47・難易度が高すぎる
ぱくり。
レオルは私が食べかけているビスケットを頬張った。
「あっ!」
私はむぐむぐしている端正な横顔に呆気に取られていたけれど、彼の青い瞳にちらりと目配せされて、ようやく自分の失態に気づく。
「レオル、それは私の食べかけなの!」
「知ってる」
「えっ? ご、ごめんなさい! 私、あなたが人のものを食べるほど飢えているとは気づかなくて……あの、まだ新しいものがたくさん」
「……いい。満足した」
「一口で? 少食過ぎない?」
「違う。最近リシアが構ってくれないから、拗ねてたんだよ。言わせるな」
私ははっとして、レオルが食べて残り一口となったビスケットを見つめた。
そうよね。
私がレオルに構わずむしゃむしゃやっていたら、食べかけのビスケット以下のような気持ちになってもおかしくないわ。
「レオル、それは誤解よ。私、かじりかけのビスケットよりあなたの方がずっと大切だもの」
レオルは微妙な表情を浮かべて黙っている。
「本当よ。今はまだ、信じることすら難しいかもしれないけれど、わかってもらえるように努力するわ」
心を込めて訴えると、レオルはこらえきれないように笑いだした。
「それ、喜んでいいのか? まあいいや。努力って何するんだ?」
「あなたと一緒にいる時は試作のビスケットのことを一旦忘れて、拗ねないように構い続けるわ」
「それはいいな。せっかくだから抱きしめてもらおうか」
「えっ!?」
それは……難易度が高すぎないかしら。
意識すればするほど、隣に座ったレオルとの距離が開いていく。
「リシア、そこまで椅子の端に寄ったら落ちるぞ。おいで」
「だって私……思えばレオルを抱きしめたことがないような」
「はい、どうぞ」
楽しげなレオルは手綱を片手で持ち、空いている私側の腕を向けて待っているので、私は何度も指を伸ばしては失敗を繰り返しながらも、最大限の勇気を振り絞ってようやくつんつんつつく。
「触れたわ!」
「俺は汚物か。ほら、見本」
私の肩にレオルの片腕が伸びてきて、そっと引き寄せられた。
顔が熱くなってきたのを感じて、私はそれを隠すようにうつむく。
レオルがふとしてくれることで、突然心臓が高鳴って治まらなくなるのは、一種の病のようにも思えた。
「リシア、こっち見て」
「……からかわないでちょうだい」
「俺は真剣だよ。顔、上げて」
つまり、真剣にからかっているのね。
すぐ動揺するから、そうしたくなるのかもしれないけれど。
私がもっと冷静に、理性的になれたら……そうよね、理屈で説得すれば、この悪癖だって直るかもしれないわ。
「レオル、動揺した私の顔なんか見てどうするつもり? 別に、その……そう、見たって何も起こらないわ。これを機に、意味のない行動を控えるべきだと思うの」
「意味はあるよ。目が合ったら、次にすることはひとつだろ」




