35・星石師
「平気よ。一人でも歩けるわ」
「顔、真っ青だぞ。ふらふらっと転んで、うっかり大きめの浮遊石を弾いたらひどい事になる」
確かに……。
文字通りお荷物となっていると、レオルとくっつくほどそばにいる時にしかわからない、私の好きな香りがした。
「リシアと会ってから、退屈できないな」
レオルに苦笑いされながら、先ほどの野原まで戻ると、ふらふらしながらも自分の足で歩いてみる。
レオルは暴発を使った私の手のことを忘れていなかったらしく、ほとんど痛くもないと伝えたけれど、辺りの野原で見つけたマジックハーブを握らせてくれて、そのまま手を繋いで歩いた。
コシマさんは小川に寄ってボリーに水を飲ませている。
「リシアさんもレオルさんも、さっきはありがとう。おかげでボリーもワシもこうして無事だ。ところで……二人はなぜ、町から離れたこの実りの高地へ来たんだね?」
「私がレオルに頼んでここまで連れて来てもらったんです。オルドー様は忙しくて、なかなか落ち着いて食事を取るのが難しいようなので、手軽に栄養補給できるものを作りたくて、一緒に材料を探していました」
「そうだったか。奥様はよく旦那様の偏食を心配なさっているようだし、完成すればとても喜ばれるだろうなぁ」
「そうだ。コシマさんも、味見してくれませんか?」
私はコシマさんに試作のビスケットの入った紙袋を渡すと、ボリーが鼻を寄せて興味を示している。
レオルは動物を相棒にしている冒険者の知り合いがいるらしく、犬に味付けの濃いものは良くないと教えてくれたので、ボリーには素材の味だけがわかるように試作したものを渡して、みんなで小腹を満たすことにした。
コシマさんはビスケットをとても気に入ってくれて「これを食べた旦那様の喜ぶ顔が浮かんでくるよ」とか「動物用のビスケットも欲しい人がたくさんいるんじゃないかね。なぁボリー」と声をかけると、ボリーも元気に鳴いてくれる。
「そうだ、ワシがオルドー様の前に仕えていた貴族の果樹園にはビスケットと相性の好さそうな果実がたくさんあってね、ワシも果実には少し詳しいんだよ。ワシの家の近くに色々実っているのを教えるから、今度二人で食べにこないかい」
「ぜひ行かせて欲しいわ! ね、レオル」
「ああ。コシマさんに教えてもらって、色々な果実の風味を作っても面白そうだな。これだけ味が良ければ、あのオルドーでもいけるだろうし。だけどコシマさん、果実もそうだけど浮遊石についても随分詳しいんだな。二種類あるとか、相性によって上昇したり下降したりとか。知らなかったよ」
「そっちはワシも本当の所はわからんのだがね。ワシの祖父が、隣国の星石師だったんだよ。小さい頃に、色々教えてもらってなぁ」
耳慣れない言葉に、私も質問する。
「星石師? それは何ですか?」
「流星の石を作るんだよ」
ますますわからなくて首を傾げると、コシマさんは懐かしいことを思い浮かべるように空を見上げた。




