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3-2 疑惑のDゲームらしいですよ(2)


 とはいえ、視界がぼんやりとしているだけではなく、ドキドキ画面が強制的に下を向いて硬直してしまうため探索がやり辛い事この上ない。

「あー、どうやらこれは苦痛のデバフっぽいな。どうやら空腹度が更に下がってた時でも発症するみたいだな」

 ゾンビサバイバルゲームで強制的に動きが止まるって死活問題だよな。

 現実世界でのサバイバルと同様に、食料と水分って奴は人間にとって大切なんだな。

「ウマ! ついにっついに見つけたぞ!」

 やっとの事で見つけたアイテムの名前は、非常用飲料水(半腐)というものだった。

「……トラ?」

「……なんだウマ」

 一瞬前とは違って非常に落ち込んだ声色の大河。

 アイテムのグラフィックがペットボトルに入った水っぽかったから喜んでいたらしく、アイテム名を見て絶望したみたいだ。

 上げて落とすか、鬼畜だな。

「トラ。とりあえずアイテム詳細の確認をしとくぞ」

「……む。そうだな!」

 もはやヤケクソだな。大河の奴。

「……えーと、そうだな。とりあえずこれを使えば渇き度は回復するみたいだな。一応」

「最後に付け加えられた一応という単語が物凄く不安感を与えてくるわけなのだがウマ。そこはどう思う?」

「大丈夫だ。安心しろ」

「なんだ。大丈夫なのか」

「ああ。ただ半分の確率で食中毒のデバフにかかるだけだ」

「凄まじく危ない奴ではないか!」

 俺の大丈夫だという言葉を聞いて、早速アイテムを使用しようとしていた大河だが、食中毒という言葉を聞いて顔を真っ青にしながら叫んでいた。

 大河のコントローラーでは、メニューを開く事は出来ないけれど、画面下に映っているショートカットインベントリ内のアイテムは使う事が出来るからな。

 あくまでショートカットインベントリ内であって、普通のインベントリ内のアイテムを使えるのは俺だけだ。

 ショートカットインベントリに登録出来るのはたったの九種類だ。

 大河の性格からあいつが自分の意思ですぐに使いたいと思うものを置いておかないとな。

 そういう操作もやるのは俺の方だ。

 俺と大河は幼馴染だし、互いの性格をよくわかっているコンビだ。

 他にもコンビ実況はいるけど、俺たちほどまでに阿吽の呼吸が出来る奴らっているのかな。

 ……苦労するだろうな。

「くっ! 水! 水はどこだ!」

「水ならあるぞ!」

「何っ!? どこだ!」

「九番だ九番!」

 ショートカットインベントリ九番。そこにあるのは言うまでもない、非常用飲料水(半腐)だ。クククッ。

「だぁ! それはアウトだ! 求めているのはリスク無しで飲める綺麗なお水なのだ!」

「正気になれトラ! 俺たちが今やっているのはサバイバルなんだ! リスクを冒すこともなく、サバイバルを生き抜けると思うなよ!」

「くっ! た、確かに……」

 そんな簡単に納得しちゃだめだろ。

 チョロいヒロイン、略してチョロインか。まったく。やれやれだぜ。

「まあ流石に今の状況でリスクを冒す気にはならない」

「ウマ!?」

 突然意見を一転させた俺に動揺を露わにしちゃっている大河ちゃんマジ可愛い。

 普通のゲームでならこれくらいのリスクはどんとこいやって感じだけど、今回はゲームでの状態が俺たちの感覚にもリンクしている。

 僅かにでもデスゲームの可能性があるのだ。出来るだけノーリスクの方がいい。

(とはいえ、このまま飲まないでいるのもそれはそれで危ないんだよな)

 渇き度を考えれば、苦痛のデバフと食中毒のデバフ、どっちを取るって話だな。

(えーと、食中毒のデバフ内容はっと)

 ヘルプの検索から食中毒について調べてみた。

 どうやら食中毒になると時間経過で減る空腹度と渇き度が加速するみたいだな。

 それから時折腹痛エフェクトが発生すると。

 食中毒はアイテム使用か、十回腹痛エフェクトが発生すると治るらしい。

 となればだ、これは食中毒の方がまだマシじゃないのか?

 苦痛状態の今はたまに動けなくなるだけじゃなくて、視界が悪くなっている。探索には不向きだ。

 それにまだこのゲームに関しては慣れてないからな。視界はちゃんとしていた方がいい。

「トラ。詳細確認した。水を飲め」

「ななな、なんだとおぅ!?」

 盛大に慌てている大河。

 まあ当然だ。腐った水を飲めと言われているのだ。普通に考えたらイジメ以外の何物でもないのだが、少し魔法の言葉を使わせてもらおう。

 ゲームだから。これ。

「ほれ、ほら。早よ」

「うぅ、ううううう」

 俺からこういう指示があった場合、トラはそれに従うといういつものパターンがある。

 ちなみに、従ったからといって毎回それが正解だったとは限らない。

 たまに盛大なミスに繋がって、ゲームオーバーになった回数は片手じゃ数えられないほどだ。

 だが、飲め。

「う、ううううううっ」

 完全に素が出ている大河は、目尻に涙を浮かべつつも、俺の言う通りにそれを飲んだ。

「「うっ!」」

 そして俺たちは同時に口を抑えた。

(これは!)

