54・果樹園と過去
フロイデンの顔にさっと緊張の色が走ったけれど、彼の背後にいる二人の男は狼狽しながらも黙っていられないのか、次々と威勢のいい声を上げた。
「なんだとっ! 俺たちは坊ちゃんを守り続けてきた猛者だ! 俺は過去、みんなが恐れる虫を退治した英雄だと喝采を受けている!」
「俺だって巨大な斧を振って大樹を薪にしまくってやったことがある! あのデカさを倒したんだ、みんな俺をきこりの神が乗り移った勇者だと騒いでいたぜ!」
どうやら荒事に向ていないのは図星らしい。
思えば初めて会った時も物々しい感じではあったけれど、フロイデン達が乱暴な事をしたというより、ボリーに嫌われて襲われていただけの気もする。
「そういえばどうして、あなた達はレマノルト王国まで来て、コシマさんを星石師にしようとしていたの?」
率直に聞くと、男たちは困ったようにフロイデンを見つめた。
「俺たちは、坊ちゃんとまた果樹園をやりたくて……」
「果樹園?」
思い起こせばフロイデンはレオルに「果樹園を続けたい」みたいなことを言っていた気がする。
「そういえばコシマさんも果物に詳しくて、私の作っているビスケットに入れる果実の相談に乗ってくれているのよ。果実園を経営していたフロイデンのお父様に仕えていたからかしら」
何気なく聞くと男たちの表情がぱっと明るくなって、先ほどまでの印象ががらりと変わった。
フロイデンも瞳に明るい光を浮かべて私に言う。
「カシュラ王国では果実が日常的に食べられていて、父の後を引き継いだ僕たちも色々な果物を作っている。それに父の時代にはまだ子どもだったアドレもサリアもよく遊びに来ていて、うちで作った果物が一番おいしいと喜んでいたんだよ。そうだ、君はサリアのことを知らないのか?」
フロイデンは、私と会ってから初めて笑顔を見せた。
「彼女はアドレの姉君で、本当に果物が好きでね。ただ彼女の好きなものは栽培が難しいものばかりだったから、他の果樹園でも取り扱いが少ないけれど、我が家ではそういうものを中心に育てていたからね。会うときはいつも、どんな果物が出てくるのかと楽しみにしてくれた」
「へぇ、私も食べてみたいわ」
私の相槌に、フロイデンは自分が夢中になって話していたことに気づいたように口をつぐむと、少し照れくさそうに顔をしかめて視線を逸らした。
たったそれだけのことだったけれど、彼にとって果樹園と過去の思い出が、とても重要な部分を占めていることが伝わる。
「あなた達、帰って果物を作った方が似合うと思うわ」
「帰る、か……」
フロイデンの眼差しに、自嘲的なものが浮かんだ。




