3-3 疑惑のDゲームらしいですよ(3)
リアルを追求しているこのゲームならば当然というべきだが、薬は一種類じゃない。
「詳細を見る限り、どうやら鎮痛剤は数回小量の体力を回復させるアイテムみたいだな」
「……そうか」
どうやら大河はそれどころじゃないらしい。
まあ、悔しさとか羞恥心とかでやばいだろうからな。
「さあトラ。落ち込むのはそのくらいにして、続き探すぞ」
「……そうだ、なっ!?」
突然大声を出す大河。
だけどそれは俺も同じだ。
俺たちは揃って叫び声を、いや、うめき声をあげていた。
えーえー、察しの通りだ。
二度目の腹痛エフェクト発生中だ。
「……あー、二度目でも突然来るとやばいな」
本当に突然痛みがくるから、それが軽く恐怖だ。
「……うぅ」
おやおや、まだ二回目だってのに大河のメンタルがほぼほぼやられてるな。
「大丈ーー」
「……ばない」
「……ばないか、だよなー」
俺だってキツイんだ。女の子である大河はもっとキツイだろうな。
まあ、どこかで男よりも女の子の方が痛みに対する耐性が高いって聞いた気がするけど、それは確か妊婦さんの話だったか?
大河は一度やけくそモードが切れちゃったからな。もう一度そうなるには時間がかかるだろう。
(大河は少しの間回復しそうにないな。とはいえこのゲーム、ポーズがないみたいだし、建物内とはいえ放置するのは危ないと思うんだよな)
一時的にポジションを変えるかと、大河に提案しようとした時だった。
(ん? 今何か見えなかったか?)
視界の端に何かが見えた気がした。
画面で言えば背後。
立ち上がり、画面に近付いて確認してみると、
「っ! 大河ゾンビだ!」
「え!?」
俺の声に反応して大河が慌てる音が後ろから聞こえた。
「わわ! 本当だ!」
俺の背後で大河はこっちを向いているんだろう。
声色が明らかに動揺している。
当然だ。なんせ俺も動揺してるからな。何故なら。
(ゾンビッリアルッキモッ!)
俺ですらきもち悪いと思うんだ。そういうのがダメな大河にとっては、最悪だろうな。
「トラ! 今すぐ逃げるぞ!」
「に、逃げるだと!?」
「無駄な戦闘は極力避けるべきだろ!」
「し、しかしっ! いつまたあの痛みが来るのかわからないのだ! 逃走中に来ては終わりだぞ!」
「それは戦っても同じだろ!」
ゾンビ物のホラーゲームの中には戦っても勝てないってパターンがある事もあるけど、それは問題ない。
このゲームはちゃんとゾンビと戦えるタイプだってのは、確認済みだ。
とはいえ、素手で勝てるかって問われると怪しいとしか言いようがない。
慣れていればどうにかなるかもしれないけど、こちとら初見なんだ。玄人プレイは無理だ。
つまり、ここは逃げの一手に限るはずなんだ。
「う、ウマ!」
戦うのか逃げるのか迷っていたら、すでにゾンビがすぐ目の前に迫ってしまっていた。
「くっ! しゃーないっトラ! 戦え!」
「承知した!」
現在トラが選択しているアイテム、つまり手に持っているアイテムはさっきボックスから手に入れたアイテムの一つ、角木材だ。
そう素手じゃない! ならば知能の低いゾンビの一体如き、倒せるはずだ!
