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20,『うん! うん!』

「部活ができたのがな、紫藤が入学する前だ。幽霊部員もいたが今よりは普通の部員のほうが多かったな。部員数は十人と少し」


私は黒野にどうして天使保護課に部活が関係あるのかと問いたくなったけど、こらえて黙る。焦る必要はないのだ。


「そう」

「ああ。オカルト研究部って名前だが実際は部室で菓子くって話して菓子くって話して、年齢考えろってのに飽きたなら自分たちで秘密基地でも作ってな。それの繰り返し。ちゃんとした活動はなし、ここにある置物もなし」

「へー」


私の中で、数人の部員になら広い教室でお菓子を食べ放題、部員とのわいわいとした会話もあるがしかし読書には向かない場所と勝手な解釈がはいる。最初はできたばかりというのもあるけど、こんなに薄気味悪い部室でもなかったのか。


「そんなんだから、真面目に部活しろって怒られてな」

「だろうね」


私は部室を見回してそっと息をはく。部室がなくなっても秘密基地とやらに集まって話していたのではないだろうか。とりあえず部活が廃部にならなくてよかったのではとおもう。


「で、言われたとおり真面目に取り組んだ結果が今の状況だ」

「はい?」


真面目に取り組んで今に至る。天使保護課の人に監視。幽霊部員。過疎な部活。不気味な置物。部員が部活の活動に嫌気がさしたんだろうか。黒野は片頬をひきつらせていった。


「部員が別の階にすんでるやつら関係なく召喚したんだよ」

「っぶは!?」


思わず、口から息がどっともれた。それは全員が無断召喚をしたってことでいいのだろうか。天使保護課では無断召喚を禁じているって、さっき……。なぜか冷や汗がながれてくる。まさか私を監視してたという理由が。黒野は私が考えていることがわかっているのかそうだ、といっているように頷いている。


「私を監視してたのって……」


確認をするように、ききだす。


「ああ、召喚してないただの部員はお前が最後でな。保護課はそれを阻止するために監視してたんだよ。ほかの部員にも紫藤にはこういったことに関わらせないようにって怒られててな」

「いや、だって……。博物館に連れてったのって部長と黒野じゃん! それに監視はどうしたの!?」


黒野はどこか斜め上に視線をやると、どこか遠くをみつめるた。そのままマグカップが机の上に置いた。


「お前に召喚させないよう部長を止めていたのは俺だ。監視の期限は一年。金曜日がちょうど一年だったんだよ。部長が紫藤としっかりと活動できないってしょぼくれてたからちょうど、な。そうしたらたまたま博物館の期間だったからな。お前を一人にしたらどうしてか召喚書が……」

「はあ……」


私はがっくりと肩をおとし、ため息をついた。正直、めちゃくちゃだ。さすがに疲れている。体力的にというより精神的に。思い出せば全身が痛むのだ。ああ、これでは肉体的にも疲れていることになる。


「なんだやっと疲れたのか?」


黒野は肩をすくめながらいう。


「疲れるよ、やっとってなにやっとって」


私は少し苛立っていってしまう。目線を下げれば、自分の足。おそらくハイソックスを脱げば痣ができているんだろう。痣ばかりの体じゃ寮の入浴場をしばらくはつかえなくない。いや、ちがう。私は首を左右にふった。自室にもお風呂はあるのだ。


「もうちょいだからあと少しがんばれ」

「うーい。 それよりほかの部員はどうしてるの?」


知ろうとするのも今更だけど振り返ってみるも私が入部して、黒野と部長しか部員は知らないのだ。部員名簿はあるものの目を通したことがない。ああ、一人いた。


「幽霊部員」

「そうじゃなくて、召喚した部員の人たちのそのあとはどうなったの? あのときあったマントの先輩は?」 


ミシリミシリ、と近くで音がするけど、周りをみてもとくにこれといった変化がない。


「さあな。それにどの先輩だよ。とりあえず部員全員で紫藤には会わないようにしてたら、すれ違うこともなかったな」


黒野はにかり、といたずらが成功したように目を細めさせて笑うも、もともとの目つきの悪さがで好印象を受けるはずの笑顔にそういったものがみうけられない。


「そうだ、紫藤」

「ん?」

「時間切れみたいだ」

「は――っ!?」


―え、なにこれ……!?


カン、という乾いた音が部室に響く。音のほうをみれば置物に少しずつひびがはいっているのだ。ひびははやく広がっていき、その欠片がパラパラと床に落ちていく。


「もうちょっと手助けできると思ったんだがな」

「え?」


それはどういう意味? と、いいかけた瞬間、黒野が私の前に飛び出し、机に置いてあるキャンディーを私につきだした。置物がバラバラに崩れおちた直後。砕け散った破片が私の頭の上に雨のように降り注いでくる。


