3-4 疑惑のDゲームらしいですよ(4)
お待たせしました。
そんな風に覚悟を決めた瞬間にそれは聞こえた。
「な、なんのだこの音は!」
慌てる大河の声と共に連続して聞こえるバァンという炸裂音。
これは……銃声か?
「っ!? ゾンビがっ!」
おそらく目をまん丸にしているであろう大河の表情を思考の端っこで想像しつつ、俺は現状を理解しようと思考力の大半をフル活動していた。
「大丈夫ですか!」
「「っ!?」」
突然聞こえた声に俺たちは揃って肩を跳ねさせた。
声が聞こえた方、半壊しているものの建ってはいる建物の屋上に眼をやると、そこには俺たちとは違ってちゃんとした服に……訂正、下着の上にちょっと布を巻きましたよ程度の格好をした美少女が片膝をついていた。
手に物騒な物を持っているその少女は立ち上がると、なんとそのまま屋上から飛び降りた。
「え!?」
慌てた声を上げて少女の落下地点に向かって走り出すトラ。だけど今更動き出したところで間に合うはずもなく、少女は地面にーー
ーー着地した。
「「おお!」」
見事にスチャッと決めた少女に、俺たちは思わず声を揃えていた。
「お怪我はありませんか?」
トラに近付きながらそう声を掛けてくる少女。
こっちの心配をする前に、あの高さから飛び降りて大丈夫なのかこっちが心配しているわけなんだけど、少女の声色から察するに何かあった様子はない。
キャラの状態と本人の状態が共有される。ヘルプの中には状態異常・骨折というものがあるって書いてあったし、リアルを追求しているっぽいこのゲームならば、落下で骨折になると思うんだよな。
過去にリアルで足を骨折した事があるけど……あれは痛かった。あの痛みの中に普通に喋るなんて無理だと思う。
女性は男性よりも痛みに対する耐性があるって話を聞いたような気もするけど、流石に無理だと思うんだよな。
「あ、ああ。私は問題ないが……あの高さから飛び降りて大丈夫なのか?」
「え? あ、やっぱり知らない人の方が多いですよね」
目を丸くしながら心配するいつもの大河にそう言うと、照れたように頬を掻く少女。
「あれくらいの高さなら着地と同時にジャンプすればダメージはないんですよ」
「ほう。それは良い事を聞いた」
「あ、でもどんな高さでも大丈夫って訳じゃないと思いますので、緊急用の知識として覚えておいてくださいね?」
「うむ。承知した」
もしもゾンビたちに追い込まれた時には結構役に立ちそうな情報だな。
だけど、どうしてこの少女はそんな事を知っているんだ?
ヘルプのどっかに書いてあったのか?
「私はトラと名乗っている実況者。失礼だが君は?」
ここにいるって事は少女も顔出しをしている実況者だって事だ。
そんな相手に君は誰ですかだなんて問いは、常識的に考えても失礼な話だからな。
「あ、私は最近顔出しを始めた駆け出し実況者のマユマユって言います」
「ふむ、マユマユか。知らなくてすまないな」
「いえいえ、まだまだ登録者力十くらいの雑魚ですので知らなくて当然です」
手を腰に当てて何故か「えっへん」みたいな感じでそういう少女……改めマユマユ。
ちなみにこのマユマユってのは勿論のことだが本名じゃない。
言うまでもないと思うが、彼女の実況者としての名前だろうな。
「トラさんは[トラウマ]のトラさんですよね」
「その通りだ。知っていてくれているとは嬉しい限りだな」
そう言って俺の背後で興奮しているご様子の大河。
俺たち実況者ってのはチャンネル登録者数が多かったとしても、実際に応援のメッセージとかを送ってくれる人ってそこまで多くないからな。
いや、ちょっと訂正。他の実況者たちはわからないが、俺たちのところにそういうメッセージをくれる人は少ないからな。
大河は結構感情豊かだから、こうやって直接そんな言葉を貰うと嬉し過ぎて興奮するんだろうな。
俺だって密かに喜んでるわけだしな。
次回更新日・3月2日
結局インフルエンザに負けました。




