49・もう一つの名前
男たちの珍回答に若干怒り気味の青年以外は、私に優しすぎるくらい何も気づいていなくて感謝しているけれど、でも。
私、レオルに注意されていたのに……魔力暴発を発表するかのように人前で使ってしまったわ。
ちらりと視線を送ると、レオルは普段しないような、妙に挑発的な態度で青年を見た。
「あんたはあの風魔法程度で、暴発だと勘違いするほどの威力を感じたのか? 中途半端な知識をひけらかす前に、体を鍛えた方が良いかもな」
言いながら手を振り上げると、一人の男が着けていたバンダナが吹き飛び、周囲の者は驚愕の表情を浮かべる。
「うおっ、すげぇ!」
「今の魔法か!?」
「手品みたいだな!?」
暴発よりずっとわかりやすい魔法に感動したのか、男たちが少年のように騒いでいるその鋭い風の流れは、ルネが得意な風の刃によく似ていた。
現代で魔法が使えるのは珍しいと聞いたけれど、今の魔法、レオルよね?
今まで全く見せなかったのは隠していたからだと思うけれど、きっと私を庇うために風魔法を使ったり、わざとあんな言葉づかいをして彼らの気を逸らそうとしてくれているんだわ。
青年は信じられないものを前にしたかのように目を見開いて、レオルを見つめている。
「アドレオルト……?」
何かしら、それ。
私は先ほどの男たちのような珍回答すら思いつかなかったけれど、コシマさんの表情が固まったので、何か意味のある単語らしい。
驚きに見開いた青年の視線が私に向くと、レオルがすぐ目の前に立って遮ってくれた。
「彼女は見せ物じゃない」
「その女性のつけている髪飾り……サリアがつけていたものでは?」
「知らないな」
青年の瞳に、さっと怒りが差した。
「そんなはずはない! さっきの風魔法、幼い頃に見た祭典の演舞で見覚えがある。カシュラの王族は風魔法を得意とする血筋が濃く流れているし、君の顔立ちだって……」
「世界は広い。カシュラの王族以外にも魔力のある者はいる。黒髪碧眼の男はもっといる」
「アドレ、僕だよ、フロイデンだ! 僕たちの親が暴政を行ったとして処罰を受けてから、君も生きづらい人生を過ごして来たのは想像がつくけれど、僕に隠すことはないじゃないか。僕だって、君とサリアが行方をくらませてから色々あった」
「何度も言わせないでくれ。それは俺の知らない話だ。それにあんたはコシマさんに用があったんだろう? 先約はこっちなんだ。子犬をいじめるようなことはやめて、早く済ませてくれないか」
「……知ってるだろ? 僕が昔から、犬に嫌われやすいこと」