「これどうなってるの!?」

「襲撃だな」

「しゅ、しゅ・・・・・・!」


その言葉を受けた私の脳裏に、ワンピースを着た少女が蘇ってくる。


「これ逃げ続けたらよけいに悪くなったりする!?」

「そうだな、何人かは罰の期間が長かったな。とりあえず契約しとけ」

「な、なななんで最初にいってくれなかったの!?」

「契約してると思ったからな。ちょうどいい、今のうちに契約しとけよ」


私の叫びに黒野は機嫌が悪そうにこたえ、舌打ちをした。


「ティファニス! 大丈夫!?」

『うわああああんっ! 私は大丈夫なのおお!』

「ティファニス! 契約! とりあえずわかんないけど契約しよう!」

『うわあああああん!』

「とりあえずそっちいくから、ティファニスはそこにいて!」

『わかったよおおおお!』


両腕で頭を覆い隠すけど、隙間から破片がパラパラとあたっていく。


「え、えええええええええええ!?」


椅子から飛び起き急いで、ティファニスのいる天井の真下へと急ぐけど、いったんやめるしかなかった。私の目の前にあるテーブルが勝手に動いて、壁へぶつかりにいったのだ。ミシミシと壁は嫌な音をたてにいく。私はテーブルにぶつからなかったことに安堵すると、体を強ばらせティファニスの真下についた、とたんに壁に線が走り、線は枝分かれしていく。そして壁に線が走り、線が枝分かれしていった。私は髪に絡む破片を落とさないで周囲を見回す。開いている窓。ティファニスは天井。


「はああ!?」


目の前にいたはずの黒野の姿が見当たらない。さっきの言葉からすると襲撃から気づいて、逃げたのか。閉まっていた窓があいているのだ。あんな数瞬で、ここから窓へむかい、開けて・・・・・・、と。どうして、私とティファニスを放っておいて逃げたのか、と裏切られた、と嫌な感情に舌打ちした。そもそも、黒野と私はそこまで親密な関係ではないのだ。急がないといけない。


『うわあああああああああん!』

「簡単な契約でお願いね、この場から切り抜けられそうなの!」

『うん! うん! いくよ!』


ティファニスは私の両頬をつかむと、額に口をつけた。あのときみたいに閃光がはしり、私は目をつむった。


あ、なんかちがう。

私はすぐに全身の変化がわかった。なんといえばいいのかティファニスが私の全身を包んでいる。実際にティファニスが私を包んでいるんじゃなくて、そう感じるだけだけど。たぶん魔力が流れている、でいいんだろうか。未知の経験だ。体の流れる血管が、外で新たに生まれるような感じ。なんていえばいいのか。私のもう一つの体みたいだ。これは


「なんだか強くなった気分」


私は数秒自分の体の外見に変わりがないかを確認し、我にかえった。刃物を持っていた彼女の外見に何かのおかしいところなんかなかったのだ。なら契約した私にもある可能性はないとおもう。いまにも壁はミシリミシリ、と壊れている。まずは外に。


「ティファニス逃げるよ!」

『うわああああん! わかったよおおお!』


私はすぐに、部室から動かなくてはいけない。ティファニスを呼ぶと、私の肩近くにくる。窓に近づくも、すぐに思いとどまった。ここは三階なのだ。私が飛び降りて助かるはずがない。ならどうやって? どこに?


「ティファニス、私をつれて安全にとべる?」

『うう?重いものもって飛んだことないからわからないよ!』


そもそも、今は不可視の状態なのだ。ティファニスが私を不可視にできるかなんてわからない。それに、人が飛んでいるのを誰かに見られたらまずいとわかる。ここの校舎は人気が少ない。なんだか強くなった気がするし、木に掴まっていくことはできるかもしれないと思うけど、私には無理と判断する。そんなこといきなりできるか。カーテンを引きちぎり縄にして逃げるというのも浮かんだけど無理。時間があると思えない。


『どうしよう!? どうしよう!?』

「え、えええ! これ、なにかティファニスなんかないの!?」

『うううう! 私一人なら逃げられるよ!』

「私も逃げたい!」


ティファニスは私の頭上でふよふよまわりながら考えている。私も何か考えようにも思いつかない。部室の扉をみて、あとどれくらいで開くのか・・・・・・と考える間にあいてしまうかもしれない。もうこのさい、窓から飛び降りるか。


「ティファニス! ここにいるのもだめだし――っ!?」


ティファニスの腕をつかもうとして止めた。部室の扉が、隣の教室と部室を遮る壁が、完璧に崩れ落ちる。言いかけた言葉の続きをいうよう


「死ぬといいんじゃないかな」


――声が聞こえた瞬間、風を咲く音が聞こえた。死ぬといいんじゃないかな、って。なにそれ?


「はっ!?」


ティファニスとの契約した恩恵か、危険に対しほとんど本能的に身体が反った。こんな動き、アクション映画でしか見たことがない。というかどうして私はこんなかっこよく動けたの。いや、そうじゃなくて、数時間後には必ず私の背中が筋肉痛になっている。


そしてすぐ、一瞬遅れて、とんという音が鳴る。


「え、ええええ!?」

『きちゃったよおおおおおおおお!』


おろおろと考えていたせいで、もう時間切れなのだ。教室と教室の堺にワンピースの彼女が刃物を手にしたっている。彼女の足元には刃こぼれした刃物が散らばってあった。


「さすがね。やっぱり悪魔と契約してるのってウザイ」


反った真上で、黒いものが通った。ちょっと、まった。これって……

そんな言葉とともに、彼女が踏み込んでくる。その両手にあるのは


「ちょ、ええええ!?」

「うるさいわよ!」


綺麗な刃物だと思った。月の光に照らされて青白く映えているナイフ。最初にみたときはただのナイフだとおもったのに。彼女の足元に散らばっているのも、手にしているのも、私に向かって投げたのも、ただの刃物じゃないとわかった。


「てぃ、ティファニス! どこ!? こ、これどうしよう」


困ったように言いながら、足下にある残骸を取り、まとめて彼女へと投げつける。少しでも彼女の気を逸らすことができるといいなと思ったのに


「! へえ、やるじゃん」


彼女はにやりと面白そうに笑っただけだ。ティファニスの返事もない。


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