「えい!」
角木材を振り下ろすトラ。
『ごあっ』
野太い悲鳴が響いた。
どうやらちゃんとダメージが通っているらしい。
RPGとは違って、ダメージが数字で表示されるわけじゃないから分かり辛いけど、悲鳴をあげたってことは当たったって事で良いんだよな。
「おっ、トラ! このゲーム打撃でもヘッドショット判定があるらしいぞ! 狙え!」
「うむ! 承知した!」
とはいっても標準で狙う事が出来る銃と違って、打撃攻撃は頭をピンポイントで狙うのが難しそうだな。
このゲームのゾンビは結構動きが激しくて、まるでロックライブに行っているみたいに頭が上下している。
どうやら大河はそんな頭を狙ってちょくちょく外してしまっているようだ。
それに、一番の問題は別にある。
「痛い痛い痛い痛い痛いよ!」
ゾンビの攻撃を食らうと俺たちの感覚にまでダメージが走るのだ。
実際に受けた時の痛みと比べればだいぶ小さいだろうけど、それでも十分痛い。
例えるからば攻撃を受けるたびに口内炎が痛むかのようだ。
「うう、口内炎と同じくらい痛い。辛い」
まさかの大河と例えが被った。普通かぶるかそこ。
「ほらほら。トラファイト〜」
「うぅー、傍観者だからって余裕そうにしてー!」
「いや、俺も痛いからな?」
トラのダメージはトラウマのダメージなんだ。
おっと、また一発良いのをもらったな。これは例えるなら持久走の途中で感じる脇腹の痛みだな。
「うう、持久走の後みたい」
だから何故かぶる。
大河の下着姿が見えないように手で隠しながら、正面画面を見ているんだけど、これはなんとも危ない感じだな。
大河はさっきから、攻撃の瞬間だけ前に出て、それが終わると同時に下がる。
所謂ヒットアンドアウェイ戦法で戦っているんだけど、このゲームタイミングがシビアらしく、ノーダメージ攻撃の成功率が凄まじく低い。
「ぐぬぬ、難い」
また、俺たちはゲームのうまさがウリってわけじゃないけど、それでもこれは酷い。
大河が悪いんじゃなくて、これはシンプルに難易度が高過ぎるんだ。
俺が見ている限りタイミング完璧だろって感じの時でも、相手の攻撃がヒットするからな。
「にしてもこいつ体力あり過ぎじゃないか!?」
結構な回数攻撃してるけど、それでも倒れないなんて、雑魚敵のはずなのに体力多過ぎだろ!
そう思った途端だった。
「……ふう。倒したぞ」
その場に崩れ落ちたゾンビ。
画面の中心にゾンビを当てて決定を押すと、まるでアイテムボックスのような画面が開いた。
「なるほど。倒すとエミネー姿のボックスになるのか」
「そんな感じっぽいな」
ドロップアイテムが残るとかでも、剥ぎ取りとかでもなく、敵自身がアイテムボックスになる事だ。
いや、でもこれってある意味剥ぎ取りか?
「……はぁ、一体でもこんな苦戦するとはな。複数体と遭遇したら逃げるしかないな」
「ちょっトラ!?」
こいつはいきなり何を言いやがるんだ!?
俺たちは実況者。ある意味芸能人みたいなもんだ。
そんな俺たちは持ってるものがある。特に、こういう状況の大河は特にだ!
そう。フラグ回収という才能だ!
『アアァアアアア』
通常のアではなく、濁音が付いていそうなアだった。
聞き覚えのある声。
……そう、これはさっきまでずっと聞いていたうめき声だ。
ゾンビのな!
「ちょちょっ。しかも三体!?」
「ああもう! やっぱりトラは回収班だな!」
「う、うるさい! に、逃げるよ!」
慌てるあまり若干素を覗かせる大河。って、こんな冷静に分析してる場合じゃねえ!
「トラ! ゲームだからと言って二階から飛び降りたりするなよ! 骨折って状態異常があるからな!」
「りょ、だ!」
このゲームでそうなったらどんな目に合うかなんて、簡単に想像が出来るからな。怖いわ!
ゾンビの間を縫って部屋から無事脱出したトラ。
ゾンビは走る事なく、ヨタヨタと歩くだけだから逃げるだけなら簡単だな。
「ふう。……ふっ、歩くしか能がないとはな」
「おいこらやめろ」
おそらくニヤリとした笑みを浮かべながら言ったであろう大河。
だけどそのセリフは明らかなフラグだ。
俺が言ったり思ったりするのは大丈夫だろうけど、大河、お前は駄目だ。
「……何故だ?」
「……あれ?」
そんな俺の心配はどうやら杞憂だったらしい。
無事に店の中から脱出したトラ。
これは絶対に追加のゾンビや、何かしらのアクシデントが起こるフラグだと思ったんだけど違うのか?
「とりあえずは安全圏まで逃げた方が良さそうだなっ!?」
このタイミングでやってくる腹痛エフェクト!
