勇者、成瀬水月
更新遅れてほんとすみませんでした。完結までちゃんと書きます。ほんとすみません。
その日の夜中、こそこそと動く気配に、フェイスは目を覚ました。部屋の外に出ると、荷物を抱えたケヴィンと目があった。
「やべ……」
「どこへ行くつもりだ?」
「トッ、トイレだって」
「そんな荷物を抱えてか?」
「まあな」
ケヴィンはそそくさと立ち去ろうとする。怪しさ満点なので、フェイスはさらに問いただす。
「まさか、ミヅキ達と合流する気じゃないだろうな?」
フェイスは水月の顔を思い浮かべた。普段は気の抜けた顔をしているが、戦闘になると鬼神の様な戦果を挙げる。しかも意外と人望もある。そんな男の牙が、自分たちの方を向いている。
「そ、そんな訳ねえだろ?」
「誤魔化さなくていい。私も行こうと思っていた」
「そうだったのか。なら早いとこ行こうぜ。他の奴らに見つかっちまう」
「……やはりか」
カマをかけてみれば、ケヴィンはあっさりと引っかかってくれた。
「汚ねえぞフェイス!」
「行かせないぞ」
立ちはだかるフェイスを前に、ケヴィンは真面目な顔をした。
「お前らにとっては、アイツはただの勇者と変わらないかもな。でも俺たちにとって、アイツは特別なんだ」
「伝説の勇者、か?」
「小さい頃から親に聞かされてきたんだ。先祖と一緒に戦った凄え男だってな」
「……」
「そいつが今、なんかしようとしてる。子孫の俺が行かなくてどうすんだよ」
「しかし、人間を敵に回すつもりか?」
フェイスは剣に目をやった。
「あいつはきっと、何か考えがある。俺たちは信じてんだ」
「俺たち、だと?」
ケヴィンの口ぶりに、フェイスは怪訝そうに聞き返す。
「ああ。俺とクリスティーナはミヅキにつく」
「まさか!ファーナシスの王女まで人間を裏切るつもりか!?」
「王女だけじゃねえ。国王も、勇者の子孫なんだぜ」
「嘘だ……」
「クリスティーナはファーナシスに向かった。国王に説明するんだとさ」
呆気に取られるフェイスをよそに、ケヴィンは窓から飛び出した。
「お、おい!待てえ!」
「じゃあなフェイス!俺は行く!」
そうして一目散に、ケヴィンは魔族領へと走り出した。
ーー→
僕が皆さんに喧嘩を売ってから二日が経った。魔力も体力も完全に回復したので、動き始めることにした。
「じゃ、ちょっと行ってくるよ」
大魔王セフィルの墓に手を合わせると、僕はその場所を後にした。
「おい、みんな集まってるぞ」
僕が野営地に戻ると、一吾が出てきた。これから行うことを皆に話しておく為に、集まってもらったのだ。
焚き火を囲んでいるのは五人。一吾、森山、白沢、ケヴィン、そして僕だ。
「で、何をするの?」
全員の視線が集まったのを感じると、僕は口を開いた。
「人間と魔族には、全てを忘れてもらう」
聞いた途端、みんなはポカンと口を開けた。何言ってんだ、と言いたげだ。
「大魔王を倒した以上、僕らがあとどれくらいこの世界にいるかは分からない。でも約束は約束だ。例え僕が去ったとしても、あの約束は絶対に守る」
「しかし……忘れるってどうやんだよ」
その答えはもう出てる。勇者らしくない能力だと思っていたけど、役に立つ時があってもいいはずだ。
「僕の魔法、『忘却』を全世界にかけて、魔族と人間の対立を無くすんだ」
「はぁ?無茶言うなよ!」
一吾が叫び、みんなも頷いている。流石に世界規模の魔法なんて、理解できないのは分かる。
「セフィルは言ってたよ。人間と魔族が争うのは本能だ、と。でも『忘却』なら、本能だろうと関係ない」
「理屈は分かるが……本気か?」
「もちろん」
「はぁ……」
僕の答えに、一吾は諦めた顔をした。それなりに長い付き合いだし、なんとなく分かるんだろう。
「もし仮にやるとして、莫大な魔力が必要じゃない?」
「そう、その為にレイナも呼んだ」
僕がそう言うと、魔法陣が浮かび、レイナが現れた。
「大魔王を倒したかと思えば、今度はアンタが大魔王になる気かい?」
「ま、近いよね。人間と魔族を改竄しようなんて」
「あーあ、全く手に負えない馬鹿だねえ」
最近、ほぼ全員に呆れられている気がする。
「で、『忘却』の効率化と、出来そう?」
「いくら効率化と言ってもねえ、流石にこの場の全員から魔力を絞り出しても、世界には届かないよ」
それは当然だろう。僕だって流石に無理だと思う。が、
「明日来る勇者達や兵士から魔力を貰えば?」
「それなら可能性が……ミヅキ、まさか!?」
「必要なら、僕は明日……」
「それは駄目!」
白沢の制止する声が聞こえた。
「そこまでして、約束を守るの?自分を鬼にしても!?」
「白沢……僕は、覚悟したんだ」
「……馬鹿」
白沢は目に涙をためてうつむいた。森山も、一吾も暗い顔をしたので、安心させるように笑った。
「もちろん、最初は話し合う。協力してくれるはずだって僕は信じてる。勇者が平和を望まないでどうすんだって話だよ」
「それもそうだな!」
「そうね、私は何をすればいい?」
「まず大規模な魔法陣を作ろう。レイナは魔法陣を効率化して、世界中に『忘却』が届くようにしてくれ」
「はいよ。アンタ達、気張っていくよ!」
「「はい!」」
こうして僕たちは、明日へ向けて動き始めた。
少し前の自分に、世界平和だなんて言ったら笑い転げるんだろうな……。




