稽古と侵入と報告
次の日、孤児院で過ごしていた僕達の元へ驚きの知らせが届いた。なんとコナーが部屋で殺されていたというのだ。それを聞いた時、一吾達は疑いの目で僕を見てきたが、僕は何もやっていない。そんなに怪しいのか?
「誰がやったのかね」
「さあな、魔族絡みじゃねえか?」
「確かに」
それが一番濃厚なように思える。やはりコナーは魔族に協力をしていたということか。ということはダンジョンの最奥に行く日を魔族に流したのはコナーなのか? しかし貴族とは言ってもコナーの家格はそんなに高くない。政治の中央に食い込んでいないので、知っていたとは思えないのだ。
「どこで絡んでいたのか」
魔族と勇者の中にいる内通者の橋渡しか?それなら現実的だ。殺したのも説明がつく。勇者が外に出ている今、橋渡しなんて必要ないのだろう。なら考えても仕方がない。次のことを考えなくては。
「水月、やっぱり闘技大会が怪しいんだよな?」
「うん、勇者が集まるのはそこだからね」
勇者の他にも腕に覚えのあるものが集まるので、そこを襲撃するのはリスクが高いが、成功すれば人類の戦力を一気に減らすことができる。魔族側も相当な強者を送り込んで来るだろう。魔王本人が来るというもあり得る。ゲームと違い、最終決戦は魔王城で行うとは限らないのだ。
「しっかし、どうやって来るんだ?魔族は」
そもそもファーナシスは対魔族の最前線じゃない。
最前線はもっと北のほうだ。北にも勇者がいるらしく、持ち堪えている。
「さあ、瞬間移動の固有魔法でもあるのかな?」
翼で飛んでくるという手段もあるが、大体どの国も障壁やら結界やらを張っていて、ただの魔族では通れない。魔将クラスなら通れるけど。
「あー!もうやめだ!わかんねぇことが多すぎる!」
「うん、後手に回るのは癪だけどそうするしかなさそうだね」
出来るとすれば、闘技大会での警備を強化する、などしかない。
ー
「ごちそうさまでした。」
「ほい」
「洗い物手伝おうか?」
「いいわよ、遊んできなさい」
「最近僕の扱いが子供と同等じゃない?」
「男なんてそんなもんよ」
「森山、それは雑だ」
白沢も僕を子供と同等に見ている気がする。この前飴をくれた。
「師匠!稽古つけてくれよ!」
「トーマ、師匠はやめてくれる?」
偽物達を追い払ってから、トーマは僕のことを師匠と呼ぶようになった。やめて欲しい。
「え?師匠は師匠だろ?」
だが一向に止める気配がない、どうしたものか
「ほら、成瀬、行ってきなよ」
「はいはい」
僕は森山に背中を押され、庭に出た。
ー
「ほら、隙だらけだよっ」
「くっそー!まだまだ!」
僕は片手で木の枝を持ち、トーマの木剣をいなす。
大きすぎる隙には、その都度攻撃しながら指摘する。
「おらああ!」
「甘すぎ」
大上段から振り下ろされた木剣を、簡単にいなし、頭にポカリと一撃を入れた。
「いってぇえええええ!」
見れば、たんこぶができている。
「まだまだ」
まあ十歳だからこんなものだろうとは思う。
「くそっ!見てろよ!ミズキより強くなってやる!」
「そうなることを楽しみにしてるよ」
そしたら立派な化け物の完成だ。僕が何もしなくても魔王は討伐されるに違いない。
「バカにしてるな!?」
「いやぁ?まったく」
「くぅー!アスカー!ミズキが虐めてくる!」
「汚いぞ、トーマ!」
それは反則だ。弟子よ。弱点をつけとは教えたけど、そこまで徹底しなくてよろしい。
「成瀬……何やってんの?」
案の定白沢は、気だるそうにやってきた。よしよし、とトーマをあやしている。
「いや、稽古してただけだから、そんな呆れた感じで見ないで……」
子供達に囲まれて、相変わらず人気のようだ。ちょっと疲れている。
「……」
白沢は何も言わずに立ち去った。
沈黙が一番辛い。何か言ってくれよぉ。
ーー→
深夜、黒いローブを纏い、闇に紛れた男が屋根を走っていた。その足は王城へと向かっている。男は門の前に着くと、それを軽々と跳び越えた。門番が気づかないのは、男の気配隠蔽能力が群を抜いているからだ。
男は中に入り、迷わず進む。やがて一つの部屋の前に辿り着くと、何やら魔法を発動し、部屋の前に立っている兵士を気にもせず中に入っていく。男のニヤリとした笑いが、暗闇に残った。
←ーー
「と言うわけで、闘技大会の警備を強化して欲しいのです」
僕は国王に説明をしていた。
知り合いの子孫とはいえ、王様なのだ。言葉遣いには気をつけねばね。
「いきなり儂を起こしておいてそれか?」
「……」
そうですよね〜言葉遣いどころじゃない失礼やっちゃってますよね、僕。
「まあわかった。よく知らせてくれた」
寛容な王様は大好きです。
「はい、一大事ですので」
「うむ、助かったぞ。あの貴族のところには何も証拠が残っていなかったからな。なぜ殺されたのかわからなかったのだ。まさか魔族がからんでおるとは」
「ですので、この件は内密で願います。信用できる者だけに伝え、必要以上広めないように。魔族に警戒されると厄介です。」
「承知した。ゴードンとロッタスには話しておこう」
「ありがとうございます」
これで闘技大会の警備の強化がなされるだろう。
「しかしナルセよ、よくこの部屋まで入ってきたな」
そう言う国王の目は、鋭く光っていた。そりゃそうだ。僕が暗殺しようと思えば、いつでも出来るのだから。
「ええ、まあ」
曖昧な答えを、国王の目をまっすぐに見て言う。
「ふっふっふ、面白いやつだ」
なぜか気に入られた?
「ご苦労であった。しかし今度からは深夜はやめてくれ」
「はい」
割と本気のトーンで言っていたので、今度からは絶対にしないことにしよう。
「しかし、王族に伝わる初代国王、シュルツ様の言葉に、『深夜の侵入者は勇者と思え』とあるが本当であったか」
なんで言い伝えてんだよシュルツ。




