍に移動してくる。
「これからもいろいろ大変なことが多いじゃろう。その助けにでもなればと思ってのことじゃ。深く考える必要はないぞ」
「…そう言われても」
気にしないなんてできないだろう。存在感がありすぎる!
「……なに。それは交わさない契約のようなものだ」
「……契約?」
どういう意味だ?
「そいつが居れば、メンテナンスの際は私を頼らざるを得まい?つまりは、そういう口実を用意してやるから気軽にまた来い。そういうことじゃよ」
「ッ!?」
…ああ。そういうことか。
本当にこの人は寂しがり屋だな。こんな風に遠まわしでないとまた来てほしいという気持ちも伝えられないなんて…。
「わかりました。では、大切に預からせて貰いますよ」
『いつか、絶対に会いに来る』言葉にこそしないがそんな約束を交わし、俺たちはナイフォワ王国を出て新たな国へと旅立って行った。
――後日談というかおまけの話。
「……ああ、あの新型の問題を伝えるの忘れてた。まっ、いっか」
チタニアさんがそんなことを言っているなどと知らない俺たちだったが、その問題はすぐさま理解させられることとなった。
「ほら!キリキリ働きなさいよっ!このクズ!」
「私を使うですって?舐めんじゃないわよ!私こそがあんたらのご主人様よ!」
「ほーほっほ!女王様とお呼び!」
こいつ、すんごい口が悪かった。
――実は、このメイドを贈ることを提案したのがかの国の女王であったことも、何故か彼女がノリノリでその制作に携わっていたことを知らなかった俺たちだったが、今後有能だが口が極めて悪い。言うなればデレなし、ツン100%のメイドに悩まされることとなった。
「「「こんなの詐欺だっ!」」」
俺たちの虚しい叫び声が出発してから数時間後には国境沿いに響くことになった。
「私のために働きなさい!」
次回は閑話を一話挟ませていただきます。閑話のついでに設定集の更新もする予定なのでそちらもご覧ください。




