61・さすがだな
レオルは脱力したように、深々と長い息を吐く。
「伝言役の男からリシアを誘拐したって聞かされて、不安で仕方がなかったのに……。着いた途端、こんなの見せられて。俺は怒ればいいのか、笑えばいいのか、憐れめばいいのか……。いや、違うな」
レオルは腕を伸ばして、私をすっぽりと抱きしめてくれる。
「無事でよかった」
レオルの声が、心なしかかすれている。
「俺の見えない所で、リシアが人質に取られているなんて聞かされたんだ。冷静ではいられなかったよ……」
その言葉に、私がレオルにとってどのような存在なのかわかった気がした。
「心配をかけて、ごめんなさい。だけど安心して。あなたの昔のお友達は一応無事よ」
「……ん? どういうことだ?」
「レオルは私を人質に取ったフロイデン達が、首を吹っ飛ばされているかもしれないと、ずいぶん心配していたのでしょう? 確かに果樹園の話を聞かなかったら、やってしまっていたと思うの。危なかったわ」
レオルは少し体を離して、私を問いただすように見つめてくる。
「リシア、色々と言いたいことはあるけれど。一体なぜそんなことをしようとした?」
「もちろん、レオルが悩んでいるみたいだったから、余計なものは排除しようと思って。だけど話しているうちに、果実園で作っている果物が美味しそうだったし、あなたと昔は仲が良かったみたいだし……とりあえず力で解決するのはやめておくことにしたけれど、いいわよね?」
「……さすがだな」
褒め言葉のはずなのに、そう聞こえないのはなぜかしら。
私が首を傾げていると、フロイデンの顔を拭いていた男の大声が響いた。
「おまえら、どうしちまったんだよ! 坊ちゃんが美味そうな匂いをさせて倒れているのに……そろそろ目を覚ましてくれっ!!」
その声量に驚いたのか、フロイデンたちが悪夢から目覚めたかのように悲鳴を上げて辺りを見回している。
視線が私で止まると、トムとサムが懇願するように泣き叫んだ。
「ひいっ! 姐さん助けてくれ! 祟り猫が! 祟り猫があっ!!」
「許して、許してくれえぇっ……!」
成人男性二名が、かわいそうなほど震え上がっている。
どう見ても克明に恐怖が刻み込まれているようだし、ディノの存在を知られるのも困るので、気のせいだったと思ってもらえたらいいのだけれど。
「な、何のこと? 私が戻ってきた時には恐ろしい異形の猫の群れなんて見なかったし、いなかったわ! 悪夢でも見ていたんじゃないかしら?」
私が心苦しくも丁寧にごまかしている間、レオルはちょっと怒ったような顔になっているので、笑いをこらえているのがわかる。
トムとサムは顔を見合わせた。




