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脱出

なんか駆け足気味かもしれません。

 

僕は紅雪の最も凶悪な能力「修羅」を発動した。明らかな危険を感じた沼田は銃を連射したが、僕には一発も当たらない。銃弾は空中で氷のつぶてとぶつかり、勢いを殺され地面に落ちた。


「まじかよ……」

「その銃剣、邪竜の力を宿しているみたいだけど、賢者にあった君ならわかるだろ?邪竜を倒したのは僕だ」


そういうと、僕は紅雪をはしらせた。沼田が咄嗟に出した銃剣を弾き、こめかみを打つ。が、寸前で避けられてしまった。


「やるねえ」

「チッ調子づきやがって!」


調子がいいのは事実だ。久々の修羅も暴走することなく使えている。沼田の動きは完璧に見切れているし、負ける要素がない。修羅は大人げなかったか。そんなことを思う余裕すら生まれていた。今も沼田が弾丸を発射したが、空中で凍り付いた。焦った沼田は剣での近接攻撃に転じてきたが問題ない。


「凍牙、氷矢、凍獄!」


三連続で氷の能力を使う。沼田はどれもよく防いでいるが、僕が背後に回ったことに気づいていなかった。


「くっ、いつのまに……!」

「僕の勝ちか」


紅雪が沼田の首筋を襲う。我ながら完璧な峰打ちだ。沼田は頭から吹っ飛んでいった。


「まあ気絶したでしょ。あとは一吾たちだけど……向こうか」


その時水道の奥からゴゴゴと音が聞こえた。僕は一条たちの所へ飛びあがると、いま状況が分かっていない彼らを水道へ落としたクリスティーナとケヴィンも落とし、最後に二人にこう言った。


「僕の素性やらなんやら、説明よろしく☆ちなみに水道を凍らせて脱出するとか言ったけど、あれ嘘だから。ここを流れてくと近くの湖に出るからよろしく♡」

「お、おい!お前はどうすんだよ!」

「一番重要な説明を丸投げしないでくだs……キャー!」


この時大量の水が皆を押し流していった。倒れていた沼田も無事流れたようだ。水の勢いはさらに増していき、すっかり一条たちの姿は見えなくなった。ただ最後に


「覚えてろー!」


というケヴィンの悲鳴が聞こえた。あらら、これは帰ったら山ほど文句を言われそうだ。それから僕は修羅を解き、教会地下の奥へ向かった。気配によるとこっちに一吾たちがいる。


□□□□


「よ、遅かったな」


番人を眠らせ、牢から一吾たちを助け出すと、一吾は呑気にそう言った。この野郎……置いて行ってやろうか。こいつを除き、白沢たちとの再会を喜びたいが、そうもいかない。ここで教会に見つかって、国を巻き込んだ大騒ぎになっては困る。ここに監禁されるまでの事情は後で聞くとして、僕は三人を連れて教会の外に出た。水道から出るなんてとんでもない。出たところで沼田と顔を合わせるなんて御免だ。彼のことは鈴木に任せておけば丸く収まるだろう。というかお願いだから丸く収めてくれ。そんなわけで僕は一吾たちを連れて城壁の方へ向かっている。


「どうやって出るの?」

「あの壁を壊しまーす」

「おいまじですか」

「勇者を全員回収した以上、神聖国家だって何も言えないだろうし」


勇者を監禁していたことを隠したい神聖国家としては、勇者を助けに来た者が壁を壊した。なんて口が裂けても言えないだろう。


「なるほどお」


と、素直に森山が感心している。そんな身習われても困るんだけど……

そうこうしているうちに僕たちが城壁の前についた。


「さ、やっちゃってください水月さん!」

「なにその腰の低さ」


突然卑屈になった一吾に思わず突込みを入れる。気を取り直すと、僕は紅雪を構えた。


「空刃・凍牙」


空間を切り裂く斬撃に氷雪の能力も加えた一撃は、三人が出るには大きすぎる切れ目をつくった。


「あ、やりすぎたかも」


これは流石に神聖国家が気付くな。ここでつかまっては意味がない。僕は三人を急かして全力で逃げ出した。


□□□□


ことの顛末を国王に報告した後、僕は家に引きこもっていた。どうやらケヴィンが盛大にバラしやがったようで、一条たちが僕を探しているらしい。一吾たちは依頼を受けに行っている。そもそも彼らが神聖国家にさらわれたのは、「商隊護衛の依頼に行ったら、商隊の正体が沼田を含む神聖国家の手の者だった」というシャレにもならない理由なのだが、それに懲りず今日も元気に出かけて行った。さて、この暇な時間をどうしようかと考え始めたころ、家の前に人の気配がした。どうやら一条ではないらしい。僕が応対に出ると、そこには国王からの使いがいた。


「また呼び出しですか」


一条よりはマシな客なので僕は出かけることにした。

王の前に出ると、今日はなにやら難しい顔をしているのに気付いた。


「どうかしましたか?」

「うむ……これを読んでくれ」


王はそう言って紙を渡してきた。他国からの書状らしく、丁寧な文面で綴られていた。要約するとこうだ。


『そろそろ勇者を最前線に寄こしてくれませんか?』


これは最前線、北方の国からのもので、あちらもいよいよ限界らしい。なんと僕らとは別口で召喚された勇者たちは全滅してしまったらしい。僕もこんな人生を送っている以上、畳の上でのんびり死ぬつもりもないが、同年代の死には驚いた。


「いよいよ人間も限界ですか」

「そうかもしれん。聞きたいのは、今の勇者たちが最前線で通用するかということだ」

「さあ?ここからは覚悟の問題です」

「そなたの覚悟は?}

「もちろん死地に赴くつもりです」

「そうか、行ってくれるか。では後から勇者全員を集めて他のものにも聞くとしよう」

「では僕を一足先に送ってくれますか?やりたいことがあるんです」

「うん?まあよかろう」


そんなやりとりをした後、僕は王宮を出た。やりたいこと、それは情報収集だ。八大魔王は残り七体だが、その能力を知りたい。それに水谷の動向も気になる。


「それにしても、なんで僕がこっそり自分の家に帰らなきゃいけないんだ……」


僕は今、屋根の上を飛び跳ねながら家に向かっている。気配を全力で断ち、空気と同化する。そうして家の窓の前に来ると、静かに開いて中に入る。あらかじめ家を出るときに開けておいたものだ。


「ふう、完璧」


そうやって自分をほめながらリビングに入り、目の前の光景を目にした途端、僕は唖然として膝を折った。


「なんで三人がいるんだ……」


リビングには一条、大山、清水の三人が、堂々と腰かけていた。あげく、おかえり、などとほざいている。僕は嫌な予感しかしなかったが、逃げるわけにもいかず仕方なく彼らの正面に座った。



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