 口の中に広がる生臭く酸っぱいテイスト。

 そうだとは思っていたけれど、やっぱり食べたり飲んだりしたものの味覚も俺たちにダイレクトでやってくるらしい。

 ……これは、ゲームだからといって危なそうなアイテムは使えないな。

「……これは本気でもう飲みたくないな」

「うううううううううあうあうあう」

 あまりの気持ち悪さに大河が壊れたか。

 仕方があるまいっ。

「……あ。これは……」

 ステータスを開いて渇き度マイナスによるデバフが消えているか確認しようとしたのだが、残念な知らせを見つけてしまった。

「トラ。どうやら食中毒に掛かったぽいな」

「なななっ! 確か五十パーセントの確率で発症しないのではなかったのか!?」

「同じように五十パーセントの確率で発症するんだよ」

「くっ……」

 俺からは見えないけれど、きっと悔しそうな顔をしてるんだろうなー。

「とはいえ、渇き度は回復してるっぽいからな。一先ず問題っーーっ!?」

 問題は解決したと言おうと思った瞬間に、俺の頭から電撃が走った。

 実際には、強烈な腹痛に襲われた。

「あわわわわわわわわわっ!」

 どうやらそれは大河も同じらしく、後ろで大河の若干面白い悲鳴が鳴っていた。

「……な、なるほど。これが腹痛エフェクトって奴か……」

 しばらくの間悶え苦しんだ後、俺はその結論に至った。

「まさか、ただゲーム上の処理で動けなくなるんじゃなくて、俺たちにリアルダメージを与えて動きを封じてくるとは」

 苦痛モーションと違って画面は動いていなかった。

 大河は完全にノックされていたからわからなかったけど、多分あの痛みに耐えさえすれば、動くことは出来るんだろうな。

 多分だけど。

「とはいえ、これはあれだな。動くのは無理だな」

 リアルダメージが激しいわけだし、これはやばいかもしれない。

 主に大河の精神がだ。

「むがぁー! もう怒った!」

「おー。トラが覚醒した」

 ゲーム中のストレスが一定値を超える事によって発動するスーパーモード。

 なんだ大河はこの状態になると恐怖を感じなくなるのだ!

 ……ただのやけくそモードとも言えるな。わらわら。

「ウマ! 確か薬があればこの状態は治るのだったな!」

「ああそうだな。だけど、薬は結構なレアアイテムっぽいぞ」

「探す探す探す探す探すー!」

 ホラーゲーム特有の雰囲気にビクビクして、慎重になっていたプレイ内容から突然激しいプレイに変化した大河。

 怒りで恐怖を超越したって感じだな。

 次々と建物内に設置されているアイテムボックス((かっこかり)仮)(かっこ閉じ)を開けていく大河。

 よくあるゲームの宝箱と違って、このゲームは箱をまず壊してロックを解除するシステムのようだ。

 俺たちはまだツール系アイテムを手に入れていないため、見た目では素手で木箱を殴り開けてる感じだ。

 そうして表面の木箱を壊す事によって、中からダンボール箱が出現しやっと中のアイテムを取り出す事が出来る感じだ。

 アイテムを取ると、ダンボール箱は壊れてなくなる。

 その状態になるともう調べる事が出来ないため、取り逃がしというか、持ち切れない量のアイテムがあると、もう取り直す事は出来ない感じのようだ。

「うーん。そろそろ手持ちがやばいな」

 アイテム収集スピードが上がったせいで、手持ちアイテムの増えていくスピードが凄まじい。

 同じアイテムならスタック出来るけど、違うアイテムは当然それが出来ない。

 スタック量もアイテムによって違うみたいだし、アイテムの用途とかを想定して整理した方が良いな。

(まあ、どれを何に使うかまったくわからないけどな)

 とりあえずたくさん手に入るアイテムは箱に戻すように言っておいた。

 十数箱開けて、一個や二個しか手に入らないアイテムはレアアイテムだろうけど、ほぼ開けるたびに手に入るアイテムはそこまでレアじゃないだろうからな。

「よっしゃー!」

 突然大河がキャラでも素でもない声で、喜びの雄叫びをあげていた。

 俺しか見る事が出来ないアイテム一覧から目を離し、手で大河の姿は見えないように隠しつつ彼女の画面を確認すると、なんと現在表示中のボックス内アイテムにその名があった。

[鎮痛剤]

 その名前を見た瞬間、俺はなんとも言えない気分になった。

「ウマ! やったぞ! 念願の薬を手に入れたぞ!」

 顔をこっちに向けて満面の笑みを見せてくれる大河。

 俺と目があったけれど、俺の手隠しポーズを見たおかげなのか恥ずかしがる事はない。

 その事については信頼されていて嬉しいと思うのだが、俺はとても悲しかった。

「なあ、トラ?」

「なんだウマ?」

 俺は優しい笑みを浮かべて、ちょこんと首を傾げている大河にそれを言った。

 無慈悲に。

「鎮痛剤で食虫毒が治ると思うか?」

「……あ」

 次回更新は金曜日です!

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