忘れないもの。
ようやく完結です。
これまで散々投稿が遅れ、がっかりさせた方も多いかと思います。それでも読んでくださり、ありがとうございました。皆さんの感想やブックマーク、励みになりました。感謝してもしきれないと思っています。
この先も何か書くでしょうが、縁があれば、また読んでやって下さい。本当にありがとうございました。とても楽しかったです。
時は来た。緊張した顔の一条が冒険者たちを引き連れ、僕の前に立つ。そして白沢たちは僕の後ろで、同じく緊張した面持ちをしている。僕が人間の敵であるか否か。判断したのかは分からない。これから判断するのかもしれない。だとしたら、最初の一言が重要だ。僕は口を開いた。
「ふふふ、人間どもめ。その魔力を渡して立ち去るがいい」
「うははは!さもなくば消し炭にしてやろう!」
僕と一吾は開口一番にそう言った。
「二人とも何やってんの!」
「「いて!」」
「真面目な場面だから!もっとシリアスな顔して!」
「いや、言ってみたかったんだよね……」
「うははは!」
圧倒的な魔王感をかもしだしたのは一瞬で、すぐに森山に叩かれた。呆気にとられた表情の一条たちがこちらを見ている。
「や、やあ成瀬。相変わらずだな」
「まあね」
それから僕はやっと真面目な顔になった。と思う。今度こそ、人間の敵になるか否か決めようか。
「話をしよう。大事な話だ」
「今更何を言っている!」
大山は怪訝な顔だ。
「落ち着いて聞いてほしい。それとも今すぐ殺し合う?」
「俺は構わねえが」
沼田は気が早すぎる。これ日本に帰って大丈夫か?
「僕らはこの世界に勇者として来たわけだ。でも実態はどうだった?魔族の言葉に耳を傾ける事をせず、ただ人間のみの言葉を聞き、無知に争うだけじゃなかったか?」
「……」
全員が黙って聞いている。いい調子だ。演説は好きじゃないが、仕方ない。最後に少しだけ、勇者として働こう。
「僕は争いの元を知ったよ。実に下らない。本能だとさ」
「何!?」
「ふざけんな!」
この世界の冒険者たちから怒号が飛び交うのが聞こえる。
「僕たちは本能に抗えなかった。だから殺しあった。憎みあうようにプログラムされたままでは、この連鎖は切れない。だから、協力して欲しいんだ。
魔族を殺してきた僕らが、勇者として胸を張って生きるには、もう遅いのかも知れない。でもね、そんなの重要じゃないんだよ。僕には、まだやることがある。前に進もう!」
「……」
主に勇者たちへ、僕はこれが言いたかった。世界を救うなんて大それたこと、考えたこともなかった。前だって邪竜を倒しただけだ。世界なんてどうでもよかった。でも今回はみんながいる。歯を食いしばっててカッコつけるなら、今だ。
「どうかな?一条」
全員から信頼の厚い一条が決断を下せば、ほとんど決まったようなもの。僕は彼の言葉を待った。
「……いつもなんだかんだで、成瀬はいい奴だ」
「はは、何笑ってんの」
「俺は、何をすればいい?」
ーー決まった。こうなればこっちのもんだ。次々にクラスメイトたちは同意した。
「ミヅキ!本当に出来るんだな?」
「ま、やってみるよ」
フェイスが聞いてきた。絶対に成功するなんて言わないけど、全力は尽くすよ。
「お前には憧れてる。小さい時から聞かされた。勇者の英雄譚……。その主人公がお前だった。ミヅキ、信じていいな?」
「照れ臭いこと言うよねえ」
フェイスも協力してくれそうだ。冒険者の信頼がある彼女だから、何人もついてきてくれそうだ。昔のことを掘り返すのはやめて欲しいんだけど。
「父上、ファーナシスの国王は言いました。ナルセミヅキの話を聞け、と。私も信じます。伝説の勇者様を!あとイチジョウも!」
「クリスティーナ……イチジョウがメインなんじゃないの?」
「そ、そんなことありません!」
とりあえずこれで、大勢は決した。冒険者、そしてファーナシス国王が協力してくれる。
「俺も信じるぜ!」
「伝説の勇者様が言うなら……」
「ばーか、今は月下の狂人なんだぜ」
「おお、そうか!狂人!狂人!狂人!」
「「狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!」」
なぜそこで狂人コール?もう忘れようよ、そのあだ名。というか忘れてください。
「やめて……もう恥ずかしい」
「まあまあ、良かったじゃねえか水月」