これはつまりそういう事か!?
逃走途中のアクシデント。完全なるフラグ回収じゃねえか!
(やばい!)
俺たちが痛みで悶えている間に、さっきまで居た店から三体のゾンビがワラワラと出てきてきやがった。
「と、トラ……動け……るか……?」
「む……り…………だよぉ」
デスヨネー。
だけど、これで腹痛エフェクトは3回目だ。効果時間が同じなら、そろそろ終わるはずだ。
動けるようにさえなれば、ヨタヨタと歩く事しかできないゾンビから逃げる事ぐらい余裕だ。
スタミナの概念があるけど、今こうして動けない事でマックスまで回復してるからな。
逃げ切るのは十分に可能だ。
(って、さっきからこういう事を考えると見事にフラグを回収しているような……)
ま、まあ心配ばかりしても仕方がないな。
良し、腹痛エフェクトが終わったな。
それと同時に大河はコントローラーを操作して、トラを全力疾走させた。
「ふふっ、逃げ切り十分だな」
「そうだな」
これはフラグとかじゃない。何故なら何かあるとすればそれは精々もう一度腹痛エフェクトが来る程度だが、それが来たとしたももう安全圏だ。
休んでいる間にスタミナも回復するし、勝ち確だ。
……と、考えた事。それこそがフラグだったらしい。
「と、トラ! なんかゾンビども走り出したぞ!?」
「な、なんだってぇー!?」
地味にネタに走ってる場合じゃねえ! ネタだけじゃなくてゾンビが走り出すとかどういう事だよおい!
「う、ウマ! もうスタミナが!」
さっきの戦いのせいで既にトラの体力は半分を切っている。
一匹相手でもそんな有様なんだ。
三匹と同時に戦うなんて無謀以外の何物でもない。
だからと言って逃げるスタミナなんてないし、走ったとしても速度は同等。逃げ切る確率はゼロだ。
つまり、戦って勝つ。それ以外に生き残る方法はない。
「う、ウマぁー!」
大河の焦った声が聞こえる。
だってそうだろ? 可能性としては低いと思う。だけど、それでも僅かにでも可能性があるんだ。
ここまでリアルにキャラクターの状態が俺たちに共有されるこのゲーム。
もしもトラがゲーム内でとはいえ、死んでしまったら?
もしもその時が来てしまった時、俺たちには一体どんな感覚が共有されてしまうんだ?
……死……か?
「ウマぁ! どうしよう!」
「に……いや、戦うぞ!」
「そんな!」
「どっちにせよ逃げるのはもう無理だ!」
このゲームのスタミナ消費は走る時だけじゃない、攻撃する時にも一定量が減るんだ。
あらかじめ確認してるけど、攻撃時にスタミナがその一定量に足りていない場合、攻撃する事が出来ない。
つまり、このまま逃げ回ったとしても最後に待っているのは攻撃出来ないほどまでスタミナが消耗された状態で、三体のゾンビと戦うという修羅場だ。
ならば、覚悟を決めて戦った方が生き残る可能性は僅かだけど高い。
正直言って本当に僅かの可能性だ。
だけど、何もせずにただこいつらに食べられるのを待つほど、誰かが助けてくれると思うほど楽観的じゃないんだよ!
「わ、わかった!」
キャラを操作しているのは俺じゃない、大河なんだ。
大河が覚悟を決めてくれないといけなかったが、どうやら覚悟を決めてくれたみたいだ。
一人でならキツイかもしれないけど、俺たちトラウマは二人で一つ。
四つの目でこのピンチを切り抜ける活路を見出してみせる!
次回更新は来週の金曜日です!
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追記・インフルエンザの影響で次週更新が間に合いそうにありません。
次回更新は再来週の金曜日とさせていただきます。
申し訳ございません。
追追記・職場の仲間たちが順番にインフルエンザに倒れてしまっているため、休みがない状態が続いてしまっています。
そのため執筆に割く時間がまったくありません。
夜に時間を取ると、今度は私が負けてしまいそうですので、次回更新は二月十六日とさせていただきます。
どうか皆様もインフルエンザにはお気を付けてください。




