replica to story 001 やさしい言葉で囲む家
森に迷い込んだ兄・妹、ハル・ミオは、スマートフォンの電波も届かない場所で、〈お菓子の家〉ならぬ、"やさしい言葉があつまっている家"を見つける。
空腹と不安に包まれながら、その家に足を踏み入れた二人は「助ける」と言う言葉が時には檻になることを知っていく。
置き去りにされることと、自分で帰る事を選ぶ物語。
森の奥でハルとミオは迷っていた。
「お兄ちゃん、もう、歩けないよ・・・」
十歳のミオが兄の袖を引っ張る。十四歳のハルは、スマートフォンの画面を何度も確認したけど、圏外の表示が変わらない。
二人は午後の散歩に出たはずだった。母が入院して三日目父は仕事で、家を空けることが多くなり、二人きりで過ごす時間が増えていた。
「少し歩こう」とハルが言い出したのは、ミオが泣きそうな顔をしていたからだ。気が付けば、見知らぬ森の中にいた。
ー ー ー ー ー ー
「あそこに、何か見える・・・」
ミオが指を指した先には家があった。
それはほんとに小さな家だった。気でできた壁に、丸い窓、煙突から白い煙が立ち上がっている。
壁には文字が刻まれている。
"だいじょうぶ/ここにいていいよ/守ってあげる/何が食べたい・・・"
優しい言葉が家全体にきざまれていた。
「・・・入ってみようか」
ハルがドアをノックすると、中から女性の声がした。
「どうぞ、いらっしゃいませ」
二人が仲に入るとうす暗い部屋に一人の老婆が座っていた。
背中は丸く、目は細く微笑している。
「この森に迷い込んだのね、お腹が空いてないかい?」
老婆はテーブルに、温かいスープとパンを並べた。
ミオは目を輝かせたが、ハルは警戒を強めていた。
「ありがとうございます、僕たち帰らなきゃ」
「帰るってどこへ、帰るのさ」老婆は首を傾げた。
「あなたたちを置いて母は病院・父は仕事誰もあなたたちを探していないのに?」
ハルはドキッとした。何で知ってるの?更に疑った。
「ここにいていいんだよ、私が守ってあげるから、誰も傷つけない、誰も責めない安心の家なんだよ」
老婆の言葉は、甘く温かく、そして重たく感じた。
ミオはスープを飲み始めた。ハルも断る理由を見つけられず、困惑していた。
一日が過ぎた。老婆は二人に小さなベットを用意し、食事を与え、何も求めず、言葉をかけ続けた。
"無理しなくていいのよ/ここは安心/ゆっくり休みなさい/・・・"
壁に刻まれた言葉がまるで生きているかのように、ハル・ミオを包んだ。
三日目の夜、
ミオが笑わなくなっていることに、ハルは、気づく。
「ねえ、お兄ちゃん、ここ出られるのかな・・・?」
ミオの声は震えていた。
「どうした?」
「おばあさんは優しいけど、ずっと、見られてる気がして・・・何か言おうとすると、すぐ、『大丈夫』って言ってくる でも、"大丈夫"って言うたびに、ミオの中で何かが消えてくきがするの」
ハルはミオの手を握った。
その時、老婆が部屋の奥から現れた。
「どうしたの、眠れないの?」
「おばあさん、僕たち、やっぱり帰ります」
ハッキリと、言った。
老婆は一瞬、顔がくもった。
「帰る?なぜ、ここは安全、大丈夫な空間だ、外は危険で、あなたたちを、必要としていない」
「それでも僕たちは帰ります」
「守っているのは、この私よ、」
「それが束縛で、檻だ」
ハルは壁を見つめた。
"大丈夫 大丈夫/守ってあげる/・・・"
この言葉は鎖に見える。
「おばあさん、僕たちを『助けた』んじゃない、ここに、縛ったんだ、僕たちが自分で決めることを、遮断したんだ」
老婆の顔が歪んだ。
「なら、出ていくがいいさ、誰も助けてはくれない」
「それでもいい」
ハルはミオの手を引いてドアに向かった。
振り返ると老婆は立っていた。その顔は悲しみなのか、怒りなのか、判断つかない表情が浮かんでいた。
「あなたたちは後悔する」
「選ぶのは僕たちです」
夜明け前二人は道に出た。疲れ果てたミオは笑っていた。
「お兄ちゃん寒いね」
「うん」
やがて遠くから車の音が聞こえてきた。
二人は自分たちの足で家に向かっていた。
誰かを助けること・守る事・支えること、それらは確かに尊い行動。でも、その助けが、相手にとって、選択を奪い、自由を奪い、依存を生み、閉じ込めるものだったとしたら、それは、ほんとの"やさしさ"とは言い難いでしょう。
この物語が誰かの心に、小さな勇気・気づき、の種を蒔くことができたら、幸です。
最後まで拝読ありがとうございます。
♧♧♧♧ じゅラン椿 ♧♧♧♧