「「狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!狂人!」」
「……やっぱり、人類滅ぼした方がいいのかな?」
「ちょ、落ち着け」
思わず紅雪を呼び出したが、一吾に止められてしまった。
ーー
とにかく満場一致で僕の味方についたので、全員に作戦を
伝える。
「ざっくり言うと、みんなの魔力を分けてもらって、世界中に僕の『忘却』を撒き散らし、人間が魔族を憎む本能、魔族が人間を憎む本能を忘れさせようという作戦です」
「超ざっくりしてるな……」
「準備は整えておいた。あとはみんなの魔力を魔法陣に根こそぎ注ぐだけだよ」
一条たちを待つ間、僕とレイナは『忘却』の魔法を広範囲に発動できるよう、魔法陣を展開しておいた。あとはそこにありったけの魔力を込めればいい。
一応説明はしたが、分かってない奴も半分くらいいるだろう。別にいいけど。
「じゃあ一条、合図ヨロシク」
あとは丸投げだ。
「え?俺?成瀬の方が……」
「いいんだよ」
「そうか」
一条は少し真面目な顔をしたらなんか納得してくれた。皆が配置についたところで、彼は一段高いところへ立った。
「さあ!世界を救う勇者は俺たちだ!やってやろうじゃないか!」
「「「おおおおおおお!」」」
「はじめッ!」
そして始まった。僕らの最後の戦いが。
「忘却」
魔法陣が発動する共に、魔力が吸い取られていくのが分かる。世界丸ごと魔法をかけるなんて無茶だ。でもやってやる。
「「うおおおおおお!」」
「「はあああああ!」」
一条も、大山も、清水も、鈴木も、沼田も、柿崎アンド野村も、白沢も、森山も、一吾も……あとごめん名前思い出せない。とにかくみんなが必死に魔力を注ぎ込む。
冒険者たちも額に汗を流しながらも、決して魔力を止めようとはしない。ケヴィンを筆頭に強力な冒険者も数多く参加してくれた。
「レイナ!あとどれくらい必要!?」
「残り三割ってとこだねえ!アンタ達!踏ん張りな!」
しかし、冒険者は一人二人と倒れていった。魔力枯渇で気絶してしまったのだろう。次々と仲間が倒れていく中で、ついに勇者たちも倒れ始めた。
「チッ!あと少しだってのに!」
「成瀬……あとは託す」
そして巨大な魔法陣に魔力を注ぐのは、わずか数人となった。残る勇者は五人。
「ミヅキ!いつぞやの決闘、楽しかったぜ!」
ほとんどの冒険者が倒れた中、ケヴィンが声をかけてきた。ほとんど叫び声に近い。
「こちらこそ!」
「だが俺を水で押し流したことは忘れねえからな!」
「あはは、それはごめん」
「じゃ、あとは頼むぜ……」
そして剣聖も気絶した。
「仕方ないねえ。あたしも手伝うよ!」
見かねたレイナも手を貸してくれた。賢者様と呼ばれるだけあって魔力の量は段違いだ。しかし流石に厳しいようで、少し震えている。
「老人が無理して死んでも知らないよ?」
「ははっ!もう千年以上生きたからねえ。アンタにももう一度会えた。思い残すことはないねえ」
「化けて出るのはやめてくれよ?」
「どうかねえ……会えて、良かっ……たよ……」
「あとは若者に任せて。休んでな」
レイナも気絶した。魔力量は一条よりも上だろうが、魔力の扱いに長ける彼女は一度に大量の魔力を流すことが出来た。だからすぐに気絶してしまったのだ。
「一条!沼田!まだ行ける?」
「もう限界だ……!」
「くそっ!魔力が足りねえ!」
二人ももう限界だ。
「成瀬、ありがとう!頼りきりだったな」
「俺も礼を言うぜ!神聖国家じゃ目を覚まされた!」
「「あとは任せた!」」
二人は笑って気絶した。
「まったく。二人とも人任せじゃないか。でも、よく助けてくれた。お礼を言うのは僕の方だよね」
直接は流石に照れ臭いので、今言っておく。ま、これも恥ずかしいんだけど。なぜならーー
「なにデレてんだよ、水月」
「一吾、こういう時は聞かなかったことにするのが礼儀だよ」
まだ一吾は一緒にいてくれた。白沢もなんとか意識を保っている。
「やっぱお前が最後まで残るよな」
「一吾も残ってるじゃないか」
「どうせ水月が最後だと思って、少し魔力をセーブしてたんだよ」
「私も……」
なにやってんの、この二人。
「お前に言いたかったからな。色々と」
「……こんな時に愛の告白でもする?」
僕は笑っていったが、一吾は真剣な表情になった。嘘……冗談だよね?本当に告白とかしないよね?
「ありがとな。こっち来てからお前に助けられたよ。お前が落ち着いてたから、俺も冷静でいられた」
あ、そういう感じね。
「こちらこそ。今だって、僕が一人になると思って残ってたんだろ?」
「それが親友の務めって奴だ。起きたらまた、頼むぜ。……俺はもう邪魔みたいだな。水月、泣かすなよ?」
親友、と照れ臭そうに言った後、一吾も気絶していった。最後に白沢をチラ見して、不穏な一言を残して。
「一吾クン?ちょっ怖いんだけど!何!?」
「ねえ、成瀬……」
「ハイッ!」
なんか怖い。怖いよ白沢さん。なんでそんな見つめてくるの。
「あとで、話があるから。じゃ」
「待って!」
白沢がそれだけ言ってさっくり気絶しようとしたので引き止めた。一吾め……分かったよ。
「何?」
「僕も言わなきゃいけない事がある」
「……」
「……君が好きだ」
言ってしまった。まあ、最悪忘れよう。忘却で。そう思っていたが、白沢は予想外に嬉しそうだった。わずかに笑い、答えをくれた。
「私も」
そして白沢は気絶した。
「前言撤回。絶対忘れるものか」
僕は最後の魔力を振り絞った。大魔王セフィルとの約束を果たす時が来た。彼は言っていた。憎みあう本能が無ければ、争うこともないだろう、と。
どうだろう。僕はやることはやる。あとはこの世界の人々に任せるよ。
「はあああああああああッ!」
気絶する寸前、魔法陣が強く光り、空を覆うのが見えた。やった!僕は思わず笑って意識を手放した。
ーーーー
後日、とある高校の教室にて。
「文化祭の出し物、劇をやりたいんだけど。どう思う?」
「「さんせー」」
一条の言葉に、僕を除いた全員が頷いた。
「な、成瀬は?」
「はんたーい。断固反対」
「おいおい水月、多数決は絶対だぞ?」
一吾が人の悪い笑みを浮かべてこっちを見ている。
「あのね、おかしいよ。演目が浦島太郎とかならいいさ。なに?高校生が異世界に飛ばされて戦う話って」
「いいじゃん。なあ?」
「それしかないよな?」
「他に思いつく?」
「ナイナイ」
おい落ち着け。明らかに身に覚えのある話だぞ。
「どう考えても実体験をやるつもりだよね?僕の役は誰がやるわけ?どうせ僕なんだろ?」
「当然だ」
「やだよそんなの。そもそも思い出して?結末結構地味だったよ。魔法陣の周りで気絶して終わりだよ」
僕達が全力で忘却の魔法を使った結果は、成功だった。人間と魔族はお互いになんとも思わなくなり、争いは終結した。
そしてなんだかんだお祝いしてた時に、僕らは日本に戻ってきたのだ。向こうとこちらは時間の流れがずれているので、僕らが失踪したのは数日間だけになっていた。それでも騒ぎにはなったが「みんなで山籠りしていた」という雑な言い訳で乗り切った。
そしてコレだ。何考えてんの?異世界転移モノの劇って。身に覚えしかないよ。
「いやです。絶対いやだー」
「諦めろって。あ、忘却使っても無駄だからな。台本もうあるから」
一条が早くも作ってきた台本を見た時、驚いた。本当に予想通りだった。しかも僕が意外と目立つ。結構ヤバイ役だ。笑いながら戦っている怖い子だ。
「白沢、なんか言ってやってよ」
「いいと思う。私は賛成」
あれから出来た彼女は冷たい。
ーー
そして数日後。僕は諦めて役に徹した。
劇の評判は良かった。
「いやー、面白かったな」
「なんかリアルだったよね」
「でも、成瀬の役ヤバくない?」
「分かる〜。でも似合ってたよねー」
その話はやめて下さい。他の人の演技を褒めて下さい。特に沼田とか、結構豹変してたじゃん?なんで僕ばっか……
「もう殺してくれぇぇ」
「よしよし」
白沢は慰めてくれるが、二番目に恥ずかしいシーンは白沢関連だ。
「お、成瀬クン良かったよ。彼女役もな」
「というか彼女だし」
一吾は一通り冷やかしてくる。そろそろ我慢の限界だよ。
「観客全員に忘却かけていいかな?いいよね?」
肩を握りつぶす勢いでつかんでやった。
全員が能力を持ち帰っている。僕もまだ魔法が使える。一応日本で絶対に力を使わないとクラスメイトで話し合ったが、その約束を破ることも辞さない。
「でも、俺たちは本当に帰ってきたんだな」
「なに真面目な顔しちゃって……そうだよ。もう誰とも殺し合う必要はない」
「ちょっと残念そうだな?剣道部とかどうだ?」
「今更やだよ。清水なんて剣道部が生温いって愚痴ってたよ」
「異世界に染まってんな……」
それぞれ影響がないわけじゃない。この世界が退屈だと思う瞬間もあるだろう。でも僕らは僕らの世界で生きていこう。
「ま、良かった。今こうして笑えるから」
「僕を除いてね」
「……」
こうして僕らの物語は終わった。この先また召喚されるかもしれない。いや、流石に三度目はないか。二度あることは三度ある?悪い冗談は忘れよう。
ともかくこれでいい。勇者としては胸を張れないけど、人として胸を張れればそれでいいんだ。
なんかグダグダな終わり方になってしまい申し訳ないと反省しております。
気が向いたらでいいんですけど、感想やアドバイスなど送ってくだされば嬉しいです。
「つまらねえクソ小説だぜ!」
とかでもいいので、是非お願いします。




